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「30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと」

2012/10/03 00:00
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経済産業省のIT融合政策は、ITによって新たな産業を興すための政策パッケージですが、その一環としてNEDOが開発・実証プロジェクトを進めています。8月に公募があり、およそ60件の応募があったと聞いています。今その最終の選考作業が進んでいるはずです。

このプロジェクトが実現するまでには、昨年から、多くの人々の努力がありました。もちろん、産官学の有識者の多くにご協力をいただいたのですが、その中で、私の目から見て特筆すべきなのは、経済産業省やNEDOで身を粉にして頑張ってきた若手官僚の皆さんの働きです。その多くは20代で、こういう人たちが政策を真剣に考えている国は、まだまだ捨てたものではないな、と思ったものでした。

その若手官僚の一人、NEDOでまさにこの開発・実証プロジェクトを引っ張ってきた宇佐美典也さんが本を出版しました。「30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと」というのがそのタイトルです。彼が7年前に経済産業省に入省して、見てきたこと、考えてきたこと、悩んだことを一冊の本にまとめたものです。

私自身は民間に長いこといて、今はアカデミアに身を置いていますが、官の世界を内側から見たことはありません。ですので、この本に書かれていることの多くは新鮮で、考えさせられるものでした。

一つ例を挙げましょう。文書主義という考えがあります。官僚機構の中では、大量の文書が作られ、それが非効率性の一因にもなっています。私のいる組織でも、ありとあらゆる意思決定が、形式上会議を通して行われ、それがすべて文書化されています。明らかに一度しか使われないと思われる規定が、そのたった一度のためにルールとして制定されたりしているのです。しかし、この本で宇佐美さんは、文書主義は歴史の要請によって出てきたものだ、と教えてくれます。つまり、独裁政治が次々に倒れて民主主義の世界になると、ふたたび独裁政治を産まないように、「特定の誰かの指示によってではなく、『その国の国民全員で決めた文書』に基づいて政治を行うという原則」を体現したものが文書主義だと言うのです。

「そんなことも丸山は知らなかったのか」と教養の無さを暴露しているような気もしますが、文書主義の非効率性は、「ふたたび独裁が起きないようにするために必要なコスト」なのだ、という目で見ると、文書主義の必要性もある程度わかるような気がします。もちろん、他のやり方が無いかと言えば、それはまだまだ考える余地はあるでしょうが。

同様に、官僚のキャリア制度や、縦割りや天下りなども、それらの弊害に悩みながらも、なぜそのような仕組みになっているのか、その良い面もあるはずだと宇佐美さんは主張しています。その意味で、いわゆる暴露本とは一線を画して、しっかりとしたバランスのとれた見方を提供してくれます。国家の仕組みは巨大で、複雑です。その仕組みの一つ一つが、多くの議論を経て今の形になっているわけで、それはそれで尊重しなければならないのだと思います。

その上で、宇佐美さんは3つの提案をしています。そのうちの3番目は省庁横断型の「高齢者産業創出庁」を作るべきだ、というものです。日本の国の財政が大きな問題に直面しているのはご存知の通りで、かつてのように右肩上がりの経済成長を前提とした社会設計は成り立ちません。知識も経験も、それからお金も持っている高齢者こそが、経済活性化の原動力にならなければならないのです。この議論は、昨年のIT融合のワークショップでも主要なテーマの一つとして出てきたものです。私自身のことを考えても、子供が二人とも大人になって、これからはどのように社会に恩返しをしたらよいのか、考えていきたいところです。私は今54歳ですが、これから10年、20年にわたって社会のお荷物になるのではなく、いかに貢献できるか、が今後の人生において問われるところだと思います。社会の仕組みとして、私たちの経験・知識が活かせる場があると嬉しいと思います。

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タイトルにあるように、実は宇佐美さんは既に官僚を辞めています。この本でも触れられているように、多くの力のある若手官僚が、激務と、言われのない官僚批判に疲れて霞が関を去っていっていると聞きます。それはとても残念なことです。この本を通して、多くの心ある、優れた若手官僚が霞が関にいることを知っていただきたいと思います。

宇佐美さんが、今後何をやられるのかはわかりませんが、「社会のためになることをやりたい」という気概と才能をお持ちなので、きっと何か素晴らしいことをやってくれるのだと思います。期待したいと思います。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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