お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

ギャング・オブ・バルセロナ(1)

2009/02/20 18:13
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
ブログ管理

最近のエントリー

こちらの記事(次世代ケータイインフラは世界規模で戦国時代に)の続き。端末の話に進む前に、せっかく聞いてきたので、記者会見やカンファレンスの話をいくつかご紹介したい。ちなみにあともう1−2回バルセロナの話を書くつもり。

(追記)冒頭のリンクが間違っていたので修正。ついでに写真も何枚か。 
 

錚々たる顔ぶれが並んだ記者会見

イベント全体の記者会見が初日に行われた。フィナンシャルタイムズやCNBCなどの名だたるプレスが居並ぶなか、ちゃっかり私も参加してきた。壇上に並ぶのは、

・ロブ・コンウェイ(GSMA CEO)
・ジェフリー・サックス(Earth Instituteディレクター)
・フランコ・ベルナルド(テレコムイタリアCEO)
・王建宙(チャイナテレコムCEO)
・ジョン・フレデリック・バクサス(TelenorグループCEO)
・カール・ヘンドリック・スヴァンベリ(エリクソンCEO)
・アレクサンダー・イゾシモフ(VimpelCom CEO)

という、テレコム業界の錚々たる面々。並べてみると、開発経済畑のサックス氏だけ異色に見えるが、これも後述するとおり、全体のトーンと完全にフィットしていた。

GSMA2009記者会見

まずコンウェイ氏が、昨今の経済危機の深刻さに触れた上で、それでもモバイルブロードバンドには大きな可能性があること、通信キャリアの投資は長期にわたって行われるものであること、700MHz帯をはじめ周波数の問題は、政府と協調して、さらなる解決・獲得が必要であること、そしてそして前回も触れたとおり「LTEは我々の未来だ」ということを宣言した。

続いてサックス氏は、モバイルは世界の経済危機をリカバーできる産業だと述べた上で、G20がG7に代わって世界をリードする時代であること、中国が今後のこの産業を牽引する存在になることなどを語った。全体的に、開発経済の視点からの言及が多かった。一方、機械間通信(マシン−マシン)のニーズが世界的に一層高まるであろうことを指摘した。明言はなかったが、環境分野でのセンサ等も意識したものと思われる。

王氏(チャイナモバイル)はこれを受ける形で、中国も経済危機のダメージを受けていることを踏まえながら、それでも昨年だけで8800万人の新規加入者が存在し、この旧正月だけで90億通のショートメッセージが交わされたことなど、中国のモバイルが依然成長中であることに触れた。

また同氏は、今年の第3世代携帯電話(3G)インフラ投資は中国政府自ら行うことが決まっているが、今後はインターネットアクセスやチャット、音楽配信、クラウド・コンピューティングなどが期待される成長分野であり、モバイル・ブロードバンドが大きなトレンドとなるだろう、と述べた。なんというか、みんなの期待を一身に受けて、自信満々である。

一方、ベルナルド氏(テレコムイタリア)やバクサス氏(Telenor)、またスヴァンベリ氏(エリクソン)は、モバイルブロードバンドの進展に伴い、周波数の問題は今後さらに重要となるため、オークション制度の検討も含め、政府やITUとの協調が不可欠との認識を示した。またイソジモフ氏(VimpelCom)は、コミュニケーションや情報共有という人間の根源的欲求に根ざしたこの産業は、不況に強くラッキーである、と前向きな見通しを語った。
 
 

新興国のプレゼンス台頭

全般の印象としては、中国の勢いの良さに代表されるように、新興国の成長がモバイル産業全体の今後の鍵を握っていることを強くうかがわせる内容だった。実際、質疑応答の中でも、スヴァンベリ氏が「中国はエリクソンの10%の売上を占めており、今後も成長が期待される。つまり「マジでガチで重要な市場」です。まあアルカテルとかの競合も同じ認識でしょうけど」と会場の笑いを誘っていたが、そんな雰囲気だ。

実はこれは、記者会見だけでなく、他のセッションにも、あるいは今回のイベント全体にも通底する雰囲気だった。実際、モバイルペイメント(マイクロペイメントやクレジットカード決済)に関するセッションで冒頭にスピーチしたのは、インドのNo.1移動体キャリアであるバーティ・エアテルだったし、HSPA+に関するセッションでは、南アジアだけでなくアフリカを見据えた展開が議論の中心となっていた。

こうした地域は、モバイル通信の得意領域である。特にセッション中で何度も搭乗した新興国の「ルーラル(地方部)」のネットワーク整備に関しては、固定網が未整備なためバックホール自体も無線網で行う必要がある。そもそも電気が来ているかも怪しい、そんなルーラル地域では、無線によるインフラ構築の方が、安くて早いのだ。そしてここに一度食い込んでしまえば、先々の発展の果実を得られる。正しく「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド」の考え方である。

新興国の台頭は、彼らがこうした「最大顧客」の顔を持っていること、そして同時に「潜在ベンダー」の側面も有すること、この両方がかみ合った結果である。前者については、前述の通り3Gインフラ投資のファイナンスの面倒を中国政府が見ることが決まり、お客さんとしての姿が一気に大きくなった。また後者についても、そうした市場化の動きを受けて、huaweiやZTEが元気そのものである。


 
 

エコノミーの変化に対応せよ

事実だけ並べると「ふーん」という程度の話に思われるかもしれない。しかし私は、これらの動きが「大変革」だと考えている。特にGSMのインフラ整備が顕著だが、従来は欧米のベンダー(特にエリクソンやノキア)が自社でファイナンスを調達し、それを原資に途上局にインフラの「ばらまき」を行い、ソリューションや端末で回収する、というエコノミーを形成していたからだ。

中国政府の動きは、この構造を根底から覆すものである。おそらく彼らは、ある程度は自国産業の育成に有利となるようなファイナンスを行うだろうし、またベンダー主導のエコノミーでない以上、既存のプレイヤーは別の動き方を迫られることになる。実際エリクソンは、STエリクソンというカンパニーを立ち上げ、新興国の端末普及に向けたチップセットの開発を進めている。産業の中での立ち位置を変えてでも生き残る準備を進めているのだ。

このような激しい変革の中、日本企業の存在感が薄いのは、やはり残念だ。本来ならば、国のカネを引っ張り出して新興国のインフラを作るのは、道路や箱物では日本のお家芸だった。またインフラベンダー紐付きでない3Gインフラができるのであれば、お得意の高性能端末を売り込む商機のはずだ。しかし僭越ながら、商材は一応手にしているのに、売り手にも買い手にもなれず、あてもなく漂っている印象である。

すでにドコモはインドのタタ(インドでは4位の携帯電話事業者)に出資したが、せっかく日本円も高いのだから、今こそこうした動きをもっと強めていくべきだろう。あるいは反対に、新興国からの出資を仰ぎ、一緒にエコノミーを作っていくのも一つの手である。幸い世界経済が停滞してくれている昨今、いま動けばまだギリギリ間に合うと信じたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー