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コンテンツ市場14兆円の中身と行方

2008/08/10 23:55
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プロフィール

村上敬亮

長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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 コンテンツあってのネット、コンテンツあってのIT。なのに、どうもコンテンツ市場に元気がない。そんな声を良く伺います。日本のコンテンツ市場は14兆円。情報サービス産業が16兆円。通信産業も似たような規模ですから、まあ小さいということはないと思いますが、では、その内訳って、どんなもんでしょうか?数字で見てみると、意外?な面もあるので、今回は、そうした統計を簡単にご紹介しつつ、この14兆円って何だろう、ということを少し考えてみようと思います。

 

1.コンテンツ市場の市場規模

 

 ちなみに、以下の数字は、注釈がない限り2007年の推計です。出典は、経済産業省からの委託調査によってデジタルコンテンツ協会が行った調査です。同様の数字は、近刊されるデジタルコンテンツ白書2007に掲載されることになると思います。リンクされているPDFファイルのP16の図表を見ていただくと一番わかりやすいかもしれません。以下に概要を紹介したいと思います。

 

(1) コンテンツ市場全体

 コンテンツ市場全体は、「話題性の割には元気がない、元気がない」と言われて久しいような気もしますが、実は、06年の▲0.3%を除けば、 04、05年がともに対前年比2.3%増、07年が同1.3%増とGDP並み(?)には、成長を続けています。実際、コンテンツ市場全体の対GDP比も、2.7%でほぼ固定しています。

 このうち、パッケージやネット配信など含めて、アナログ媒体ではなく、デジタルもののコンテンツ(ネット配信・携帯配信などから、DVD等デジタル媒体の流通などを含む。ただし、現時点では、テレビを除く)をみると、2.8兆円と、コンテンツ市場全体の1/5程度となっています。成長率を見ると、デジタルコンテンツは強いですが、全体の規模で見れば、まだまだ主役はアナログという感じです。

 この14兆円のラフな内訳を4大分野別に見えると、次のとおりです。

  •  出版系(新聞、雑誌、書籍など):5.8兆円
  •  映像系(DVD、映画、アニメ、放送番組など):4.9兆円
  •  音楽系(カラオケ、CD、ネット配信など):1.9兆円
  •  ゲーム系(パッケージ系、オンライン系、アーケード系など):1.4兆円

 出版系強し。では、少し各分野の内訳をみていきましょう。

  

(2) 出版系

  出版系5.8兆円のうち、一番大きいのは、圧倒的に新聞。次に雑誌です。

  • 新聞:2.3兆円
  • 雑誌:1.3兆円
  • 書籍:0.9兆円
  • ネット配信(主としてネット広告を含む):0.5兆円
  • パッケージ(電子辞書、教育、趣味など):0.2兆円
  • 携帯配信:0.2兆円

  書籍が思いのほか少ないこと。新聞、雑誌は、それぞれの広告費も含んだ数字ですが、この分野は、やはりこの二つが中心なんですね。ただし、この5年間の動向を見ると、新聞と雑誌が微減。その分をネットと携帯の配信が補っている感じです。

 

(3) 映像系

  映像系では、約半分を放送が占め、DVDのセル/レンタル、映画興行、携帯配信と続きます。

  • 放送:3.8兆円
  • パッケージ系(DVD/ビデオ):0.7兆円
  • 映画興行:0.2兆円
  • 携帯配信:0.1兆円
  • インターネット配信:0.05兆円

 放送が群を抜いていますが、パッケージも0.7兆円と健闘してます。ただし、パッケージ市場の5年間の推移を見ると、8661億円が6960億円まで縮小していますので、ちょっと苦戦。特に、ビデオからDVDへの移行に当たり、ビデオレンタルの大幅縮減をDVDレンタルが埋め切れていない状況です。それでも、音楽パッケージがの0.6兆円、ゲームパッケージの0.5兆円よりは多い。パッケージの中では、頑張っています。

 ちなみに、これらと比べると、映画の興行が予想外に小さいように見えるかもしれません。話題になる程度と、実際の売上は、必ずしもリンクしませんね。

 

