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「事実のずさんな扱い」?

2006/11/06 12:16
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lessig

「CODE」「コモンズ」等の著書や「クリエイティブ・コモンズ」などで知られるスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグ氏のBlogの日本語版。著作権や特許などの知的所有権の問題やオンラインカルチャー関連のトピックスを紹介します。
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HOTIが教えてくれたところによると、かの「The Precursor Blog」のScott Clelandが、FTに掲載されたわたしのOp-Ed記事への反論を書いている。Clelandいわく、わたしが主張した「シンプルなルール」は「薄粥」に過ぎないという(つまり気に入らないといいたいのだろう。個人的には薄いほうが好みだし、ますます寒くなるベルリンの朝にはとてもよい一日のスタートだと思うのだが。薄い濃いに関わらず、粥が馬鹿にした意味で使われるのは残念なことだ)。

Clelanの1ページにわたる非難は、わたしが事実に対して「杜撰な態度を取っている」というものだ。では、どんな罪状が挙げられているか見てみるとしよう(Clelandの言葉は強調してある):

ずさんな点#1:

レッシグの主張:「少なくとも米国では、ブロードバンド競争は死につつある」

調べさえすれば、ブロードバンドサービスの価格は下がり、スピードは速くなり、消費者の選択はますます増えていることが分かるだろう。ブロードバンドへの投資も展開も順調であり、イノベーションは活発だ。

まるでイラク戦争を語るDick Cheneyだ(いやはやまったく。「チェイニー化」と名付けよう)。価格の問題は次のセンテンスまで置くとして:冗談のつもりか?Scott。米国に対して競争力のあるすべての国からみて、わが国は4年前よりさらに下にいる。「10位では10位分低すぎる」といったブッシュは正しかった(まあ、正確には9位分だが)。しかし現在、米国はブロードバンドの普及で16位にいる。状況が悪くなるほど、ある種の連中はますます現実を無視するようになるものだ。

中立性に反対する側は、なぜだれもが真実と知っているところから議論を始めることができないのだろう:米国のブロードバンドはひどい。遅すぎ、高価すぎ、使える場所が少なすぎる。ただひとつの問いは、われわれがこれにどう対処するかだ。

より深く調べたい人のために、この点を証明する便利な1ページのまとめをふたつ用意しておいた:「Debunking the Broadband Market Failure Myth」(「ブロードバンド市場の失敗」神話を暴く)および「Debunking the Broadband Competition Can’t Work Myth」(「ブロードバンド競争は働かない」神話を暴く)。

恐れていたのはこれだ。この問題については「深く」調べてきたものの、Clelandの「まとめ」は読んだことがなかった(「偽りを暴く」(debunking)という語は大嫌いだ。わたしの趣味からすればマルクス主義者的すぎる)。だから深呼吸をして、Clelandのまとめをクリックしてみた。現実には価格は下がっていないという、わたしが根拠にしたデータを否定する証拠が書かれていることを予期しながら。

わたしが参考にしたデータはBroadband Reality Checkによくまとめられているが、まずケーブルインターネットの価格がわずかながら上昇したこと、そしてDSL接続では名目上の価格は落ちているものの、安価なプランでの通信速度が大幅に落ちているために、メガバイトあたりの価格は逆に上昇したことを示している。

Clelandの「偽りを暴く」はこれだ:


実際のDSL価格は、過去2年間で速度がおおよそ二倍になるとともに最大50%安くなっている。安価なプランでは過去三年のうちに最大70%下落した。DSLの平均月額は2004〜2005に最大15%落ちている。

ここで述べられている点のいずれも、MBあたりの価格が上昇したという結論と両立しうる(「過去2年間で速度がおおよそ二倍」については好意的に解釈する必要があるが。Clelandのいう「安価なプラン」は1MB以下の速度しか提供しない)。さて、その証拠はどこだ? Broadband Reality Checkの偽りを暴くデータは? 誤ったデータを根拠にした過失を証明されるのは(学術的な意味で)幸せなことだ。転送速度でみたDSL接続の平均価格が下落してきたというデータを知ることができればさらに幸せだ。だが、Clelandが「暴いて」いない決定的な事実に目を向けてみよう:転送速度あたりで考えたブロードバンド価格では、米国は6倍(フランス)から12倍(日本)高価になっている。しかし心配は無用。何もかもがうまく行っている。戦争はすばらしい。米国のブロードバンドもすばらしい。赤字もすばらしい。何もかも最高だ。

