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グローバルなイノベーションの中で誰が価値を獲得しているか 〜 亀山型かiPod型か

2008/01/27 23:11
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プロフィール

村上敬亮

長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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 さんざん、iPodをテーマにしているにもかかわらず、iPodそのものについて余り語っていないように思うので(苦笑)、今回は、クローズかオープンかという視点から、少しiPodの話を。

 

1.亀山モデル

 

 iPodについては、その対局にある、日本の誇る「亀山モデル」と比較すると、更にその特質が見えてくるのではないかと思います。ある意味、オープンなアプローチを採るiPodに対して、クローズを志向する亀山という対比ですね。

 僕自身は、シャープ亀山工場にお邪魔したことがありませんが、僕の仕事仲間は、いろいろな形で勉強する機会をいただいています。彼らの印象を聞いていると、その最大の特徴は製造技術・ノウハウの完全なブラックボックス化。製造技術・ノウハウの外部漏洩を徹底遮断するべく、工場内の情報が厳密に管理されているのが何より印象に残っているようです。

 例えば、「そもそも工場の全容を把握している人は、会長と社長しかいないんじゃないか。」と言われるくらい、工場で働いている人でも工場の全体像はほとんど分からないんだそうです。実際、担当部署から不用意に離れないよう、制服にはゼッケンがついており、監視カメラが常時監視。当然、外から工場の中の様子がのぞけるような窓なども徹底してありません。しかし、そこまで徹底していても、なお、周囲の丘の上にカメラが並んでいたりすることもあるそうですから、企業の国際的な競争は厳しいですね。。

 また、シャープの場合、カラーフィルター、偏光板など主要部材は、近接して立地している企業を中心に調達しており、かつ、液晶パネルから液晶テレビへと一貫生産するという、完全に垂直統合的な体制がとられています。レントの一部でも取り逃がすまいと、完全なる遮断体制がひかれているわけですね。こうして、シャープの業績は、急激に成長してきたわけです。

 

2.iPodモデル

 

 こうした垂直統合型モデルに対して徹底した水平分業路線を採るのがiPod。製品のコンセプトや設計は自社で手がけますが、製造は100%外注です。製造ノウハウは全て外部に任せ、自らは製品企画やデザインに特化。マーケティングに集中しています。問題は、これでアップルは儲かっているのでしょうか?

 G.LINDENはじめUCアーバイン校の先生3人が、iPodの利益構造を例に書いた、"Who Captures Value in a Global Innovation System?"という論文があります。その要旨については、Hal Varianという著名な経済学者がコメントしているページがあるので、こちらも便利です。

  この論文によれば、定価299ドルの第五世代iPodを例にとると、部品総点数は451個。一番高価な部品が、東芝製のHDD.約73ドルです。しかし、東芝のHDDも、そのまた部品は外部調達。彼らの試算によれば、純粋に東芝の付加価値となるのは約20ドルだそうです。実は、iPodの場合、おおよそ原価の約40%以上を日本製部品が占めているのですが(この比率は、iPhoneになって激減します)、付加価値ベースで計算すると、それでも、彼らの試算では、日本の付加価値はたった26ドルなんだそうです。それだけ日本製の部品自身も、更にそのまた部品や資材について海外に大きく依存しているということですね。

 同様に計算していくと、部品供給及び組立企業の付加価値ベース製造コストは、合計で約144ドルになるそうです。したがって、定価299ドルとの差額の約150ドルが、アップルと流通業者の懐に収まっている計算になります。ちなみにアップルの取り分は、推定約80ドル。299ドルの商品で80ドルを、自分自身は原材料や部品調達、更には加工作業のコストも払わずに手元に残せるとすると、これは、なかなか美味しい商売ですね。

 iPodの作り方は、分解すれば容易に分かります。個々の部品を製造しているのは外部の業者ですから、その製造ノウハウにアップル独自の付加価値があるわけではありません。極端な話、構造を調べて同じ部品を発注してしまえば、ほぼ同じ物が簡単に作れてしまうわけです。ですが、デザインや商標は模倣すれば当然罰せられる。同じモノを作ることはできても、同じように販売することはできないわけです。それで一個当たり80ドル儲かっているわけですから、アップルにとっては、必至になってブラックボックス化する必要がないわけです。

 

3. iPodモデルと亀山モデル

 

 我が国が誇るものづくり。特に上流工程との摺り合わせと囲い込み、国内立地でのブラックボックス化。確かにそれは、一つの正しい戦略だと思います。しかし、日本の製造業全員がその真似を出来るのか。それで、デジタル化やネットワーク化が生み出す様々な「つながり」やバリューチェーンの再構築についていけるのか。前述のハル・バリアン教授は、”They(アップル) may not make the iPod, but they created it."という表現でエントリを締めくくっていますが、我が国では、こうした自ら作らない「ものづくり」というのは、成立し得ないのでしょうか。

 僕は、個人的には、成立しうると思うし、早くそのような方向へのシフトを開始すべきだと思っています。もちろん、ブラックボックス化し垂直統合型モデルを維持しても世界に向けて大量に販売できる製品があるのではれば、何もその中身を積極的に公開する必要はないと思います。しかし、市場ニーズがこれだけ急速に展開し、その中で、様々なサービスが競い合うようになると、ある特定の用途(例えば規格化されたテレビ放送)だけに強みを発揮する製品というのは、どんどん売り方が難しくなっていくのではないでしょうか。

  実は4年前に、霞が関で始めて業務としてブログに取り組んだときに、大きく取り上げたのがこのテーマでした。もう更新はずいぶん前に閉じてしまいましたが、このe-Lifeブログのベースに活用した論考でも、同じようにオープン型への傾斜を唱えてみました。今読み直してみると、北京オリンピックのある今年当たりが、一つの変わり目と予言しているのですが、現実はなかなか簡単には変わってはくれませんね。何とも微妙な思いです。

 

             *            *            *

 

 これまでのエントリでは、iPod問題といっても、「Walkmanを最初に作った国が何故、iPodを最初に事業化できなかったのか、」という視点を中心に据えて議論してきました。これに対して、今回ご紹介したのは、「我が国は何故、垂直統合モデルに強くこだわり続けるのか。iPodのようなオープンなビジネスモデルは成立し得ないのか。」。もっと単純に言えば、「今後我が国企業が追求すべきは、亀山モデルか、iPodモデルか、いずれなのだろうか。」という論点です。

 いずれも確たる正解がある議論とは思えません。また、どちらが優れていると簡単に言い切れるような市場の状況にもないでしょう。しかし、随所で進む商品・サービスのデジタル化・ネットワーク化と市場のグローバル化は、否が応でも、この二つの問題を多くの日本企業に考えさせることになっているのではないでしょうか。そういう意味では、是非、一度頭を整理しておきたい話です。

 というわけで、やや復習的な議論で恐縮でしたが、今回は、今後の議論の整理のベースとして、亀山モデル・iPodモデル問題を簡単に整理させていただきました。

  なお、今回のエントリでは、議論の対比のため、シャープ製品=クローズというような書き方をいたしましたが、シャープの液晶テレビそのものは、アクトビラの実装をはじめ、オープンな戦略も視野に入れた商品となっていますので、念のため申し添えます。実際、自分自身、かつてザウルスのヘビーユーザでしたが、その際PC連係機能をはじめとする横の連係機能にはずいぶんお世話になりました。誤解無きようよろしくお願い申し上げます。ちなみに、ザウルスの今は、・・・・・? 今は・・・紙の普通の手帳に戻っていますが・・・(苦笑

 

 

 

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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