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コンテンツ産業と製造業の違い 〜岸さんのご指摘について

2009/02/24 08:17
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村上敬亮

長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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 半分プライベートのような書き込みで恐縮ですが、日経のIT+PLUSで、コンテンツ学会の報告会における自分の発言について、岸さんから厳しいご指摘を頂きました。

 自分自身、メディア・コンテンツ課長という今のポストに着任して、半年強ですが、「ちょっとは、現場のことも分かってきたのではないか」という思い上がりと、気のゆるみが、無配慮な発言、愛の不足と言った、岸さんから一番厳しいご指摘を頂くような事態を招いたのだと思います。本当に申し訳ございません。ちなみに、学会終了後にも、何人かの方から類似の趣旨のアドバイスを頂いています。ありがとうございました。

 ここで、本件を取り上げようと思ったのは、そういう反省の辞ばかりではありません。

 僕自身の思い上がった発言と、岸さんからのご指摘のスタンスのズレは、まさに、岸さん自身が指摘されているような、「コンテンツ業界は製造業と違う」という論点を、わかりやすく浮き立たせるものだと思います。自分としては、自分の失言を自分で引用するのは辛いものもありますが(苦笑)、反省も含めて、両者を引用してみたいと思います。

 なお、乱暴なしゃべり言葉を多用している点についても、深く反省していますが、中途半端に引用を修正するのは逆に誤解を招くので、岸さんに引用していただいたとおりに記載します。 

 まず、岸さんに引用していただいた僕の発言です。

 「コンテンツ産業が儲かりたいから政府も支援しろと言うだけでは、その辺の兄ちゃんが“ボクは大事だから支援してよ”と言うのと同じ。制作の現場が本気で海外で成功しよう、成長しようと思っているのか極めて疑問。“今のビジネスが今の規模できっちり守られればいい。色々言われるけど何が悪いんだ”というのがコンテンツ制作で力を持つ人の本音ではないか」

 「制作の現場が・・・」とか、「今の規模で守られればいい」といったところが、また良くないと思いますが、余計な解説をしても言い訳になるので、そのまま続けます。

「ソフトパワーを支えるクリエイティブの現場は、どこもみんな下請け。資金調達も販促活動も自分でやらずに発注だけ待ち、当たるかどうかのリスクは取る。これは普通のビジネスセンスで言えば、“研究開発はやります。でも事業化に向けた販促活動はしません。資金集めもしません。でもボクに開発費はください。なんで君たちはそんなに冷たいんですか”と研究開発部門が言っているのと全く同じ。ビジネスリスクを取って努力するということをしていない」

 この部分が、製造業と同じではないという御指摘を受けるベースになっている部分です。

「“コンテンツ流通くそくらえ”と思っている。勝手に投資してチャンネルをたくさん作って、コンテンツが足りないから流通促進しろと言う人がいるが、流通で恒常的に過剰投資が起きているだけ。カネが余っているなら制作側に投資しろと言いたい。しかし、逆に言えば、制作側は投資を集める努力をしてきたか。資金調達はしない、販促活動はしない、当たる当たらないのリスクは取るけれど、そこまで全部おんぶに抱っこの状態なのに権利取られるとかガチャガチャ文句言って、どっちもどっち」

 この部分が、「愛が欠如している」とのご指摘を受けた中心的部分です。よもやネットで引用されることはないと思っていたのですが、考えてみれば学会という性格の集まりですから、当然です。そこから転々流通する時に、その部分だけ読まされる人の気持ちも考えて見ろ、というご指摘も、「愛の欠如」という指摘の中には含まれているような気がします。本当に申し訳ございませんでした。 

 こうした発言部分に対し、岸さんが丁寧に整理してくれたご指摘は、次のとおりです。 

 第一に、コンテンツ産業を製造業などと同列視している。しかし、クリエイティブな産業は、業界構造やマネジメントなど多くの面で一般産業とは異なるのである。非効率やビジネス的な緩さが素晴らしい作品を生み出す原動力の一つでもある。それなのに、製造業などの常識からコンテンツ産業のこれまでのやり方をばっさりと全面否定するのはいかがなものだろうか。

 第二に、コンテンツビジネスの実態に対する理解の欠如を感じる。著作権は、弱い立場の制作側が所得を得るための唯一の拠りどころなのに、それに代わるスキームを示すことなく“権利取られるとガチャガチャ文句言う”と発言するのは、制作側に対する無理解以外の何物でもない。

