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さらば、わがチャイナ

2010/01/14 15:58
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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Google先生と中国様が突如ガチンコ勝負をはじめたのだが、これは日本にとっても他人事ではない話なので、ちょいと触れておこうと思う。
 
 

まずは概要の確認

概要はCNETの記事を…と引こうと思ったら、こんな重要なニュースなのにまだ記事になってない。ヘーイ、大丈夫かい、CNET編集部!ユーたち、チャイナ大好き朝日たんの悪影響でも受けちゃったんじゃないの?という軽口はさておき。仕方ないので断腸の思いでITmediaの記事を引用…(1/14 16:40追記)と思ったらCNETにも記事があった!ごめんなさい翻訳者の方+ながいたんをはじめとする編集部の皆さま。というわけでそちらを引用。

「彼らがあらわにしてきたこれらの攻撃と監視、そして、ウェブでの言論の自由をさらに制限しようとするこの1年間の企てを総合的に考慮した結果、われわれは中国における弊社事業の実現可能性を精査すべきだという結論に達した。われわれはこれ以上、Google.cnにおける検索結果の検閲を積極的に行わないことに決めた。そして、これからの数週間、われわれが法律の範囲内でフィルタのない検索エンジンを運営できる根拠について、中国政府と話し合っていくつもりだ。これによって、Google.cn、さらには中国にある弊社オフィスを閉鎖しなければならない事態になる可能性があることを、われわれは認識している」(Drummond氏)

そしてGoogle先生の公式発表はこちら。

These attacks and the surveillance they have uncovered--combined with the attempts over the past year to further limit free speech on the web--have led us to conclude that we should review the feasibility of our business operations in China. We have decided we are no longer willing to continue censoring our results on Google.cn, and so over the next few weeks we will be discussing with the Chinese government the basis on which we could operate an unfiltered search engine within the law, if at all. We recognize that this may well mean having to shut down Google.cn, and potentially our offices in China.

英語に多少の心得がある方なら、この全文は読んでおいていいだろう。単なるプレスリリースとはフォーマットからして明らかに異なり、Google先生は熟考の末に覚悟を決めているような印象がある。そしてその苦悶を裏付けるような記事もWSJから出ている。

 グーグルがサイバー攻撃をどうやって発見したかは不明だが、同社は数週間前から調査を開始している。グーグルがサイバー攻撃と中国当局との関連を示す証拠の収集を進める一方、同社のエリック・シュミット最高経営責任者(CEO)は、ページ、ブリンの両氏と対応方法の協議に入った。事情に詳しい筋によると、その話し合いは、グーグルが中国にとどまり、中国の政治体制に従いつつも変えられるところは変えていく努力をすべきか、あるいは中国から撤退するかで衝突し、激しい議論に発展したという。グーグルのスポークスマンは、この件について三氏はコメントを控えるとしている。

 事情筋によると、シュミット氏は、中国の自由化を進めるために中国で事業を展開することは道徳的な意義があるという自身の長年の考えを主張したという。ブリン氏はその意見に強く反対し、グーグルはすでに十分な手段を尽くしたと述べ、これ以上検索結果の検閲を正当化することはできないと主張した。

真偽のほどは定かではないし、特にWSJなので政治的に偏りがあるのは十分考慮しなければならないのだが、ない話ではないな、とも思える。
 
 

ベンサムのパノプティコン

 
よく知られている通り、中国のインターネットは日本や米国のそれとは異なる。どう違うかといえば、諸外国のサイトへのアクセスはフィルタリングされているし、国内の情報もサービスを問わず検閲されている。現に私は先週上海に出張していたが、twitterもGmailもまともには使えず、おかげでネットから遮断されて仕事が捗った…というのは35%くらい冗談ではあるが、とにかくそういうこと。
 
もちろん人間のやることなので完璧ではなく、抜け穴がないわけではない。また完全に遮断されているというわけでもなく、中国在住者のtweetもよく見かける。ただそれも含めて、すべてが政府に見られているという可能性を感じさせることで、多くの人々の抜け穴へのチャレンジは制限されるだろう。いわゆるベンサムのパノプティコン(監房の全展望監視システム)である。
 
もちろんGoogleとて例外ではなく、彼らもこれまで政府による検閲を受け入れるように要請され、受け入れてきた。"Don't be evil"を掲げる彼らとしては、自らの主義主張を曲げることであり、事実これをもってGoogle批判を掲げる人も少なくなかった。もちろん彼ら自身がエシュロンに手を貸しているらしいという話から、そもそもGoogleは二枚舌であると批判する人もいるが、それはさておき。
 