(4) 音楽系

 音楽系では、カラオケの売上が目立ちます。

  • カラオケ:0.7兆円(7395億円)
  • パッケージ:0.6兆円(5662億円)
  • ラジオ放送:0.2兆円(1987億円)
  • 携帯配信:0.2兆円 (1800億円)
  • コンサート収入:0.2兆円(1518億円)
  • ネット配信:0.1兆円(952億円)

 CDやDVDのセルの落ち込みは、この5年間で6998億円から5662億円とやや深刻です。しかし、携帯配信及びネット配信とあわせた市場規模で見ると、この5年間で約8000億円から約7800億円程度と、やや減ったくらいの状態です。インターネット配信が5年前の25億円から482億円へ、携帯配信が958億円から1800億円へと伸びたのが原因です。

 ちなみに、携帯配信を除いて、ネットの音楽配信とパッケージの合計だけで見ると、音楽市場は明確に縮小となります。案外、携帯配信(着メロ・着うた)が健闘しているんですね。

 

(5) ゲーム系

 ゲームソフトは、最近、また盛り返しています。一時期6000億円を超える市場規模だったゲームソフトが、2003年頃に3700億円程度まで縮小してしまいましたが、2007年には、5081億円まで回復しました。ただし、売れ筋のタイトルを見ると、Wiiというハードウエアの特徴を活かしたソフトか、過去の有名シリーズものが多く、ソフト単体として新たな話題に乏しいのが、若干心配です。

 アーケード系(つまりゲーセン)は、5年前の0.6兆円から2007年に0.7兆円へと、着実に市場を伸ばしています。加えて、オンラインゲームの市場が確実に立ち上がってきています。5年前60億円の市場が、885億円になったということです。韓国には遠く及びませんが、ゲームのオンライン時代も、着実に近づいてきている感じです。

 

2.コンテンツと流通メディア 

 

(1) 流通メディア別市場規模 

 

 さて、では、こうしたテキスト、映像、音楽、ゲームというコンテンツの中身で見てきた市場を、今度は、パッケージ、放送、インターネットなどの流通メディア別に見てみるとどうなるのでしょうか。いわば、コンテンツ分野という縦軸で見てきた14兆円を、流通メディア別という横軸から切り直すような作業ですね。

  • パッケージ流通:6.8兆円
  • 放送:4.0兆円
  • 拠点サービス(映画興行、カラオケなど):1.8兆円
  • インターネット配信:0.6兆円
  • 携帯配信:0.6兆円

 パッケージって、やはり強いですね。それに放送。放送とパッケージをあわせると、それだけで10兆円を軽く超えます。また、拠点サービスが案外強いのも心強いですね。ただし、成長率で見ればネットと携帯が着実に伸びています。

 では、これを広告料収入モデルと、利用料金回収モデルとで分けてみるとどうなるでしょうか。

 0.6兆円のインターネット配信の収入のうち3300億円が広告収入。テレビも広告を柱とした営業収入(NHKを除く)が中心。だいたい、広告業界からコンテンツ市場への資金流入が4.5兆円程度になります(これは、若干個人的推測の入った数字です。テレビの営業収入部分は、本来、もう少し厳密に検証する必要があります。)。

 これに対し、パッケージ流通、拠点サービス及び携帯配信は、利用料金回収(新聞、雑誌の広告収入(約1.0兆円)を除く)が中心。10兆円弱が利用料金からの回収となります。さらに、このうち約2.0兆円弱が、ゲーセンやカラオケ、コンサート、映画館などの拠点系。それを除いた残りがパッケージ料金やコンテンツのダウンロード料金。

 したがって、大変、大雑把に言えば、コンテンツ業界は、使用料金から10兆円弱、広告から5兆円弱の収入を得て回っている業界、こういう感じですね。

 

(2) こうした市場区分をどうみるか

 

 さて、こうやって、14兆円市場を、縦・横・斜めに見てきましたが、個人的には、ここから先が問題だと思っています。というのも、こうした市場区分が、ビジネスモデルから見た実態を反映しているか、若干疑問に思っているからです。

 確かに、コンテンツ別も、流通メディア別も、それぞれの数字は実感にはあっています。しかし、この整理学にはまればはまるほど、市場も政策も、隘路にはまっていくような気がします。コンテンツ市場の本当のバリューチェーンは、どこをどう通っているのでしょうか?少しケース的に、見てみようと思います。

 

       *     *     * 

 

