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イノベーションを考える

2004/08/24 09:00
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「CODE」「コモンズ」等の著書や「クリエイティブ・コモンズ」などで知られるスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグ氏のBlogの日本語版。著作権や特許などの知的所有権の問題やオンラインカルチャー関連のトピックスを紹介します。
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(Timothy Wu教授によるゲストBlog)

テクノロジストはさまざまに分かれているが、ある共通の信念で結ばれている。簡単にいえば、われわれはイノベーションを信奉する。オープン化主義者、規制緩和論者、リバータリアン、あるいはサイバー・アナキストも、みなイノベーションを救いとみなしている。われわれの争いは大抵内輪揉めで、この共通の目標をもっともうまく達成するにはどうすれば良いかに関わっている。

だが、われわれがこう自問することはどれほどあるだろう:なぜ? イノベーションの「目的」とはなんなのか? それはただの新しもの好き以上のものだろうか? そもそも関係があるとして、たとえば人間の幸福といったものとどのように関わるのだろう?

この最後の質問にはたしかにいくつかの答えが存在している。イノベーション教会の守護聖人Joseph Schumpeterの答えはなかでももっとも重要だ。かれの考えでは、単なる価格競争ではなく絶えざるイノベーションこそ資本主義下の経済成長を駆動する力だ。資本主義は破滅を定められていると考えつつも、かれは「産業的変異のプロセス……絶えず古きを破壊し、新しきを創造し、経済機構を内部から変革しつづける」ことの美徳を認めていた。すなわち、社会を幸福にするのは経済成長だと信じるなら、イノベーションを奨励することはこうして人類のための目的とつながる。

別の説明はこのようなものだ:われわれは未来が過去より良くなると信じられる理由があるとき、より幸せを感じる。簡単にいえば、継続するイノベーションはそのように感じさせてくれる。ガンの治癒の可能性や、携帯電話のキャリアを替えても同じ番号が使えるようになったと聞けば、われわれはいつか病や早すぎる死やぼったくり電話会社から解放されるかも知れないと思う。それは良い気分だ。

現代の人間が古代ローマや漢王朝よりも本当に幸せかどうかは、この信念とはそれほど関係がない。われわれはどこかに理想的な未来があり、人は迷いながらも少しずつそこに向かっていると思いたいのだ。たとえわれわれ自身は必ずしもその未来にたどり着けるわけではないとしても。

三つ目の、もしかしたらもっとも自明な答えは、たとえばドライヤーや電動歯ブラシといった発明はわれわれの生活をシンプルに、楽に、よって幸せにするというものだ。これには説得力がある。特に衛生設備の分野で、特に一度でも開発途上国を訪れたことがあるなら。

だが、それでも欠けているのは――これらの説明のどれも答えてくれないのは、イノベーションは他の優先事項と比較してどれほど重要かということだ。最悪、イノベーション主義者は新奇であるという理由で新奇なものに執着する、未知のスリルに取り憑かれた人間ということになってしまう。それもいいだろう――もし現代のように技術政策と公共政策が不可分になってさえいなければ。そしてWired magazineはキケロにはほど遠い。多数の幸福がかかっているとき、新しいものへの十代の興奮はかならずしもそう良いものではない。

イノベーション主義者たちの最大の記念碑であるインターネットについて、Brett Fischman教授が学生に尋ねたこの問いを考えてみよう:「インターネットを社会にとって実際に価値あるものにしているのは何か?」

この質問にはしばらく考えさせられている。社会的価値でいえば、比較的イノベーションの恩恵を受けていない最古のアプリケーションの一部、たとえば電子メールがネットの社会的現在価値のほとんどを占めているだろう。もちろん、電力線を使ったVoIP通話だってすばらしくクールだと思っている(Adam Thiererに感謝)。だが古い友だちを見つけたり、連絡を取りあったり、そのほか電子メールが果たしているあらゆることを考えればとても勝負にはならない。このような考え方は、イノベーションへの信仰は人間的な目標とはかならずしも関わっていないと示唆する。もしかすると、明らかに便利なもの――例えば電子メール――をより多くの人に広めることのほうが、ひっきりなしに再発明と再破壊を繰り返し、やっと完璧なデバッガを書き上げることよりもっと重要なのかもしれない。

もちろん反論はあるだろう。電子メールもまた発明であって、考案されるにはそのための環境が必要だ。イノベーション主義者はそれ以外のことをあまり考えない。だがイノベーションの重要性への信念を共有するものたちは、われわれが全力で求めているのはただ新技術の抽象的な美ではなく、人間的な目的と実際にどこかでつながっている理想なのだと意識しておくべきだ。

[オリジナルポスト 8月21日午後5時47分]
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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