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キリング・ミー・ソフトリー

2010/11/28 10:19
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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今日から米韓の合同軍事演習がはじまるので、少々走り書きを。
 
 

あんた誰?

 
まず今回の北朝鮮による延坪島砲撃事件だが、基本的には北朝鮮軍部による金正恩氏へのテストだと私は思っている。そもそも北朝鮮内部は、党、軍部、中央政府の群雄割拠状態であり、決して一枚岩ではない。それをギリギリのバランスでガバナンスするのが金一族という王朝の簡単なオシゴトで、世襲の際には新参者が新たな王様として適任かをテストするのが倣わしとなっている。
 
一方で今回のテストは若干ハードルが上がってしまった。理由は三つあると思う。
 
一つは、金正日氏が世襲した際に比べ、より一層「金正恩who?」という状況であること。特にプライドと軍歴と年功序列によって組織化が図られている北朝鮮の軍部にとっては、なおのこと「あんた誰?」という状況に違いない。増して明らかに王国が衰退している世界情勢の中で、「軍事問題を外交で解決する」というような連立方程式を解かされているように思う。
 
すなわち今回は、今回の事件の解決を、軍事行動ではなく外交努力、つまり中国をどう説得するかによって図ることが、おそらくは北朝鮮内でも求められている。それこそが党、軍部、中央政府を統合する金王朝の後継者に求められる能力であり、金正恩氏がどのように差配するのかを、北朝鮮内部では固唾を呑んで見守っている状態であろう。
 
 

アメリカさまぁ〜!

 
しかしこれは、おそらく北朝鮮軍部が考えているほど、単純な問題ではない。古今東西を問わず頭に血が上っちゃった軍人さんというのは得てして外交オンチなのだが、今回もその例に漏れないのかもしれない。これが二つめの理由で、そもそも論として、近年の中国と北朝鮮の関係は我々の想像以上に混迷しており、これを解くのは容易ではないということ。
 
たとえば、中国様であっても(いや中国様だからこそか)世襲には反対で、金正日氏が世襲した当時にも露骨に反発していた。今回に至ってはおそらく金王朝は世襲にあたって「すでに傀儡であって、実際は金敬姫−張成沢夫婦が仕切ります」とでも確約したのではないかと個人的には思っている。ただし、アル中とヤクの売人という鉄板コンビにできる国家的仕事って何でしたっけ、とは中国様でなくてもフツーに思うところ。
 
一方、北朝鮮軍部は当然ながら歴史的に中国の軍部と仲が良い。今回の事件が起きた延坪島のあたりも中国漁船の違法操業が問題になっているのだが、あれそういえばうちの尖閣にいらっしゃったのも中国漁船じゃありませんでしたっけ、でもあの逮捕された人って漁師ではないらしいって、少し前の「社長島耕作」に書いてありましたね。そういや同作品絶賛連載中の「週刊モーニング」と、義憤の海上保安官を実名報道した「週刊現代」って、どっちも講談社ですよねえ、みたいな。
 
ところがその中国軍部も中国政府と一枚岩でないのは、それこそうちの尖閣問題の例を見ても一目瞭然(拙稿)。というわけで今回も中国政府は洪磊副報道局長が「中国の排他的経済水域(EEZ)で許可なく軍事行動をすることに反対する」と、あらゆる方面に配慮しまくった結果、単なる独り言になってしまったかのような、スーパー玉虫カラーのセクシーなコメントで北東アジアの安全保障方面を順調に悩殺中。じゃあ半島沿海で宴会をやる分には怒られないってことでオーケー?そしたら操業できない漁民が日本近海まで来ちゃうじゃないですか。やれやれ。
 
いや実際、この主要プレーヤーのガバナンスの不在(北朝鮮)、不徹底(中国)、不用意(韓国)、不連続(ジャパン)こそが、現在の北東アジアの最大の課題であって、しかもお互いそれが分かったところで、全員が「アメリカさまぁ〜!」と第7艦隊(7F)の軍事力を背景とした米国による秩序を期待するという体たらくである。しかしそのアメリカご一行様も、ティーパーティー一座(別名サラ・ペイリンと愉快な仲間たち)のおかげで、来年はイランあたりで宴会をやるんだろうし、その時は例によって5Fだけでなく7Fも出動するんだろうから、困ったものですね。
 
