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Creative Industryの時代

2009/02/03 08:30
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プロフィール

村上敬亮

長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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  「今年一年を、Creative Industry(創造型産業)時代への転換点にしたい。」。 この一月は、そんな新年のご挨拶を、よくさせていただきました。これまでの話と重複する部分もあるかと思いますが、CNET上でも、簡単にまとめてみれればと。 

    *   *   * 

 金融危機の影響に加え、円高の進行による輸出企業の決算見通しの急速な悪化は、年頭の日本経済全体に暗い陰を投げかけました。

 コンテンツ業界はどうかというと、確かに、米国では、ハリウッド映画の映画館興行が国内外ともに過去最高額を達成するなど、不況に強いコンテンツ産業を実証したようです。しかし、我が国映画市場全体をみると、邦画が過去最高の興行成績を上げる一方で、日本ではハリウッド映画に元気がなかったため、やや前年を下回る実績となりました。また、アニメ制作、ゲームといった我が国コンテンツ産業の元気どころも、一昨年、若しくは昨年をピークに、少し数字を落としており、総じて観ると、コンテンツ産業を巡る状況は決して甘くはありません。

 むしろ、広告媒体としてのメディアの急速な収入減少は、コンテンツ業界全体に、きわめて厳しい風を吹かせています。 

 しかし、そんなときになんですが、それでも、自分は、今年こそ、コンテンツ産業、もっと言えば、日本の産業全体がCreative Industryに大きく日本がシフトする、節目の年になるのではないかと、と思っています。 今回は、そんなストーリーをまとめてみたいと思います。

 

1.若年のエンパワー

 

 ちょっと変わった切り口かもしれませんが、第一に、今、何かと話題になる若年雇用やフリーターなど、若年雇用対策分野という視点から考えると、実は、ソフトパワー分野の強化こそ、最大の国策とすべきではないかと思っています。

 従来、雇用対策といえば、建設業か製造業が主役でした。累次の建設国債発行と公共工事が、不況時の日本をどれだけ救ってきたかは、歴史が証明してくれていると思います。しかし、今、建設業は、国内市場がどんどん縮小している厳しい状況にあり、とても、今以上の雇用吸収力の増大は期待できません。では、製造業はどうでしょうか。

 今、製造業の派遣業態が大きな話題を呼んでいます。しかし、実は、大卒ベースで観てみると、その求人倍率は、リクルートワークスさんの調査によれば、1.0倍以上(求人数の方が求職者数より多い)の状況が10年以上続いています。労働市場全体の有効求人倍率を観ても、電気・機械技術者や情報処理技術者などの専門的・技術的職業については、求人が求職を上回る状態を続いており、しっかりとしたバックグランドのあるエンジニアについては、恒常的に人手不足となっていることが伺われます。

 では、製造業や建設業にはなかなか向かない若者の就職への関心はどこに向かっているのでしょうか。

 例えば、文部科学省の調べによれば、全国の専門学校生徒数は58万人ですが、教育分野別第一位は、医療分野の19万人ですが、第二位は、文化教養の11万人で、服飾・家政をあわせると13万人もいます。製造業含む工業分野が8万人ですから、専門学校生徒数では、ソフトパワー分野が大きくリード。そこにひしめくのが、美容学校、アニメ・ゲーム専門学校などの専門学校卒業生、という状況です。

 なかなか具体的な数字は申し上げにくいのですが、この分野の専門学校の就職は、厳しいのが現実です。厚労省の統計をみても、デザイナー、美術家などの技能職の求人動向では、全体の動向にかかわらず、ずっと厳しい状況が続いています(なかなか分類の見方が難しい統計ですが、ちなみに、このページは、厚労省の統計をありのまま整理したものとして、非常に見やすかったです。)。

 全体的に観れば厳しい雇用環境にあるのは間違いありませんが、その中では、しっかりと手に職をつけたエンジニアにはまだまだ引き合いがある状況です。むしろ、需給のアンバランスが激しいのは、クリエーター関係。そこを志す日本の若者にしっかりとした雇用を作り出すことは、今、日本を若い世代から元気にしていく上で、とても大切なことではないかと思います。

 

2.潜在的な需要は大きい

 

(1) コンテンツ不況と情報大爆発

 CDの売上も、テレビの広告料収入も、本や雑誌の売上も、いずれも厳しい状況にあるのはご存じのとおりです。しかし、これらは、特に、今回の経済危機に伴う問題ではありません。CD販売の下落傾向は、この数年の傾向ですし、テレビ・雑誌をはじめとするマス4媒体の広告費も、この数年、少しづつ落ち続けていました。マンガを含む出版の下落傾向も、今年だけの話ではありません。