 第三に、コンテンツ業界に関係する者として耐え難いほどの“上から目線”である。コンテンツや制作現場に対する愛が微塵も感じられない。制作の現場が努力してないと本当に思っているのだろうか。誰もリスクを取っていないと本当に思っているのだろうか。勘違いも甚だしい。

 岸さんのご指摘を頂いて、たぶん、まず一番反省すべきは、最後の「上から目線」という部分だと思います。この部分が、多少勉強して、分かった気になった自分の気のゆるみに伴う、愛と配慮の欠如に該当する部分だと思います。この点については、ただひたすら反省するしかなく、引き続き、よく勉強させていただいて、コンテンツ業界のために具体的に何ができるか、更に精進させていただきます。としか申し上げようもございません。申し訳ございませんでした。

 更に、中身という点でも、コンテンツ業界の制作の現場と、製造業の研究開発を同列視するような整理をすべきではない、という指摘が胸に刺さります。 ここの違いを理解しないまま、コンテンツ製作の現場を断罪するような言い方をするのであれば、本人の意図がどこにあるにせよ、意味がない。むしろ、製造業とどこかどう違うかが重要なんだ。ということかと思います。 

 岸さんのご指摘の中でも、特に重いと思うのは、

  • 第一に、「非効率やビジネス的な緩さが素晴らしい作品を生み出す現場の原動力の一つ」という点。
  • 第二に、「制作者が弱い立場にいる」という点。
  • 第三に、「現場のリスク」は、資金調達も販促活動もなくても、とてつもなく重いものだという点です。

 こうして抜き出してみると、改めて、それは製造業の現場だって同じじゃないか。という指摘もあるかもしれません。製造業の現場だって、マネジメントを厳しく迫るだけではイノベーションは生まれないし、開発や製造の現場は経営に対して常に弱い立場にいることが多いし、資金調達や販促活動こそ、現場の追わされる厳しいリスクだ。こうしたご指摘もあるでしょう。

 でも、僕の知るかすかな経験の中でも、それは、必ずしも同列に見るのは難しい性格のものではないかなと思います。そこか僕の発言の軽率さでもあります。 

 第一に、コンテンツ制作の現場は、多くの製造業のように、メーカーの企業経営の枠組みの中では守ってもらえない、個人単位の活動であることが非常に多い。もちろん、中小製造業だって似たような側面はあります。しかし、僕が感覚的に知る範囲では、ビジネスとして全てがスタートする製造業と、まずは個人の感性や感覚が先にありきのクリエティブとでは、質的に違いがあるように思います。

 第二に、中小製造業の経営者の場合、中身のリスクと、資金調達や販促活動と言ったビジネスリスクは、両方負えて当然ですし、そういうものだという前提で市場競争が行われていますが、コンテンツの制作の現場で、制作プロデュースをとりまとめる方に、ビジネスプロデュースやそのリスクまで見てくださいとお願いするのは、逆に、クリエイティブな面での創作活動の質を落とすデメリットの方が大きいと思います。

 第三に、クリエイティブの現場というのは、非常にナーバスなものです。岸さんのご指摘もそこにあると思いますが、ナーバスな現場に対して、ただ、ビジネスリスク的に厳しいことを言ったところで、何ら問題の解決はもたらさない。むしろ、日々その点を、どう理解し合いながら、取組を進めていくかが、現場にとっては重い課題だということだと思います。にもかかわらず、そうした現場の苦労を無視して、ただ無配慮に発言しているから、「こうした無神経」ということになるのかなと思います。

 なお、岸さんのご指摘の中にある補償金の問題については、自分は当事者ですし、今日現在、政府内で合意ができていないのは事実ですので、特にここでコメントすることはございません。引き続き、厳しい交渉を一生懸命続けているのは事実です。しかし、結果が出ていない以上、日頃コンテンツ業界の皆さんに申し上げているとおり、BDの話を始め、一日も早く結論が得られるよう頑張るしかありません。

 特に、岸さんからご指摘のあったビジネスプロデュースのあり方については、本当に悩んでいます。僕自身も正直、どこにどういった形で人材育成をお手伝いしていけばいいのか、まだよくわかっていない部分があります。

 前回のエントリでCreative Industryの時代、などと書いている本人が、こうした形で指摘を頂くのも、何やら情けない話ではありますが、今回の岸さんからのご指摘を広く紹介することが、逆にコンテンツ業界に対する理解を進めることになるとも思ったので、敢えてとりあげてみました。

 岸さんには、後輩として、これまでもいろいろな形で本分野について教えてきていただいてきました。今回のご指摘に感謝するとともに、引き続き、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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