お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

伝えることに失敗する

2005/05/30 05:42
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

lessig

「CODE」「コモンズ」等の著書や「クリエイティブ・コモンズ」などで知られるスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグ氏のBlogの日本語版。著作権や特許などの知的所有権の問題やオンラインカルチャー関連のトピックスを紹介します。
ブログ管理

最近のエントリー

ノルウェーでの講演を終えて南アフリカに着いたところだ。ノルウェーではKopinorの25周年記念行事に招待されたが、わたしのスピーチは聴衆こそすべてという教訓の古典的な例だった。完全な失敗のひとつだ。

{追記:(再読して、またコメントを読んで) わたしがKopinorあるいはカンファレンスを批判しているように読めたことをお詫びする。そうした意図ではなかった。もちろん意見の異なる部分もあるが、この文章は将来のネットにおける創造性の経済にとって非常に重要なコミュニティに「伝えることに失敗」したわたし自身への批判だ。スピーチで述べたとおり、Kopinorのメンバーのような著作権管理・徴収団体は、われわれが米国で直面しているような知的財産権の問題に対してより優れた解法である場合も多い。どのような場面でどのような手段を用いるのかこそが建設的な課題だ。わたしの講演はこちらにある。パネルのもう一人の出席者はこちら、質問セッションはこちら。}

この講演の準備には2日間を費やした。伝統的に管理団体による集合的な権利処理が主流という土地で、著作権管理・徴収団体の代表を前に話す機会は非常に興味深いものだった。この方面に関して米国がいかに欧州から隔たっているか、またわれわれが欧州から学べることは多いと知ることができた。

わたしはまず、すべての自由社会で尊重されるべき3種類の「創造性の経済」について説明を試みた。

三種のうちなじみ深いのは「独占権(exclusive rights)の経済」だ("ER経済"と呼ぼう)。ここでは創造へのインセンティブを作りだすために、表現に対する財産権がアクセスをコントロールする。

二つ目は「独占権から自由な」経済だ("FR経済")。たとえばGoogleや、人々が映画のストーリーをお互いに語り直す場合だ。この経済は交渉によって独占権を得る必要がないことに依存しているが、だからといって経済でなくなるわけではない。

第三の、(わたしの考えの中では)新しい部分は、「集合的な取り決めを通じた(collectively negotiated)独占権の経済」とわたしが呼ぶものだ("CR経済")。ノルウェーに多くある著作権管理団体の同類にあたる。(その一部はわたしのモデルに必ずしも当てはまるわけではないが)。

わたしの考えは、自由な社会にはこの三種の健全な共存が必要というものだ。この三種の健全な共存を保証するためのルールが必要であり、三種のうちどの極端主義も避けねばならず、三種のうちどれも他のいずれかに取り込まれることがあってはならない。

聴衆はこの考え方を嫌悪し、わたしを嫌った。出席者のひとりはわたしの考えを「世間知らず」と呼び、ある著作権団体の代表を務めるアメリカ人はほとんど考えられる限りの無礼な態度をとった。(イベントは録画されている。)

質問が終わると、わたしは苛立ちからくる勢いに任せて答えた:わたしの講演は現状に対する説明であり、また対処法の提案である。説明の部分では三つの経済について説明したが、それについては誰も異議を唱えていない。ならば反論はわたしの提案した対応、すなわちそれら三種のあいだの調和が重要であるという意見に対するものだろう。最後の質問者――もうひとりのパネリストに質問したただ一人――はこの点を明確にしていた:文化への規制にはどこに歯止めがあるのか? 自由なままに残されるべきは何か?

これはわたしの質問でもあった。カンファレンスに出席した諸団体は極めて広く浸透しており、新たな徴収先を可能な限り多く見つけようとしている。原則としては、わたしに異論はない。わたしの主張する「フリー」とは自由のことであって価格のことではない。そしてCR経済の偉大な利点は、少なくともアクセスは保証されることだ。

しかし衝撃を受けたのは、それにも自ずから限界がある、またはあるべきという認識の完全な欠如だった。「徴収団体の女王」の異名を持つもうひとりのパネリストMs. Tarja Koskinen-Olssonは、かれらが築きつつある「許諾制の社会」を公然と讃えた。出席者のだれもが、徴収する料金を値上げしたことを誇らかに報告していた。社会はいつ、どのようにこれで十分だと決めるのかいった観点は一切どこにも見あたらない。まるで国税局の会合に出席したら、エージェントたちが増税の素晴らしさについて口々に絶賛していたかのようだった。そこでは税が良いものだからといって(それは確かだ)、税の種類を増やし税率を上げることが常に良いことにはならないと誰ひとり認識していないのだ。