 今年の不況が、全体的に更に状況を悪化させているのは間違いありません。しかし、従来、主役の座を占めてきた流通メディアの苦境は、インターネットや携帯電話の普及、テレビのチャンネル数増加など、コンテンツの流通に関する選択肢が近年急速に増えたことに伴う、 構造的な課題という側面もあるように思います。

 では、こうした苦境が、音楽や映像、テキストなどコンテンツ全体の需要減を意味しているのでしょうか。そんなことはないはずです。ITの普及により、世間は何を心配しているか。「情報大爆発」です。情報の洪水が、消費者の主体的な選択能力や行動能力を落としているのではないかという懸念です。むしろ情報需要全体は大きく膨らみ始めようとしています。

 実際、音楽市場全体を観ると、このブログでも何度かご紹介申し上げてきましたが、この5年間、市場規模は変わっておりません。市場全体が縮小している英米と較べると、相当健闘していると思います。特に、成長著しいのは、ネットや携帯配信ばかりでなく、DVDのセルも着々と成長しています。また、ライブ市場も、昨年東京ドーム講演を成功させた沢田研二さんの公演など、シニア層の市場を中心に、盛り上がり始めています。

 映像需要についても同様です。映画興行が邦画で過去最高を記録したのを始め、Web制作の市場は相当のペースで成長を続けています。まだ試算段階ですが、WEB制作は1兆円に近い規模になりつつあり、更に、この内容も、徐々に動画化していくことが予想されます。例えば、フラッシュアニメも少しづつ、Webやサイネージなど様々な局面で普及を始めています。

 出版も、携帯マンガの市場が爆発的な成長の前兆を見せ始めています。インターネットという安価なメディアの普及が、情報媒体としての雑誌や新聞などの出版物の価値を相対的に下げているのは間違いありませんが、出版物やテキスト需要とリアルの販売を組み合わせた新しいビジネスモデルの試みは、着実に動き始めていると思います。何より、静止画、テキストの配置で言えば、紙媒体を勝る品質は、未だに他には観られません。

 

(2) リアルを基本としたコンテンツビジネス展開 

 こうした潜在的な需要増大をビジネスとして掴んでいくためには、昔から言われてきたことではありますが、いよいよ、クロスメディアの発想や、リアルのビジネスを基本としたビジネス展開など、従来のコンテンツ産業内部のタテ割りを排除した動きが本格的に必要になるだろうと思います。

 例えば、音楽の分野を観ると、米国で流行ったパフィーは、最初に、アニメーションを流して、それがうまく市場に入り込むことで、ブレークのきっかけを作ったと言います。90年代後半のヒット曲の多くが、テレビドラマの主題歌であったことは記憶に新しいところですが、逆に、最近では、そうした役割を果たしてくれるメディアが見つからないことが、国内における音楽メガヒットの急減(一昨年のミリオンセラーはわずか2本)につながっているようです。

 年末にトップセールスを誇り、今なお、音楽勝負で気を吐くMr.Childrenの新譜も、音だけでなく、ジャケットデザインやイメージ画像に製作プロセスで相当気を配ったと伺います。レコード小売店の機能が弱くなっている現在、昔のLP版レコードジャケットへの拘りとは、ちょっと異質な動きというべきだと思います。

 米国では、Police, U2, BonJoviといったクラスのアーティストになると、ライブ収入とパッケージ収入の比率が完全に逆転、収入の7〜9割をライブが占めているそうです。いわば、パッケージは、ライブに付属するMD商品とでもいうのでしょうか。現金回収メディアの主役が、パッケージからライブに変わってしまっている。もし、パッケージがそういう位置づけでも良くなってくると、MySpaceのようなメディアやYouTubeなどの動画配信メディアも、あまりパッケージの売上への影響を気にせず思いっきり使えるようになるでしょう。 

 

 リアルや他分野との連携が期待されるのは、音楽ばかりではありません。むしろ、アニメでは、もはや定番化しています。テレビ放送番組用の動画制作だけでは収支を補えないのは、この数年、すっかり業界の常識となりました。しかし、キャラクタービジネスや周辺ビジネスの展開によって、大きな収益を得られるのも、また事実です。

 例えば、自分も、先日、子供を連れて横浜の「アンパンマン・ミュージアム」に行ってきましたが、行ってみてソフトパワーの底力を実感。1歳以上から徴収される入館料は一人1000円。あんパン1コ300円、6つセットで箱に入って2000円(>1800円!!)。それでも、店の前には長蛇の列ができる。さて昼飯を食おうとレストランに並んでみれば1時間待ち。そこからあぶれて、広場の椅子で頂いたお昼の肉まんは、1個420円・・・。それでも行けば、お財布の紐は全開状態となってしまいます。改めて、ソフトパワーは凄いなと・・・(単に子供市場ということだけかな・・・?)

