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21世紀のレーガノミックス:貧乏人のために「単なる金持ち」を助ける

2006/11/13 05:42
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「CODE」「コモンズ」等の著書や「クリエイティブ・コモンズ」などで知られるスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグ氏のBlogの日本語版。著作権や特許などの知的所有権の問題やオンラインカルチャー関連のトピックスを紹介します。
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FCCの前長官 William Kennardが、土曜のNew York Timesにop-edを寄稿している。論旨は主に、米国における貧困層のブロードバンドアクセスが実に悲惨な状況にあることを嘆くものだ。ひとつの統計(Kennardの論説には登場しない)がすべてを語っている:OECDの報告によれば、米国はいちどもコンピュータを使ったことがない生徒(15歳まで)の割合が多い国で4位となっている。ギリシア、ポーランド、ポルトガル、チェコといった国よりもさらに下だ。

だがKennardの文章でただならぬ点は「ネットワーク中立性」への攻撃だ。いわく、

残念なことに、現在ワシントンで戦われている論争は「ネット中立性」、すなわちネットワークプロバイダが一部の企業に対して速い回線とひき替えに特別料金を取れるか否かをめぐるものだ。基本的には、これは大金持ち(GoogleやAmazonといったハイテク巨大企業。反対派)と、単なる金持ち(電話・ケーブル産業)のあいだの争いである。両者は去年一年間であわせて5000万ドル以上をロビー活動や宣伝に費やすことで、結果的に議会や世論がより差し迫った問題に対処することを妨げている。

つまりこういうことだ:

Kennardに始まりMartinが完成させた8年間にわたるブロードバンド規制緩和により、DSLやケーブル事業者はインターネット本来の中立性を守る義務からほぼ自由になっている。合併に課せられたルールの一部が期限切れを迎えれば、ラストマイルブロードバンドの提供者はどのアプリケーションとコンテンツがネットワークを流れるか好きなように選別できるようになる。かれらはその力を、at&t会長Ed Whitacreが語るごとく、ネットでもっとも成功したアプリケーションやコンテンツの提供者に割り増し料金を課すために用いるだろう。その負担は、わたしや多数の人が論じているように、次の世代の革新を阻んでしまう。

この8年間、規制緩和政策のもとで、われわれは世界の第一位から、Kennardの言葉を借りればスロベニアと競うまで後退した。平均的なブロードバンド接続は米国の方がさらに遅く割高だ。フランスでは、「インターネット、電話、テレビ」パッケージが$32で提供されている。Comcastのサービスでは$150だ。

どこかで、米国の戦略にははたして意味があるのかと、誰かが不安を抱き始めるに違いない、そう思うだろう(State of Denialと比べてみよう)。理論も学者やイデオローグの声も忘れて、ただひとつの単純な問いを考えてみるとよい:この政策は、われわれの競争相手がとっている政策ほど役に立っているのか?

わたしは、そして多くの人々も、そうなってはいないという結論に達した。これは議員たちにネットワーク中立性の支持を求める手紙を送った100万以上の人々の結論でもあるはずだ。かれらはラストマイルブロードバンド事業者に対して、少なくともフランス程度の品質と価格を提供させる政策を求めている。議会にこの問題に対処させようというオンラインキャンペーンは目をみはるものであり、これに匹敵するのはさらなるメディア集中につながるルールを通そうとしたFCCへの反対キャンペーンだけだ。

しかしKennardは、このおどろくべきオンライン運動を貶める。Kennardいわく、これは究極的にはブロードバンド浸透を助けることになる、コンテンツとアプリケーションにおける競争が今後も続くか否かの問題ではない。そうではなく、「極端な大金持ち」が「単なる金持ち」に勝つかどうかでしかないという。いわく、その争いはなんら重要ではない(各種金持ちたち以外には)。よって議会はこの億万長者たちの企みごとから離れ、貧しいものを助けるという真の問題に取り組むべきである。

これは愉快だ。わたしは自分がGoogleの手先だったとは知らなかった。われわれが失敗した政策の変更を求めているのは、次のGoogleが誕生できるようにするためだと思っていたのだが(わたしがYouTubeに関するop-edで書いたのはこれだ)。われわれが憤っているのは、「単なる金持ち」である企業が、他国に並ぶほどのブロードバンド環境を提供しないことに対してだと思っていた。われわれが戦ってきたのは、そうした「単なる金持ち」企業が周波数帯域を買い占め本物の無線競争を妨げようとすること、公営ブロードバンドを禁じる州法を通させて競争を避けようとすることだと思っていた。新しい経済にとって重要なのは、プラットフォームを可能なかぎり競争的に保ち、品質と価格を米国以外の先進国と同じ方向に向かわせることだと考えていた。

だがありがたいことに、Kennardはわれわれの誤解を解いてくれた。ついにネットの問題に煩わされることなく、もっと重要な課題に取り組むことができると知って幸福だ。わたしのリストでは地球温暖化が最上位にある。あなたの優先順位はまた別かもしれない。

だが先に進む前に、忘れてはならないことがある:

現在のブロードバンド政策が米国にとって意味をなさなかったとしても、特定の企業にとっては大きな意味がある。Kennardはそれをよくご存じだ。規制緩和によってもっとも大きな利益を受ける企業の役員の座にあるのだから。op-edのなかでは、Carlyle Groupのために働いていることに触れている。Kennardはまた、Sprint Nextel Corporation、Hawaiian Telecom and Insight Communications(ケーブル事業者)の取締役会にも名を連ねている。そうした企業は「単なるもっと金持ち」になることだろう。GoogleやeBayの負担によってではなく、GoogleもeBayも(そしてComcastもat&tも)思いつかない次の偉大なアイデアを持った次世代の若者たちを犠牲にすることによって。

わたしはKennardを個人的に知っているわけではない。だがかれが非常に知的な、道理をわきまえた人物であるとは聞いている。きっとその通りなのだろう。だがFCC長官を辞した人間が規制対象だった数社のボードに名を連ね、自分が取締役を務める新聞の論説欄を使って「単なる金持ち」企業の後押しをすることこそ貧しい人々のためになるのだと説くのはいささか見苦しいことのように思える。(自社のもっとも聡明な書き手たちにはまるで自分の意見がないかのように装うことに腐心する新聞が、これについては何の疑問も感じないのだろうか)。

仕方のないことだとという人もいる。退任後に利益を得る方法がなければ、優秀な人間を政府で働かせることなどできないのだと。だがもし次の大統領が、FCC長官の任命に際して、規制相手の企業からの申し出には「限られた期間」(例えば著作権の保護期間など)のあいだ応じないことを要求したならば、ふさわしい人材が多数見つかるに違いない。もしそうなれば、「単なる金持ち」企業の利害という影に惑わされることなく、貧しい人々のための嘆願を聞くことができるかもしれない。

[オリジナルポスト 10月23日午前12時44分]
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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