ブロードバンド競争に関するFCCの分析はこちらをクリック。ワイヤレス競争についてはこちら。

反規制派が政府のあらゆる行為を批判しつつ、自分の主張に有利な政府発データだけは例外にできることには感心する。「偽りを暴く」といえば、FCCのその分析はGAOを含め非常に多くからの批判にさらされている。問題なのはZIPコード(郵便番号)を基準に浸透度を測るという方法だ。FCCはあるZIPコード圏内のひとりでもブロードバンドの選択肢を持っていれば、その地域内すべてに選択の幅があると結論づけている。この明らかなごまかしは、GAOのコメントにあるように:「ZIPコード内プロバイダの数は、世帯レベルでの競争を実態より盛んに見せている。」

事実にも分析にも興味がなく、インターネットの自由で開かれた競争が招く破滅について反ビジネス的な決めつけをしたいだけの人間はここをクリックしてSavetheInternet.comへ。レッシグ教授が創立会員を務める団体だ。

いちばん頭に来たのはこの部分、まるでこれが「反ビジネス」派とプロビジネス派との争いであるかのような言い方だ。一生別のことを専門にしてきて30秒だけこの問題について考えたというのなら理解もできるが、この議論に加わっている人間が口にするならこれ以上ないでたらめなレトリックだ。

この問題は、ビジネス対アンチビジネスの争いではまったくない。ネットワーク中立性の問題について、わたしがもう8年来展開してきた議論のすべては、どのような条件がアプリケーションとコンテンツに最大の繁栄をもたらすかということだ。狙いはネットワーク回線の所有者たちだけでなく、インターネットの経済全体の富を最大化することにある。主張のすべては、ネットワークの所有者によって支配されるよりも中立なネットワークのほうが、アプリケーションとコンテンツにおけるより多くの競争につながるインセンティブとなることだ。携帯電話ネットワーク対インターネットを考えてみるとよい。これはビジネスvs反ビジネスではなく、携帯思考とネット思考の戦いだ。

あらゆる事実に反しているにもかかわらず、ネット中立性を規制vs反規制の争いだと信じ込み、それでも平常の生活ができている連中もいる。そうした偽りに対してはあまり多くを書いてきたため、これ以上紙幅を費やしてもなんの意味もないと思えるようになった。ただ、そんな反規制の人々には、FCCを周波数帯域の規制から引き離すことに力を割いて欲しいとは願う。

ずさんな点 #2
レッシグ教授の主張:「ブロードバンド接続を提供するプロバイダはほんの六年前よりも少なくなっており、平均的な消費者にはわずか2社の選択肢しかない。消費者向けブロードバンド接続の過半数は4社が占めており、上位10社が市場の83%を占有している」。

レッシグ教授が説明していないのは、6年前にはブロードバンド市場での競争などほぼ存在していなかったこと、すわなちインターネット接続を事実上独占していたのはダイヤルアップだったということだ。ダイヤルアップでは独占サービスのうえに多数のリセラーがいる状態だったが、レッシグ教授はこれを競争と呼びたがっている。

ああ、わたしも当時を思い出せる程度には歳をとっている。やたらと多くの企業が、より低い料金と高い品質を売り文句に乗り換えを迫ってきたものだ。告白するが、わたしはそれを競争と呼んでいる。なんと呼ぶにしろ、現在のわれわれにはそれがもっと必要だ。

過去6年以上にわたり、規制から自由な開かれたインターネットは真の異業種間ブロードバンド競争を着実に推進し、消費者の選択肢を増やしてきた。

レッシグ氏が嘆くのは、規制者お気に入りのネット接続リセール業者による見せかけの競争の減少だ。そうした業者は基本的にブランドを競っていたにすぎない。その一方、価格・速度・革新的な機能・モバイル性といった消費者が評価する点を巡る、異業種間を含む本物の競争は確実に活発さを増している。

わたしが「嘆いて」いるのは、米国のブロードバンド接続が遅く、料金が高すぎることだ。繰り返すが、もし過去6年間の政策が他の競争力のある国々と同様の価格や品質を実現していたのなら、わたしは真っ先に誤りを認めよう。だがチェイニー・チャンネルをオフにすれば、そして米国のブロードバンドの情けない(そしてますます情けなくなりつつある)現状を見れば、これを招いた政策は誤りだったのではないかと問わずにはいられなくなるはずだ。わたしをすぐ逃げる臆病者と呼んでくれ、Scott。FCCの政策からは真っ先に逃げ出したいと思っているからだ。