 

 ちょっと切り口の違う例を申し上げれば、WEB制作の市場が大きく成長しているのは前述の通りですが、その収益回収は、Webページそのもので行われているわけではありません。企業のIR活動や広告活動などは、実際の商品やサービスの展開を通じてキャッシュ化されており、いわば、Inputでコンテンツを投入していく過程はデジタルですが、Outputで現金回収する過程は、アナログです。いわば、デジタルIn、アナログOutですね。

 デジタルサイネージや、有機EL,LEDなど画像情報媒体としても使える次世代照明が普及していけば、街中にも多くの映像消費媒体が登場することになります。身近なところでは、最近、タクシーや電車の中でのショート映像の需要機会は、ずいぶん増えてきています。これらも、デジタルIn、アナログOutのメディアになっていくのではないでしょうか。

 ネットやデジタルということに拘らず、分野横断的に、リアルを基点にビジネスを組み立てていけば、コンテンツビジネスは、むしろ、多くのチャンスを持っていると言えるでしょう。必要なのは、コンテンツが呼び起こす感動や共感であり、若しくは、コンテンツが実現するサービス。それぞれ、何を切り口にして、消費者の心を掴んでいくかが課題なのだと思います。

  

3.Creativeが必要な時代

 

(1) ITが生み出した「均質化」 

 前回のエントリに記載しましたが、時代は、ITによって、多様化を促進する方向ではなく、均質化を促進する方に流れてしまったように思います。ケインズの指摘する美人投票的仕組み、それは、自分自身が誰を美人だと思うかではなく、みんなが美人だと思う人は誰か、ということを一生懸命当てようとする仕組みなわけですが、なまじ、ITによって情報が隅々まで行き渡ることによって、人は、多様化ではなく、むしろみんなの予想を予想しようとする、均質化の方向に向かってしまった。

 例えば、体の弱かった娘さんが、中学校三年間無欠席で通したことを喜んだお父さんが、卒業式の日に娘を褒めたところ、こういわれたそうです。「だって、休んだら、その日に何が起きるか分からないじゃない。怖くて休めないのよ。」と。

 映画館に行かない理由を若者に尋ねると、理由のトップは、「2時間も携帯電話ができないなんて、考えられない」ということなんだそうです。それは極端な、とも思いますが、実は、テレビ映画でも、字幕付きの映画は夜の9時台には流せないそうです。それというのも、「ながらメディア」としてしか、ゴールデンタイムの映画は視聴してもらえないため、字幕付きだとすぐに視聴率が下がってしまうからだそうです。したがって、これだけ英語を話せる人が増えても、字幕映画は深夜枠にしかみられない。

 

 僕は、ITって、もっと多様性を助長するような方向に行ってくれるのかなと思っていました。例えば、普通の人は知らない映画の奥深さを知っている、自分だけの好みの音楽がある、自分は何が何でもイタ車が好きだ、そういう独自の価値観を格好良いと思う人達が、もっと気軽に同好の志を探して盛り上がることができる。でも、時代は、なんだか、逆に、そこから遠ざかっているような気がします。むしろ、周りが何を考えているのか、何をしようとしているのか、常にそれがわからないと不安。そんな時代的風潮があるのではないでしょうか。

 そうしたITの均質化への圧力は、コンテンツのような、多様性があって、それに対する様々な嗜好の需要があって、はじめて高い創造性が発揮される市場を押しつぶしてはいないでしょうか。また、そうした均質化した消費文化が、日本の優れたテクノロジーや品質を発揮させる余地までも減らし、価格競争が過剰に前面に立つ消費市場づくりを後押ししているような気がします。

 それを変えていくために必要なことは、やはり、創造性と多様性に対する消費者の感受性を高め、我が国が伝統的に誇ってきた高い消費インテリジェンスを回復していくことではないでしょうか。 

