今回から数回にかけて、2022年を少し振り返ってみます。まず「個人の情報発信の責任」が大きなテーマとなった1年でした。
サッカーワールドカップの日本代表の活躍は記憶に新しいところですが、一方でコスタリカ戦の敗戦後に、選手達に対する心ない中傷がSNSで残念ながら並びました。
スポーツにミスはつきものだし、野次を飛ばしたい気持ちも分かりますが、それが文字になって可視化されると、やはり大きなダメージを負うものです。鋼のメンタルを持っていると思われがちな芸能人やスポーツ選手でも、おそらく傷ついているでしょう。
こうした状況は以前からありましたが、スマートフォンとSNSが大きく普及した今日、その影響は極めて深刻になり、残念な事故・事件も増えつつあります。
参考:ネット炎上で岩手県議が自殺との報に触れて(2013年6月25日)
https://japan.cnet.com/blog/kurosaka/2013/06/25/entry_30022569/
そこで、社会制度の方でも対策が進んだのが、2022年でした。
まず7月には刑法231条(侮辱罪)の法定刑引き上げと時効延長という厳罰化が施行されました。侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した行為」を対象にしており、具体的には、「キモイ」「ブス」「死ね」といった発言が該当します。
侮辱罪の法定刑が定められたのは明治40年、つまりいまから115年前です。かつては刑法の中で最も軽い刑罰でした。今回「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられています。
また、改正プロバイダ責任制限法が10月1日に施行されました。ネット中傷などの被害に遭った場合、同法に基づいて「発信者情報開示請求」ができますが、以前はサービス事業者(たとえばtwitterのようなSNS事業者)とISPのそれぞれに問合せが必要でした。
今回の法改正によって、両社への手続きを一括でできるようなり、また従来は基本的に裁判所に詳細に申し立てる必要があった手続きも大幅に簡素化され、名誉毀損や侮辱行為を行った人を特定することがしやすくなりました。
さらにヤフーが提供するヤフーニュースのコメント欄での情報発信について、ユーザの携帯番号登録が11月半ばから義務化されました。ヤフコメは以前から誹謗中傷の温床とも言われていましたが、事業者が重い腰を上げて対処に至ったということでしょう。
10月には「発信だけでなく「いいね」も名誉毀損」という高裁判決が下っています。被告は杉田水脈総務省政務官で、代議士という著名人だから特に留意すべき、という要素が判決には含まれています。しかし一般人でも1万近いフォロワーを抱えるような人はそこそこおり、こうした方はlikeもRTもshareも危ないと考えるべきでしょう。
かつての牧歌的な時代は去り、みんなが使うインフラになったからこそ、個人の情報発信は今後は慎重に進めていく必要がありそうです。正直、自分も危ないなという人は、もうSNSなんか辞めてしまった方がいいと思います。鍵垢とか友達限定の投稿とかでも、すぐ特定されてバラされる時代ですしね。