レッシグ氏が「ブロードバンド競争は死につつある」という主張から都合良く省略しているのは、現実のブロードバンド価格は過去三年で半分以下に下落しており、競争は活発に増加しているという目障りな真実だ。

ここでも問題は、「転送速度当たりのDSL接続価格が“50%”下落した」という主張を裏付ける「目障りな」データだ。数字を出してくれ、Scott君。TV向けのキャッチフレーズではなく。

レッシグ教授はもう少し経済学と反トラストのクラスをお取りになった方が良いようだ。市場競争の指標となるのは、実効価格、参入の傾向、イノベーションの量であるということを叩き込むためだ。競争する企業の数だけを数えて市場が非競争的であると断じるのは、反トラストしか扱わない学部学生のコースだけだろう。責任のある研究者であれば、競争の指標となる要素はさまざまな市場によって大きく異なり、競争者の数だけでは不十分であることを理解している。司法省の反トラスト部門やFTCに大勢いる実務経験のある法律家たちは、レッシグ教授がこの話題について再び世界を相手にご託宣を述べる前に喜んでレッスンをしてくれるだろう。

疑う余地もない真実といえる。800語の論説の内容だけで、市場支配力についてFCCや法廷に意見を提出するのはばかげているだろう。競争が盛んか否かを充分に示すには、Clelandのお寒いまとめよりはるかに「深く」知る必要がある。とはいえ、Scott、これは論説コラムだ。脚注も許されていない。

ずさんな点 #3:
レッシグいわく:「ネットワークの所有者たちはいま、インターネット企業から"プレミアム・インターネット"にアクセスするための特別料金を取ろうとしている」(太字の強調を付加)

これは1995年にインターネットが商用化されて以来続けられてきたことだ。大昔から、インターネットのバックボーンには段階サービスがあった。また企業は、ダイヤルアップからブロードバンドにアップグレードして以来「プレミアム」インターネットのための料金を支払っている!

これはGeorge Gilderとの論争で、Peter Huberがしていたのとおなじ主張だ。いいかな、だれもバックボーンの話はしていない。だれもバックボーンの規制について議論しているのではない。これはラストマイルブロードバンドについての論争であり、ラストマイルにおける特定のビジネスモデルが競争に及ぼす影響の話だ。

企業が日々「プレミアム」インターネットサービスに金を払っていることも気づかないとは、レッシグ氏はいったいどこの惑星にいたのだろう? Akamaiの「プレミアム」サービスについては聞いたこともないのだろうか。大手のオンライン企業ほとんどが利用している「プレミアム」インターネットサービスのことだが?

これこそまさに、わたしが最初のポストで否定しておこうとした批判だ。もちろん企業は、自社のコンテンツができるかぎり速やかに流れるようあらゆる手を打つだろう。Googleはキャッシュサーバのために世界中で数百万と費やしているはずだ。誰もができるだけ速いサーバを求めてそれなりの額を支払っている。

繰り返すが、これこそわれわれが祝福すべき種類の競争だ。企業は本物の容量と機能を求めて、(比較的)競争的な市場に資金を投じている。

わたしはそれに反対しているのではない。わたしの異議は、(比較的)競争の少ない市場について、そこで行使される力が次のYouTubeたちに与える影響についてだ。もちろん、回線保有者たちがレントを得れば、ウォールストリートでの評判は良くなるだろう。しかしわたしが注目するのは少数の企業の資産ではなく、インターネットの経済全体の富についてだ。少数の企業にとって良ければそれで良いというものではない。

反対しているどころか、この点はネット中立性に対するわたしの立場が一部のそれより極端でない理由でもある。上院で証言したように、わたしはたとえば、ネットワークプロバイダが消費者に対してより高い料金でより良いサービスを提供すること(consumer tiering)には大賛成だ。これもまた、ネットワークの容量を増やすことへのインセンティブを作りだすビジネスモデルだからだ。

企業に対する「アクセス段階化」(Access tiering)はそうではない。あるいは少なくとも、わたしはそうであることを示す経済的分析の登場に期待している。わたしが目にしてきたかぎり、比較的競争が少ない市場では、"access tiering"は明らかな(逆の)インセンティブを作りだす:競争が比較的少ない状況で、「高速インターネット」に追加料金を課すことができるなら、それ以外のインターネットを改善するインセンティブはなくなるからだ。

[オリジナルポスト 10月20日午後9時36分]
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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