しかしGmailの中身などに(どうやら政府筋からの)攻撃を再三受け、堪忍袋の緒が切れたというのが今回の顛末らしい。そして今日あたりからは検閲も受け入れず、どうやらいま現在でGoogle中国の検索結果には「天安門事件」が含まれているらしい、という話が聞こえてきている。野次馬的には「盛り上がってまいりました」というところだろう。
 
 

何でもアリのオレ様エコノミー

 
ところで本件、単に「Google先生vs.中国様」というアングルで盛り上がるのも十分楽しいのだが、考えすぎることを生業とする私はもう少し問題は複雑だと思っている。というのも、中国様の特殊性というのは、ネット周辺でも本件に限ったことではなく、またそもそもネット以前のあちこちで見られる代物だからだ。
 
たとえばネットに関して言えば、実は従来から下位層やセキュリティのあたりでは話題になっていた。先に触れた検閲もしかりだが、ドメイン名やレイヤー2/3あたりのプロトコル設計、あるいはルーティング設計で結構好き勝手やっている、というのはよく知られたこと。最近ではIETFやITU周りの標準化でも暴れており、その界隈では結構頭の痛い問題となっている。
 
またIPアドレス枯渇問題とIPv6移行問題でも、中国は世界から見て悩ましいポジションにいる。放っておけばIPv4アドレスは中国が全部飲み込んでしまうし、取引解禁がアナウンスされた昨今では、彼らが札束でこれを買いにくる可能性は否めない。特にクラスAの一部は伝統的に個人(あるいはそれに近い団体)が所有しているものがある。目の前に金額欄の真っ白な小切手が置かれた時、何が起きるかは定かではない。
 
このように、何でもアリの「オレ様エコノミー」である中国を相手にしたビジネスは、率直に言えばリスクが大きいわりに、リターンが少ないまま終わってしまうということである。実際Googleでさえもそうした状況にある。つまるところ、中国系企業以外は魂でも売らない限り、中国相手にろくなビジネスはできない、ということなのかもしれない。
 
そしてこれは「右に同じ」の話で、今後こうした動きが他社にも広まっていく可能性は否定できない。特に昨年の経済危機前後から、中国はこのあたりの態度が露骨になってきていて、たとえば3Gケータイの通信機器(基地局)に関しても、実にシェアの8割近くを中国系ベンダーが占めている。商機を狙っていたエリクソンやノキア・シーメンスの落胆ぶりといったら、そりゃもうすごい勢いでリストラに走る始末。
 
 

日本にとっては他人事ではない

 
そして冒頭で「これは他人事ではない」と書いたのは、日本はすでに中国市場依存の体質が強まっているからだ。
 
前述の3Gケータイ基地局もそうなのだが、金融危機以降の大規模公共投資で、中国の通信や家電の世界はそれなりに好況にわいている。この御相伴に、日本の家電メーカーなどが与っているのは、その筋であればよく知られたこと。中国東北部の、電気も水道もないような家庭に、亀山のパネルや門真の冷蔵庫があったりなかったり、という話である。
 
これが売上の一部という話なら、まだシャレで済む。しかし長引く内需低迷の中、「市場としての中国」は、特に日本の製造業にとって生命線になりつつある。いまや中国様にお買い上げいただけないとおまんま食い上げ、ということである。そう考えれば、某おてあらいさん等が、ちぎれんばかりに中国様に尻尾を振っているのも、分からなくはない話。
 
しかしこの時、日本のメーカーは大丈夫でGoogleは魂を売らなければならない、という話はない。つまり中国でビジネスを展開する以上、日本もGoogleと同様にリスクを取り、また何らかの決断をしていかなければならない、ということである。その際、中国市場が本当に自らの命運を託せるほどに魅力的な代物なのか、踏みとどまって考える必要はあろう。
 
端的に言って、私自身は、ケース・バイ・ケースかな、という気はしている。魂を売ってでも食い込める市場、また食い込むことで実質的に支配できる(すなわち中国様の方を屈服できる市場)であれば、それは参入を検討すべきだろう。しかしそうでなければ、「民主主義なき資本主義」というジャングルの中でサバイバルするのは、民主主義という規範を持つ我々にとって、容易ならざることである。
 
そして本当は、本件から「民主主義と資本主義」の両立をなしえた我がジャパンの真価と、その同盟関係の本当の意味を、私達は今一度噛みしめなければならないのではないかと思っている。それこそ、修学旅行のように議員団を連れて中国様の皇帝に表敬訪問するどこぞの政党の御仁などは、4億円のロンダリングに頭を使うよりも、こういうことに頭を使って欲しいと思うのだが、それはまた別の話。
 
タイトルはチェン・カイコーとコン・リーの名作「さらば、わが愛/覇王別姫」から借用。そういえばコン・リーは最近になってシンガポール国籍を取得したよね、みたいな。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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