 例えば、アイドル歌手の市場を考えてみましょう。昔であれば、まずラジオで曲に耳慣れをさせる。話題を作る。雑誌の取材も積極的に受ける。そこで露出を獲得し、その上で、シングルレコード、更にはアルバムレコードの売上などパッケージ流通で回収する。コアなファンはコンサートで捕まえ固定層にする。そして次のシングルに流れる。

 こうしたビジネスモデルがあるから、昔から、ラジオで全曲フルに流すことはしない代わり、当時、JASRACさんの音楽著作権使用料もラジオは相対的に安めに設定されていた。良い悪いではなくて、ある意味、JASRACの著作権使用料も、業界のビジネスモデルの一環として、きちんと整合性がとれているわけですね。

 次に、ラジオ発のマス・ブームにかげりが見えてくれば、露出の主軸をテレビにシフトする。ザ・ベストテンのようなランキングものは、その走りですよね。加えて、ランキング番組が弱ってくれば、今度は、ドラマの主題歌で耳慣れをさせ、トレンドを作りメディアにする。その上で、それをパッケージの売上につなげる。ランキングものでもっと順位を上げ露出を増やせという話になれば、例えば、レンタルショップの最初の仕入れ本数を上げて貰ったり、CDの卸す本数を増やすなどして、発売と同時にランキングで高順位を取れるように工夫する。そのランキングの話題性から更にテレビ等での露出を上げ、パッケージやコンサートで一挙に回収する。

 最近で言えば、最後の回収メディアに、コンサートやパッケージに加えて、カラオケも登場する。かつては、カラオケは著作権使用料逃れで有名な媒体でしたが、JASRAC等の地道な努力により、今では資金回収の有力メディアに成長。一時期、その売上は、1兆円に迫る勢いでした。ただし、そのカラオケの売上も、最盛期から見ると、やや落ち始めていますが。

 そして更に、この5年間で、新たに回収メディアとして出てきたのが、携帯配信です。iTunesなどのインターネット配信市場ばかりが目立ちますが、着うた・着メロの市場規模は、結構大きく、日本が世界に誇れる重要なビジネスモデル。ちょっと性格は違うかもしれませんが、決してiTunesに負けているわけではありません。ただ、多少、電話に性格がより過ぎるような感じはしますが。

 こうしてみてくると、ラジオ、放送、パッケージ、カラオケ、着うたと、それぞれの流通の性格付けは、時代時代によって少しづつ変わってきてますね。コンテンツ制作・流通に取り組む側から見ても、どの流通メディアがどう反応してくるか。それぞれの顧客の反応は流してみないとなかなか計算できない部分もある。だから、例えば、著作権使用料を各メディアについて、どの水準に設定するのかは、なかなか悩ましい問題だろうと思います。

 むしろ、昔のように、あまり色々な流れが無く、ラジオ=>レコード=>コンサートという流れの方が、シンプルで良かったのでしょうか?

 

        *        *        *

 

 さて、こうした多段階でのコンテンツの配信・資金回収システムですが、英語では、このことを"multi-windows distribution"と呼ぶことも多いようです。自分が著作権条約交渉の関係で90年代半ばにハリウッドに出入りをし、エージェントから契約書などを勉強させて貰っていたときに、彼らは、よくそんな表現を使っていました。 

 例えば、ハリウッドエージェントは、まずは映画興行、次にDVD・ビデオのセル。次に有力CATVに流し、最後は地上波。ちょっと日本とテレビの位置づけが違うので一概には比較できませんが、日本だと、最後の地上波とCATV(マルチチャンネルモノ)が逆転する、くらいの位置づけでしょうか。いずれせよ、そこまで多段階で流通させることをあらかじめ念頭に置いて、エージェント側で、制作資金の設定、関係者の取り分の設定などを契約で細かく決めていたのが印象的でした。まさに、その細かいポートフォリオ管理が最大のノウハウ。

 もちろん、こうした多段階流通自身は、ハリウッドの映画に限りません。我が邦画だって、同じといえば同じです。例えば、「釣りバカ日誌」なら、典型的に、マンガ=>映画制作・興行=>DVDのセル=>地上波放送=>CATV・CSでの放送といったパスを通っていきます。