 

島外民間人に死者が出たということ

 
そして今回さらに輪をかけて面倒なことになってしまったのは、民間人に死者が出たこと。しかもよりによって、延坪島の島外の人間であるという。これにはちと背景説明が必要。
 
そもそも北方限界腺とか軍事境界線のあたりに住んでいる韓国民は、もちろんその土地を故郷とする人も多くいるのだけれど、実際にはその意味を分かって住んでいる人が多い。さらに言えば、補助金等も多く出るため、あえて引っ越して住むような人たちさえもいる。だから避難訓練等の経験も豊富だし、そもそも「どうなると危ないか、その時はどこが安全か」ということを、ある程度は理解している。
 
しかし今回の犠牲者のように、仕事等の理由で一時的に来ている人は、そのあたりの状況が分からない。そして悲しいことに、北朝鮮軍の装備はそれほどピカピカではない。韓国軍保有のバンカーバスター等はモグラ一匹でも狙っていける勢いだが、先方のオンボロ兵器がどこに何が飛んでくるかよく分からないのは、ノドン・テポドンシリーズでもおなじみの光景である。
 
そんなわけで、本来ならば「北方境界線?そんなもんシラネ」と突っぱねつつ、ギリギリ感を演出しながら実は混乱をコントロール可能な状況に置くことを狙うはずの北朝鮮側が、今回はそのコントロールに失敗してしまった。しかも、李明博政権が韓国内の世論を統制しきれるかと問われれば、自殺したことになっている盧武鉉氏の政権運営がたたって、これがそう簡単でない。
 
こうした混乱状況を裏付けるように、北朝鮮(おそらくは政府)側は、朝鮮中央放送の論評を通じて「民間人死傷者発生が事実であるなら、極めて遺憾であると言わざるを得ない」と事実上の平謝りである。これが読売新聞あたりに報道されているように(記事)、訪朝した中国の戴秉国国務委員による圧力の成果なら「雨降って地固まる」方向に進むかもしれないんですが、はてさて。
 
 

未来予想図

 
さて、この先どうなるのか。とりあえず今日からはじまる米韓合同軍事演習をきっかけとしたドンパチは、起きない可能性の方が高いんじゃないかと思っている。いまここで中国のメンツを潰したら、それこそ拙いことになるわけで。
 
その上で北朝鮮はもうゲームのプレイヤーとしての資格を失いつつある瀬戸際なので、今後どうランディングするのかが今後の焦点となりましょう。何らかのソフトランディングがあるのか、ハードランディングなのか、週末のお昼時の新宿・渋谷あたりの上空で空中分解するのか。シナリオはいろいろあるものの、ハッピーなシナリオは蓋然性が低い。
 
ではタイミングはいつ頃かといえば、中国様を立てるという意味では、ポスト胡錦涛の権力移行期のど真ん中には刺さらない方がいいだろうというと、案外来春くらいかなと思っている。2月3日は春節、2月16日は金正日氏の誕生日。たとえばこのあたりに向けて何が起きるのかはいろいろ妄想しておいた方がいいと思っている。相場関係者なども。
 
そしてジャパンとしては、引き続き面倒な時代に入っていくわけだが、支持率1%でも続投宣言をした我らが首相の心強い鈍感力を遺憾なく発揮して、我が道を進むべきであろうと思っている。まかり間違っても、尖閣ビデオのようなことを、我が国発の事案として起こしてはならないことを、画数が38の人は肝に銘じるべきであろう。それこそがアイデアズ・フォー・ライフ。
 
なお文末となるが、今回の日本政府の対応は、まあ一応半島有事がずっと予想されていたことでもあり、現政権としては比較的機敏な動きが取れたんじゃないかと相対的には評価できるんじゃないかと思っています。絶対的にはよく分かんないけど。
 
タイトルは、チェン・カイコー監督のハリウッド進出作品から、そのまま借用。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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