 

(2) クリエティブの現場は下請

  では、消費者に、多様性と創造性の世界の楽しさを思い出させてくれるのは誰なのか。溢れる情報の中でも、消費者の感性を均質化ではなく、多様化の方向に向かわせ、消費インテリジェンスが競い合うような市場を再現してくれる原動力はどこにあるのか。

 それは、間違いなく、クリエティブの現場だろうと思います。ここでいうクリエティブの現場とは、何も狭い意味のコンテンツに限りません。映像や音楽、マンガ、アニメなどはもちろんですが、食・食材、ファッション、工芸などのものづくりなど、その分野は様々です。ただし、一つの共通の特徴があると思います。それは、クリエティブの現場は、往々にして下請だと言うことです。

 その代表例は、農家かなと思います。農家は、一生懸命努力・工夫を積み重ねて、美味しい食材を生み出そうとしても、結局、流通ルートに乗りやすいのは、規格化され、あらかじめ値段の相場が決められた、真っ直ぐなキュウリや、横並びで農協で引き取り価格が制限されたお米です。ネット販売でニッチな市場を切り開くことは可能ですが、多くの場合、それだけで生計を立て、子供を育てるのは困難です。結局、既存の大規模流通ルートの指示する価格と量で、生産をしなくてはなりません。

 芸術的な技能を持つ、工芸品などのものづくりの現場も同じです。それらがどんなに市場価値を持っていようとも、系列企業や、お得意の取引先が、市場を作り出して、発注してくれなければ、身動きが取れません。

 従来の映像も、多くは、テレビ局等からの発注待ち。CDを作らせてもらえるかどうかも、レコード会社の企画次第です。映画ですら、固定化しやすい製作委員会のメンバーの下、作れる作品の自由度は相当下がってきていると、映画監督の方々からは伺っています。

 ここに一つのパラドックスがあると思います。特定の流通メディアが発注を出すのを待っていたら、この情報大爆発の時代、ITによって流通経路が多様化・複雑化している時代、既存の流通メディアも製作側も、ともにじり貧になってしまうおそれがあります。他方、製作側が、主導権を回復して、広く市場コミュニケーションをとるよう努力できる体制が整えば、潜在的な市場自体は狭くなっているわけではありませんから、大きく化ける余地はいくらでもあります。

 まさに、時代の主役は、制作の現場に戻ってきている。若しくは、それを見いだす消費者と制作の現場との間の濃接なコミュニケーションに帰ってきている。そんな気がします。

 

(3)グルメの世界は成功事例? 

 では、どのような取組をイメージすればいいのでしょうか?最近の流れで言えば、料理人の世界が生み出すグルメの世界は、制作現場のプレーアップと市場の多様化・高付加価値化の推進に成功した事例ではないかと思います。

 例えば、今では、料理人は当たり前のように海外に修行に行き、30代で自らの店で勝負をし、実に様々な高級グルメ店舗を競っている。どこまで行っても、料理人の世界は料理人の世界で、大変厳しいと思いますが、外食チェーンや経営者サイドに振り回されずに、自分の世界観で店舗展開をする料理人が大活躍。国際的に観ても恥じない、名店を多数作り上げあれています。それは、結果として、舌の肥えた日本の消費者も生み出す、車の両輪として、好循環したのではないかと思います。

 日本では逆にまだ、あまり評価されていませんが、クラッシックの演奏家の世界も、着実に海外から足場をつかみ、国内に戻ってくるチャンスを狙っているような気がします。これだけ海外のソフト文化の中で高く評価されているバイオリンにストやピアニストがいても、国内に戻ってこれるビジネスの現場が乏しいのは、悲しいことだと思います。

  • 農家が生き生きと作りたいモノを作れる、そういう市場をどう再設計するか。

  • 日本の中小企業のものづくり力の底力が世界に評価されるような市場をどう再設計するか。

  • クリエータが自由に自分の世界観を、音や映像に表現できるような、そういう市場をどう再設計するか。

 能動的なCreativeの現場作りに向け、従来型のビジネスモデルが苦しいからこそ、この苦境をチャンスに、チャンスを飛躍につなげるような一年になればと、祈念する次第です。

 

      *    *    *

 

 では、そのためにどうするか、といことが課題なのですが、年頭の挨拶も、とりあえずここ止まりのことが多かったので(苦笑)、今日のエントリは、このあたりで。続きは、また、色々な形で触れていきたいと思います。

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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