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CNET Japan ブログ

波の数だけ抱きしめて

2010/06/20 19:50
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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レイアウトに慣れないので、しばらく短文コラムっぽい感じで、ブログを書いてみる。
 
今回はソフトバンクモバイル(以下SBM)と電波行政のあれこれ。といってもこの話はあまりに香ばしく、その香り高きフレンチローストでは何倍でもおいしいコーヒーが飲めてしまって胃に悪いので、まずは一服だけ。
 
SBMはよく「後発の自分たちは800MHz帯を使えないから不公平だ」と文句を言っている。携帯電話向けに割り当てられている周波数帯域のうち下の方にあたる800MHz帯は、物理学的な特性上、電波の飛びの効率がよく、事業者として使い勝手がいい。それが使えないから不利だし、それを補うために基地局投資を進めなければいけない、というもの。
 
別に規制当局が彼らを邪険に扱っているのではなくて、電波行政の原則として先着順だったからに過ぎない。NTTドコモやKDDIに割り当てられた時、SBMの前身の事業者たちは手を挙げなかった。そしてそのことを承知でまだ移動体通信事業者ではなかったソフトバンクは前身の事業者を買収した。それだけのことだ。
 
こうした物言いや経緯に対し、SBMに対してネガティブな立場の各位は、よく彼らをあげつらう。曰く、そんなこと分かりきった上でボーダフォンを買収したんじゃないのか、あるいは先に工場が操業している隣に引っ越してきたクレーマーが公害苦情を申し立てているようなものだ、等。まとめると「なにをいまさら」ということになる。
 
一方私は、SBMが「もっといい周波数をよこせ」と主張すること自体を、否定するつもりはない。工場とクレーマーの例を出したが、これはあくまでアナロジーである。移動体通信事業にとって割り当てられる周波数が事業の生命線であることを考えれば、たとえ後発であっても「いい周波数が欲しい」と主張する権利は認められるべきだ。
 
私が気にしているのはそこではなく、SBMの「物の言い方」である。日本の一般的なビジネスプロトコルに照らす限り、どう考えても彼らが本気で「都合のいい周波数」を欲しているようには見えないのだ。有り体に言えば「その頼み方でもらえるわけないでしょ」ということである。
 
単純にSBMのコミュニケーション能力が低いのだろうか。そうかもしれない。最近でもiPad絡みであちこち大手コンテンツ事業者に対してひどく迷惑をかけている話を山ほど聞いているし、彼らのビジネススキル(というかビジネスセンス)には疑問符をつけたくなる瞬間がある。なにしろ社長自ら「総務省にガソリン持って火をつける」と言い放つ会社なのだから、推して知るべしなのかもしれない。
 
ただ一方で、アップルとのiPad販売交渉では、ものの見事にNTTドコモを蹴落としている。iPhoneやiPadは事実上SBMの事業を支える屋台骨であり、こうした重要な交渉では卓越したコミュニケーション能力を発揮している。そう考えると、彼らに能力がないと言い切るのは間違いとあろう。
 
SBMが周波数獲得に本気なのだとしたら、彼らがアップルに対してそうしたように、総務省に対しても同様の能力を発揮するはずだ。特にソフトバンクにはかつての民主党議員で落選後に転身した社長室長がいる。彼に相応の能力があるならば、政策に関する情報やロビイング活動はお手のもの、のはずである。
 
そこで私はこう考える。SBMは周波数獲得に本気ではないのでは、と。
 
気配はそこかしこに感じる。すでに春先から議論が進む700/900MHz帯再編の議論は私もウォッチしているのだが、SBMは例によっての物言いを繰り返しつつ、どこか他人事のような態度である。周辺状況も含めて、とても新しい周波数を取りに行くという気概を感じる動きではない。
 
またフェムトセルやマイクロセルなど、現在の運用技術をもってすれば、実は周波数帯域は(極端に異なる帯域でない限り)必ずしも重要ではないのだが、SBMはそれらの導入に熱心である。そういえばWi-Fiへのオフロードも他のどの事業者よりも積極的だ。このあたりも、新しい周波数を取りに行かずに現業をしのぐ動きと、読めなくもない。
 
そしてそもそも新しい周波数を手に入れたとして、設備投資できるのか、という財政面の課題も相変わらずある。先日も2000億円の社債発行が明らかになったが、そもそもこれは銀行団からデットファイナンスを断られているということの証左でもあろう。あの有利子負債の規模であれば、同じく8000億円の調達の必要性に迫られているみずほ銀行が、SBMのデットを飲めるとは到底思えない。
 
そんな状況で主体的な設備投資ができるとは思えないが、SBM自身は非上場なので市場からの迅速な資金調達は困難である。となると仮に設備投資を短期的に進めるとしたら、おそらくベンダーファイナンスの形となるのだろうが、ベンダーとてそうリスクを丸呑みするわけにはいかず、少なくとも使い慣れた周波数帯域でなければ成立しにくいだろう。
 
このように考えると、SBMが新たな周波数帯域を本気で欲しているとは到底思えないのだが、仮にこの説が妥当だとすると、次の関心は「じゃあなぜSBMは規制当局に対してあんなファイティングポーズを取り続けるのか」ということに移る。
 
が、これ以上はフレンチローストのコーヒーで胃を悪くしそうなので、このへんで。タイトルはホイチョイの有名な逸品からそのまま借用。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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