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みんなペイドパブ

2009/04/26 10:58
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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スーザン・ボイルを枕に、今後のマスメディアの行方などについて、ちょいと簡単に考えてみる。タイトルはジュゼッペ・トルナトーレとマルチェロ・マストロヤンニの佳作からの借用。語呂は合ってないけど。
 
 

スーザン・ボイルはペイドパブ?

スーザン・ボイルの話についてはこちらに詳しい。ざっくり約すと、

グーグルの動画交換サイト「ユーチューブ(youtube)」にイギリスのスコットランド在住の女性、スーザン・ボイル(47)さんがイギリスのTVの歌唱コンテスト番組に出演した模様を収めた動画がアップロードされ、ユーチューブの全世界週間再生回数ランキングで1位、2位を独占するという大人気となっていることが14日までに明らかとなった。

という感じ。このスター誕生的なストーリー自体は枚挙に暇がないのでスルー。あと、これが以前のポール・ボッツ氏の成功に味をしめた制作会社側の仕込みフレーバーを持っているであろう、ということもとりあえずここでは割愛。

気になったのは、日本での展開。上記のサイトもそうだが、あちこちのサイトやテレビ番組で、ほぼ同時期にこの話題が流れた。そして私もたまたまいくつかを見かけた。

どうせ日本のマスコミは同じような通信社のニュースをネタにすることが多く、特に外信に関しては翻訳まで一緒ということが少なくないのは、いくつかの新聞を並べて見れば一目瞭然。ただ今回に関しては、

  • いちいち「動画配信サイトのユーチューブで…」とコメントさせている
  • 使っている映像はかなり似通っている
  • 枠も似たようなところ(報道・情報番組系)を狙っている

というあたりで、これはペイドパブじゃないかな、と思った。もちろん裏を取るつもりもないし、多分できないので、これは想像に過ぎないが、雑誌や新聞の記事広告と一緒で、何らか違和感が残るものである。
 
 

勃興するペイドパブ

ペイドパブを乱暴に説明すれば、広告主が媒体にお金を払ってあたかも一般情報のように自社に都合のいい話を流してもらうこと。プロダクト・プレイスメントはその派生の一つで、実際の製品をその番組の中に採用してもらって露出すること。ドラマの主人公がキリンビールばかり飲んでいるとか、そういう感じである。

そんなことやってるの?と思われる向きはさすがに当blogの読者には少ないと思うが、手法自体は極めて古典的で、映画の世界ではもうかれこれ50年くらいの歴史があるはず。実際、欧州議会がプロダクト・プレイスメントの規制をEU指令の中で出しているのが1997年(ちなみに2007年に一部解禁されている)。

日本では効果測定技術やビジネスモデル開発が遅れ、せいぜいタイアップ(サスペンスドラマで温泉旅館の建物がバーンと映る感じ)か、それさえもサービスに近い形で動いていたが、このところペイドパブの事業者が盛り上がりつつあり、産業化しはじめている。

なお、blogの世界でも、ペイパーポスト(お金を払って都合のいいエントリを投稿してもらう)がすでに動きつつあり、先日少々騒動になったのは記憶に新しいところ。このあたりについて云々するつもりはないので、論評はざっくり割愛するが、もはや生活のあちこちに埋め込まれた広告手法だという認識は持っていいだろう。
 
 

構造変化の暗示

ペイドパブやプロダクト・プレイスメントが悪い、とカマトトぶるつもりは、ここではない。もちろん、メディアリテラシーとか情報操作とか、そういう観点での議論は非常に大事で、だから欧州議会が規制をかけているのだが、とりあえずそれは別の議論としておこう。

最近気になっているのは、むしろサプライサイド、すなわちテレビ局や制作会社側の問題である。率直にいって

  • ペイドパブだらけじゃない?
  • ペイドパブがなければ時間が埋まらないんじゃない?
  • ペイドパブがなければもはや番組化できないんじゃない?

という懸念を私はもっている。実際、大幅なリストラが敢行された今春の番組改編で、老舗番組として生き残ったのは、海外情報番組、地域情報番組、旅番組、あとはサスペンスドラマなど、どう見てもペイドやタイアップがビジネスモデルの中心を担っている、と思わせる番組ばかり。

一方、民放テレビ局の基本的なビジネスモデルは、枠を売って広告収入を得る、というもの。だとすると、ペイドパブが興隆しているということは、すでにそのビジネスモデルが疲弊しており、それだけではテレビ局や制作会社がもはや維持できない、というところに追い込まれていることを暗示しているように思う。すなわち、上記の3点に加えて、

  • もはやペイドパブがなければテレビ局って潰れるんじゃない?

という問いが付け加えられはじめているのではないか、ということである。
 
 

それでもペイドだけでは持たない

それでも、ペイドだけで現状の体制を維持できるとは、とても思えない。たとえば、大都市圏のビジネスパーソンなら概ね知っているであろう、夜の某経済ニュース番組の場合、1ネタで300-500万円程度が相場となる(不景気なので今はもっと安いかもしれない)。ペイドは制作や編成調整のコストがかかるので、局側の真水として得られる取り分は、制作費全体から見れば焼け石をジュージュー言わせる程度だろう。

また、ペイドパブは、やりすぎるとメディアの根源的な価値、すなわち「メディア=中間者、仲介者」としての存在意義を毀損することになる。ペイドのネタだけでニュース番組を埋めてしまうと、枠と枠の間に流れる企業広報番組の拡大版のようになってしまうので、せいぜい1回の放映で1-2ネタだろう。というわけで上限も限られている。

さてどうするか…そんなことを考えるお手伝いを、いくつかの業務で手がけはじめているのだが、結論としては、かなり抜本的な動きを早急に(それこそ今年度中に)行わなければならない局面であるにもかかわらず、

  • 政治体制が落ち着かない
  • 経済も大変なことになっている
  • というわけで行政も揺れている
  • それを様子見せざるを得ない産業である
  • そして経営者は身動きが取れない

というわけで、ヘタをするといくつか自壊するところが出てくるかも分からず、またそのダメージコントロールやコンティンジェンシーを考えないで、「ネットで何かチャレンジしようよ!」とかいう脳天気な話ばかりしているのは、この産業においては、もはや経営オプションの分析にならないし、何の役にも立たない議論ですね、というところまで追い込まれているように思う。

あるいは逆説的に、そこまで追い込まれた状況だからこそ、私のようなところに助けを求める企業があるのだろう。そんな潮目境目のところ、「飛んで火にいる草なぎ君」というのがなんとも痺れる展開だと、改めて思わざるを得ない麗らかな春の休日に、お目汚しを失礼。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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