Koskinen-Olssonはわたしがはっきりと示すことに失敗した重大な混同を見せつけてくれた。CR経済がもたらすのは「許諾制の社会」ではない。CR経済が可能にするのはコントロールなしでも報酬が得られる社会だ。「許諾制の社会」とは、財産権モデルの完璧な拡張が社会生活のあらゆる場面に浸透した社会といえるだろう。そこでは個々のあらゆる利用について権利保有者の許諾を得なければならない。弊害は必然的に上昇するトランザクション費用だけではなく、批判的であったり不興を買うかもしれない使い方を萎縮させることだ。

講演のあとカナダから出席した人物と交わした議論は、興味深く目を開かされる(そして最終的には挫折感を覚える)ものだった。彼女の一言によって、その日一日のあいだわたしを悩ませていたものの一部を理解することができた。

カンファレンスにはアフリカからの参加者が数多く出席者していた。人々は繰り返し、著作権システムへのアフリカ人の「協力」を賞賛した。もちろんアフリカ人の「協力」は、アメリカ人の「協力」と同様に良いことだ。だがその賞賛にはこの日のイベント全体に満ちていた考え方が、わたしとカナダから来た人物との間で論争になったのと同じ論法がうかがえる。そのロジックは明らかな間違いだ。

端緒はある教授による最初のスピーチのなかの、自分の論文がコピーされるごとに報酬を受けられるようなシステムを賞賛する言葉だった。わたしはこれを批判し、そのことで「世間知らず」と呼ばれることになった。わたしの発言は、人々が音楽を聞いたり小説を読むために支払いをすることには何の問題もないが、価格が知識の拡散を妨げるかもしれない状況に対してわれわれは大いに注意を払う必要があるというものだ。学術的あるいは科学的な成果の場合、知を生みだし広めるために最適なモデルは、あらゆる利用を一回ごとに計測するものであるとは限らない。研究者とて報酬を受けるべきだ。だがそれをかれらの見返りとし、発見した知識は広まるに任せようではないか。

だがこの考えは間違いだというのがカンファレンスでの一般的な見方だった。例えば、もしわれわれが開発途上の国々に無償で知識を与えれば、そうした国々にとって害になるとかれらはいう。開発途上国はわれわれが創造した真実に対して支払いをせねばならない、われわれの発見をただで利用することができるとしたら、かえって彼らを弱くすることになる、と主張は続く。科学的な発見が広まるに任せて途上国の科学「産業」を破壊するよりは、料金を徴収することで科学を振興しようではないか。

この主張には正直愕然とさせられた。経済学の観点から言えば、これ以上ないほどに明らかな誤りだからだ。知識の発見者が発見について報酬を受けられることを保証する限り、単に途上国における産業の育成という名目で知識の拡散を阻む理由などない。

疑うなら、この提案についてはどう考えるだろう:パブリックドメインにある科学知識をすべて焚書にしよう。われわれが発見した知識を無償で利用することが途上国のためにならないなら、われわれの父祖が発見した知識を無償で利用することもわれわれ自身のためにならないはずだ。科学的発見の利用という「助成」が途上国の経済にとって有害なら、われわれの経済にとっても有害であるはずだ。ではなぜ経済学者たちは、パブリックドメイン一般を禁止あるいは課税することによってフリーなリソースという重荷を軽減すべしと強く主張しないのだろう。

これこそ、CR的心理の出現に際して恐れるべき点だ。わたしは原則的にはCR経済の仕組みを支持している。p2pファイル共有に対して自発的集合ライセンス(Voluntary collective licensing system)を採用すれば、新進のp2pビジネスを片端から訴えるよりはるかに豊かな経済となると考えているし、アーティストにとってもより多くの収入につながるとも考えている。文化が必要とする技芸や科学を振興するための資金を集める方法はいくつもあり、われわれはさまざまな方法を試みるべきだ。

しかしCR経済の文化がもつ危険性は、己のアプローチの限界を見極めることができない場合にある。ER経済の極端主義者のように、またFR経済の極端主義者のように、CR経済の極端主義者は自分たちの成果を良いものと見て、拡大すればするほどさらに良くなるに違いないと考えるのだ。

それは違う。それが間違っていることは実証できる。この完全に初歩的な点を明確にできなかった大失態について、わたしは何週間も後悔しつづけるだろう。

[オリジナルポスト 5月22日午前10時36分]
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー