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地球温暖化 (III):著名知識人たちの評価

2004/09/06 17:04
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「CODE」「コモンズ」等の著書や「クリエイティブ・コモンズ」などで知られるスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグ氏のBlogの日本語版。著作権や特許などの知的所有権の問題やオンラインカルチャー関連のトピックスを紹介します。
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(Richard Posner判事によるゲストBlog)

複数のノーベル賞受賞者を含む経済学者たちが世界の抱える病について議論するという先日の会議の様子からすると、著名知識人たちも地球温暖化懐疑派とまとめて論破できる。

日曜にコペンハーゲンで一週間の幕を閉じた国際会議において、世界が抱える困難を順位づけるために招かれた各国の経済学者たちは、HIV/エイズ、飢餓、貿易障壁、マラリアをもっとも緊急の問題とする一方、地球温暖化をほぼ最下位に置いた。

ノーベル賞受賞者Robert Fogel, Douglass North, Vernon Smithを含む8人の経済学者たちは一匹狼の環境学者Bjorn Lomborgによってコペンハーゲン合意に招かれ、世界の諸問題に対して架空の500億ドルをもっとも効果的に分配する課題に取り組んだ。参加者たちは全員一致でHIV/エイズを最優先と認め、270億ドルを配分した。「たしかに巨額だが、得られる効果からすれば些細なものだ」。次に重要とされた栄養失調には120億ドル、三番目には貿易の自由化が挙げられたが費用は割り当てられず、4位のマラリアには130億ドルが充てられた。

かれら賢者たちは会議に出席するためにそれぞれ3万ドルの報酬を受けとっている。

エイズの蔓延は深刻だが、文明をほろぼす脅威ではない。また医学的介入によらずとも乱れた性生活を避けることで容易にコントロールできる。栄養失調もマラリアもまた深刻な問題だが、これらを根絶することによって招かれる結果のひとつは人口の急増であり、地球温暖化を加速させることになる。なぜなら人口の増加はエネルギー需要の増加(主に化石燃料を燃やすことで賄われる)であり、食糧需要の増加(一部には森林破壊で賄われる)を意味するからだ。地球温暖化はエイズや栄養失調やマラリアと異なり、特に急激に進行したならば文明を崩壊させることもありうる。

以前のポストでも触れたように、地球規模の気候バランスは不安定だ。一万一千年から一万二千年ほど前のヤンガー・ドライアス期と呼ばれる期間、わずか10年程度のあいだに気温は華氏14°(約7.7°C)も上昇した。この気温上昇が始まったころの気候は非常に寒冷だったため(最後の氷期の終わりにあたる)、人類に害はなかった(むしろ逆だった)。だが同じような急上昇がいま起こることを想像しよう。グリーンランドや南極を覆う氷床が融け、海面レベルの上昇によって多くの大都市を含む沿岸地域が冠水することを考えるとよい。あるいは大部分が淡水氷からなる北極の氷冠が融けて北大西洋の塩分濃度が下がり、メキシコ湾流をヨーロッパ大陸からそらす可能性だ。南大西洋から北極へ向かう暖かい海流は、塩分の濃い北大西洋の海水によって東へと針路を逸らされてヨーロッパ沿岸へ流れている。この暖流がメキシコ湾流だが、北大西洋の塩分濃度低下によって本来の北極方面へと向かうことになれば、全ヨーロッパ大陸の気候はシベリア同様となり、欧州の農業は崩壊することになるだろう。

さらに深刻な事態もありうる。以前の記事でメタンによる急激な温室効果の可能性にふれたが、大気中の水蒸気増加による気温上昇がそれを加速する可能性を付け加えよう。水蒸気もまた温暖化ガスのひとつだからだ。また暴風雨の増加は雲の増加を意味するが、雲は日光を遮る一方で地表から反射する熱を閉じ込める働きを持たないため、地球温暖化が逆説的に新たな氷期を早める可能性すら考えられる。なお悪いことに、気温低下は降水を雨から雪に変えて地表温度を下げ、氷を増やすかもしれない。氷は海水面よりも地面よりも多く太陽光を反射する。地表温度の低下は「スノーボール・アース」の再来にまで達するかもしれない。スノーボール・アース仮説とは、6億年前およびそれ以前のある時期において、赤道付近も含めた全球が一部火山の山頂のみを残して厚さ数キロメートルに及ぶ氷の層で覆われていたとする説だ。

この説は論争の的であり、かつて全球凍結に必要な条件が満たされたことはあるのか、また現在や今後予測される条件がそのきっかけになりうるのかは明らかではない。だが示唆的なのは、スノーボール・アース説に描かれる不吉な傾倒、あるいはフィードバック効果の存在だ(カオス理論の領域となる)。たとえば温暖化による降水量の増加、または降水のわずかな部分が雨から雪に変わるといった比較的小さな変化が劇的な気温変動スパイラルの引き金となる。メタンによる急激な温室効果はおなじプロセスの逆転だ。そして降水量の例のように、ひとつのスパイラルは逆のスパイラルの引き金となりうる――それがカオス的システムの本質だ。

説明したような大災害につながる突発的な温暖化が起こる確率は明らかではないが、おそらく小さいと考えてよいだろう。しかし経済学者であれば、あるリスクの期待費用を求めるには確率が低いというだけでなく、リスクが現実化したときの帰結もまた考慮しなければならないと知っているはずだ。だがこの視点は「コペンハーゲン合意」から欠落している。また架空の500億ドルをどう割り当てるかに際して、参加者たちが関連する科学分野について調査した様子も、いかなる種類の費用-便益分析をおこなった様子もない。そして知る限りでは、かれら経済学者のだれひとりとして気候変動の経済のエキスパートではないようだ。経済学は広大な分野であり、ある人物が経済史(Fogel)・実験経済学(Smith)・制度の歴史(North)でノーベル賞を授与されたという事実は、気候変動の経済学について意見を述べる能力を保証するものではない。

[オリジナルポスト 8月27日午後7時09分]
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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