 また、日本のアニメ産業もそういうサイクルです。今や、最初にテレビ用にアニメ番組を作っただけでは、アニメの制作資金は回収できないことが普通です。それが、全国放送され、DVD等のセルにつながり、キャラクターグッヅも販売しながら、海外にも持っていく。こういう多面的展開まで果たせれば儲かるし、テレビの放映だけで終わってしまえば、赤字。そんな状況です。ドラゴンボールZなどは、僕自身、南米のペルーの山奥で放映しているのを見たことがあります。凄いものだと思いました。

 例えば、かの有名なガンダムシリーズも、最初に名古屋テレビで流れていた時点では、視聴率は10%にも届かず、腰折れ寸前だったようです(ちなみに、オリジナルの企画構想は「ガンボーイ」。「うーん、マンダム」という流行のCMの語感もあって、「ガンダム」になったとか。)。ただし、ガンダムの場合、コアなアニメファンを獲得したことと、アニメ雑誌等が繰り返し取り上げたこともあって、こどもの中でもやや高年齢層を中心にファンが広がり、再放送要望の動きが出た。その再放送がブームに火をつけて、その後、大きな市場を作りました。僕自身も、再放送からガンダムファンにJoinした口ですね。また、ガンダムの場合は、「ガンプラ」、すなわちプラモデルとの相乗効果が大きかったことも、大きな特徴の一つでした。

 他の例では、例えば、「遊☆戯☆王」。こちらは、ガンダムと較べればだいぶ最近。週刊ジャンプのマンガから、テレビ=>映画となりました。こちらは、そのプロセスで、コナミが販売したカードゲームが大きく話題になったのも、特徴といえるだろうと思います。海外にも広く普及しています。個人的にも、パリのショップで大きく取り上げられているのを見る機会があり、大変印象的でした。

 他方、こうした多段階流通を狙って、現在苦戦しているのが、いわゆるテレビ深夜枠のアニメ。最近の深夜枠アニメは、ほとんどDVDやキャラクターなど他分野での回収を期待しビジネスモデルで、深夜枠での放送からの利益はほとんど期待しないタイプ。しかし、昨年くらいからでしょうか。広告市場が急速に厳しさを増したこともあり、そもそも番組が立てられなくなってきました。その結果、アニメ流通の第一窓口(FirstWindow)に大きな穴があく結果となり、昨年から今年にかけて、急速にアニメ産業の売上を落とす原因となっています。

 

        *       *       *

 

 くどくどと書いてしまいましたが、申し上げたかったのは、こうした実際のコンテンツ作りのストーリーを見てくると、映像、音声、出版、ゲームといったコンテンツ区分も、放送、インターネット、拠点系、パッケージといった流通区分も、それ一つ一つ自身には、あまりマーケティング上の意味はないかもしれないということです。

 もちろん、新聞記事・雑誌記事、テレビの報道番組やバラエティ番組など、特定のメディアでのみ消費されるコンテンツも無いわけではありません。しかし、エンターテインメントコンテンツとして世界に出ていっているようなものの多くは、"multi-windows(多段階流通)"に頼っている。しかも、それらは、往々にして、市場区分横断的なものになっているということです。

 では、どうしてこういうことになるのでしょうか。

 確かに、その道に通じ、文化・芸術に対して本当に造詣の深い人なら、良いものを初見で見抜くことも可能でしょう。そういう人たちだけが対象なら、最初からパッケージだけ。最初からコンサート・実演だけ。といった"single- distribution"アプローチもありだと思います。

  しかし、実際に市場を作っているのは、多くは、そうしたトレーニングがされていない、普通の人です。一部の尖ったところのある人達の話題を頼りにしながら、ドラマの主題歌として繰り返し聴いて耳慣れしたり、明日の学校のクラスの話題といった形で生活に組み込む機会を得ることで、徐々に「良いなあ」と思うようになり、最終的に、そのコンテンツに財布の紐が開くんだとおもいます。

 逆に言えば、案外普通程度の「良い曲」でも、印象的なストーリーと一緒だったり、自分の属する学校や職場のコミュニティで爆発的に話題でなったりという環境の中で繰り返し聞いていれば、凄く良い曲に思えてしまうこともあるものです。悪く言えば、すり込みですね。本当に審美眼のある人は、そういうものにはダマされないのかもしれませんが、それは市場全体から見れば少数派でしょう。

 このように、コンテンツは、すり込み=>回収というプロセスだったり、一部のコアなプロ受け=>徐々に大衆受け、オタクメディア受け=>マスメディア展開など、個々の事情に即して、"multi-windows"をデザインしていかなければ、最終的に産業としても資金を回収できません。これらは往々にして、市場区分を凌駕するような動きになって、はじめて強くなる。おそらく、まさに、これが、コンテンツ市場のバリューチェーンであり、市場区分に基づく統計は、あくまでも、こうした市場動向を客観的に測るための、一つの手段に過ぎないということではないかと思います。

 

3.バリューチェーンの再構築

 

(1) 14兆円を超える実質的なバリューチェーンの広がり 

 

 こうした形でコンテンツ市場をバリューチェーンという視点から見直すと決めてしまえば、この市場は、更に、実に色々な自由な見方が出来るようになります。

 例えば、ご当地グルメが、マンガを通じて全国的に有名になり、結果として、ネットの全国お取り寄せ市場で大きなシェアを取るようになる。コスプレのように、マンガの世界から出てきたファッションが、世界で話題になり、日本を代表する一つのトレンドになる。大河ドラマでの話題が、ロケ地の観光を盛り上げる。

 逆に、プロ野球やプロゴルフが盛り上がるから、それを題材にしたゲームが売れる。マンガがはやる。そんなこともあるし、そうかと思えば、「キャプテン翼」に刺激された中近東の国が、猛然とサッカーに目覚めるなんて話もある。そうした類の動きがまた、サッカーというスポーツ市場のすそ野を広げる。

 14兆円は、とりあえず広告料金からの収入と、そのコンテンツ自体の使用料収入をベースに計算していますが、バリューチェーンという視点で、日本のソフトパワーのトレンドセットという見方で市場を見れば、関連する産業としての売上は、更に膨大なものになるでしょう。

 これは、裏を返せば、この産業への資金供給源は、この産業以外にも潜在的には沢山いるはずだということにもつながります。また、こうした新たな資金の流れと、それが期待する見返りのロジックこそが、本来、知的財産制度の設計に当たって、重要な現状分析のポイントにもなるはずです。

 

(2) ネットを特別視せず、全体を見るということ

 

 実際、大切なのは、それぞれの媒体の売上を維持することではなく、こうした波及効果の高いバリューチェーンの構築を進めていくこと。かつての「ラジオ(特に有線放送)=>レコード(特に演歌)=>コンサート(特にディナーショー?)」といった売れる必勝パターンを作り上げていくことではないかと思います。

 だからこそ、市場を見るときには、デジタルとアナログを区別する意味はない。ネットとリアルを区別する必要もない。むしろ、リアルに影響を及ぼすような、トレンド作りに響くようなコンテンツを作る。そして、それぞれのトレンドセットに有効に活かされていくいくよう、中身にあわせて流通を選択していく。その組み合わせの中に、ネットも巧くはめ込む。場合によっては、観光、外食、ファッション、スポーツなど全く違う産業分野に大きく跨いだ市場を作っていく。そんなことが大事なのではないかと思います。

 よく、ネットの成長のためにネットのコンテンツ市場拡大を、といった話を伺いますが、そこだけ議論することには、本末転倒のような気がする。コンテンツ業界としては、ある意味限界が伴う。ネット通信事業者の方々がそう思うのはよく分かりますが、都合良くネット向けにヒットするコンテンツを揃えるのは、事実上不可能に近い。コンテンツから見れば、ネットもデジタルも、実演やアナログも含めた、様々な流通出口オプションの一つに過ぎません。

 もう少し厳密に言えば、流通側に特定の思い入れがあるのはわからなくもない。しかし、コンテンツ制作と流通は、ある意味、違う論理で動く。流通の側が、より多くの制作者に使ってみたいと思わせるようなビジネスフォーマットを用意できるかどうかが、その流通が生きるかどうかの勝負であり、その視点から見ると、実は、確かに、YouTubeなどは、既に非常に面白いポジションニングを取っている。だけど、YouTubeとインターネット再送信市場は、また全く性格の違うものだし、インターネット向けのコンテンツ市場というものがあるわけではない。いくらこれからはネットの時代だからといっても、これらをネットでひとくくりにしてみていても、コンテンツ市場のあるべき姿は全く見えてこない。デザインすべきはネット向けコンテンツではなく、あくまでも、コンテンツ市場全体なんだろうと思います。

 

  

(3) コンテンツ自身が向かうべき先は?

 では、どうするか。僕は、もう一度、視点を顧客に引き戻すべきだと思います。

 例えば、顧客層という意味では、僕が90年代半ばに、ゲーム産業担当として勉強させていただいたプレステとファミコンは、全く市場としての考え方が違った。プレステさんは、当時、既にある程度広がったゲーム市場を前提に、如何に可処分所得の高い層から効率的に市場を取るかということが念頭にあった。 逆に、任天堂さんは、あくまでも、ゲームは玩具であり、こどもというエントリーユーザを大切にすることを常に繰り返し拘られていた。加えて、カセットの任天堂とCDのプレステでは、流通のビジネスモデルも全く違った。

 最初の漫才ブームからエンタの神様にいたる「お笑い」の世界の流れも、吉本興業さん中心に、関西から全国区へ、顧客層が変わるごとに芸風の幅を拡げながら、少しづつ、顧客層を拡げていった。そこでは、誰を対象として「笑い」をとるか、その質自身が厳しく問われた。

 14兆円の多くは、大きく括れば、エンターテインメントがその少なからぬ部分を占めるわけですが、でも、それだけでもない。そういう意味では、誰を楽しませるかだけが、コンテンツ市場の在り方を決めるわけではない。

 例えば、デジタルのために真の芸術も少しづつ姿を変えてコンピューター芸術といったいろいろな分野が出てくる兆しがある。事実報道や評論の世界だってそれなりに大きな市場を持っているし、実際、ネットとの連動も含めて様々な議論が起こり、今現在も徐々にその姿も変えつつある。

 これからということで言えば、ロハスやエコといったトレンドも含めて、日々の生活を支えるコンテンツ、いわゆるライフソリューションものも増えてくる。食べ物、買い物、暮らし、旅行など、既に、それらのネット依存比率もどんどん上がり、情報収集スタイルもかなり変化してきている。長期で見れば、当然ですが、高齢者の暮らしを豊かにするための市場が、相当重要な要素となってくる。

 さらに、コンテンツ市場が、そうした外のバリューチェーンと結びつけば結びつくほど、パッケージやネットといった流通媒体の制約を離れざるえなくなる。実際の暮らしや観光、外食やファッションといった実際のサービスやものづくりと連動する。高齢者介護のために設計された生活機器やロボットなど、今までの印刷物・DVD・ゲームソフトなどのハード媒体の規格には乗らない、新たなハードや実際のサービスと連動した「ソフト」が出てくることになる。

 さらには、街に個性を取り戻すための無線技術等を使った街や空間の演出、店舗のデザインや演出、それを実現する次世代照明や、新たな住宅デザインなど、ハードも含めて色々なコンテンツ市場の新展開が考えられる(それらをコンテンツと呼ぶ必要があるかどうかは、この際別にして。)。

 日本経済全体は、着実に、ものの価値を中心とした経済から、経験価値を中心とした経済へのシフトしつつある。その変化を根っことした様々な動きが、コンテンツという切り口からも、いろいろと出てくるのではないかと思います。

 

        *       *       * 

 

 さて、

 かように、コンテンツ市場の成長を願う立場からは、ネットとか、放送とか、今の印刷物といった今ある媒体の枠に捕らわれずに、14兆円のありようを自由に考え抜くことこそが、14兆円の成長を生み出すような気がしてなりません。ITとの融合は大切だけれど、それ自身がIT産業であるかのような誤解は、すべきではない。

 どうしたら、そういう自由なコンテンツ市場のデザインが出来るのか。そこのところを、現在、思案中であります。

 最終的には、14兆円のこの統計が、どんな中身を抱えて、どう動態的に発展していくか、楽しみですね。僕の目標の一つは、現在2%に過ぎないコンテンツ産業の外需依存度を、輸出拡大・ライセンス拡大などを通じ、米国並みに20%まで引き上げていくことです。そこまで行けば、きっと、コンテンツを通じて、日本が元気になる。そんな風になると、ほんとに良いですよね。

 ということで、今回もまた、コンテンツものとなってしまいました。これで二回続けてしまったので、次回以降は、また少し、IT本来の話に戻りたいと思います。

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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