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GSMたちの沈黙

2009/01/18 00:12
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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GSMがどれくらいボロなのかが分からないと、前のエントリは結構理解しづらいんじゃない?というご指摘をいただいた。確かにその通り、というわけで私の体験談を枕にしつつ、前のエントリを改めて解題。
 
 

カメハメハ大王、あるいは吉幾三としてのGSM

まず回線品質から。これはいろいろな状況にもよるのだが、基本的に日本の携帯電話やPHSのように「ほぼつながる」ということはない。欧州でも10回に1回、新興国だと3回に1回くらいは、そもそもつながらなかったり、つながっても途中で切れたり。

理由はいくつかある。一つはGSMの基地局スペック自体が、それほど高需要を満たす構造を有していないこと。そもそも設計が古く、その頃に想定された使い方や需要を、現状は大きく超過している。それを無理矢理しのいできたツケが出てきているということだ。

もう一つはバックホール、すなわち基地局から収容したバックボーン回線の問題。先進国であれば光ファイバーで接続されているケースは少なくないのだが、新興国の場合はせいぜい都市部の一部で有線化されている程度で、大体はバックボーンも無線で収容していることが多い。実際、中国やインドの郊外にあるGSMのアンテナタワーには、キノコのようにパラボラが大抵ついている。

これは結構やっかいで、どんな環境でどの帯域をどう使っているか、にもよるのだが、場合によってはバックホールレベルで「雨が降ったらお休み」になってしまう可能性がある。通信のプロの方、あるいはアマチュア無線で遊んだ経験のある方なら、このあたりしみじみお分かりだろうが、無線技術とはかくもセンシティブなものなのだ。

あと、これはGSMそのものの課題ではないが、電力事情という問題もある。そもそも光ファイバーを引き回せないような地域であれば、電力も十分でないことがままある。平たく言えば、停電で基地局が停止することが、しばしばあるのだ。もうこうなると、カメハメハをはるかに超えて、ほぼ吉幾三の領域に達していると言わざるを得ない。

【追記】 ソフト・ハンドオーバーについても言及すべし、というご指摘をいただいた。確かにこれも大きな違いである。CDMA方式(日本の主流)の場合、同時に複数基地局と通信できるため、安定して連続通信が可能となるが、GSMはさにあらず、という話。こうやって考えていくと、WAPの使い勝手の悪さやEDGEの限界など、他にも触れるべきことが山積しているような気がするが、ひとまずこのエントリではこのへんで。 
 

黒ヤギさん、あるいはハンニバル・レクターとしてのGSM

そんな具合なので、ネットワーク側から端末に押し込まれるSMSも、届いたり届かなかったりすることがある。まあそんなもんだよね、と分かっていればイライラすることもないだろうが、電車が10分遅れただけで鬼の首を取りにいかんばかりの勢いで駅員に襲いかかる日本人のメンタリティでは、山羊の頭でスープでも作ってしまいたくなるところだろう。それなんてアンジー。

そうした基地局側の欠点をカバーすべく、GSM端末は電波の出力が高い。仕様で比較すると、W-CDMAが最大300mWなのに対し、GSMは最大2W(2000mw)と7倍近い。そしてこれは、そのまま消費電力の問題となり、まずもってGSMは電池の持ちが悪い。安物端末をタフに使うと、大体1日持つか持たないか、というところである。従って端末の電力消費問題はGSMケータイの技術開発のキモとなっている。

そしてこれは、率直に言って、身体に悪い。これも無線技術が分かっている方、あるいは生理学の心得がある方なら大体分かるだろうが、高周波数帯を高出力でガンガン使っているのは、あえて乱暴な言い方をすれば、電子レンジの中に頭を突っ込んでチンしているのに近い。脳味噌のムニエル、あなたならディーン&デルーカの箱とフォションの箱、どちらに入れる?

ちなみにこの点で相対的に一番安全なのはPHSである。使っている周波数帯は高いが、端末出力が弱い(弱くても十分なサービスができる基地局設計になっている)ので、SAR値が極めて低く、医療現場のセンシティブな領域でも使えるものとなっている。日本ではよく知られている話だと思っていたら、そうでもなさそうなので、あえて補足。
 
 

ビジネスチャンスはそこにある

そんなわけでGSMは、古くて、雑で、乱暴な技術といえる。しかし逆に言えば、それくらいテキトーな技術ゆえに、とりあえず電気とタワーさえ確保すれば、基地局をジャンジャン打っていけるところが、GSMの魅力でもある。要は、「しょせん電話なんだからこんなもんでいいでしょ。ネット?必要ならPCでやるよ」というのが、日本を除く世界のユーザの声ということだ。

そしてそれゆえに、GSMは日本を除く世界各国で、3G移行の最大の障壁として立ちはだかっている。日本のようにユーザニーズが高く、また潤沢な資本蓄積を持つキャリアが歯を食いしばれば話は別だが、新興国はおろか欧州でさえもそんな状況ではなく、3Gへの移行がなかなか進まない。ようやく中国が免許を交付し、またインドも来月出る予定だが、見通しは険しい。

あるいは日本とて例外ではないとも言える。ソフトバンクモバイルが「iPhone 3Gを無線LANで使おう」と言っているが、普通に考えれば携帯電話キャリアの自己否定そのもの。しかしそもそもソフトバンクモバイルのインフラは、iPhone 3Gのような使われ方を想定しておらず、また彼らにインフラをアップデートするだけの体力がないのは、いみじくも彼ら自身が宣言している。PC向けデータ定額が唯一発表できないのも、むべなるかな。

さておき。そんなGSM支配の先に、ビジネスチャンスはある。そもそもGSMではやはり足りないという声が出てきているし、iPhoneはさながらその拡声器としての役割を果たしている。そんなわけで、ざっくり言えば、

・3G投資向けのファイナンススキーム
・3Gをスキップする人たちの吸収

このあたりはどんどん狙っていいところだろう。前のエントリで「商社やODAを焚き付けて」と言ったのは、主に前者のこと。新興国の3G投資を現地の政府やキャリア主導で進め、そこにいろいろな商流を絡めてファイナンスしていく。この方法は別に目新しいものではない。ODAで道路や鉄道を作ったからこそ、日本の自動車や鉄道車両が世界で売れたのである。

さらに私は、今となっては後者の方が新しい市場を拓けると思っている。要は、「いまさらプリウスの二番煎じを作るくらいなら、とっとと電気自動車に行っちゃった方がいいんじゃね?」ということだ。特に、同じことを狙っていたモバイルWiMAXが、総本山のインテルの心変わりによって揺らいでいる今、改めていろんなチャンスがあるはずだ。
 
 

バブルに乗った企業、乗り損ねた企業

最後に、前回のエントリに対して、「華為も同じ道を辿ってるような気が。」という鋭いご指摘をはてブにいただいた。実際、彼らは投資銀行の後ろ盾の下、東南アジアのインターネットを含むIPネットワークの機器をタダでばらまいていた。このあたりは、モバイルWiMAXやイーモバイルの話を含め、昨夏のエントリでも書いたとおり。

要は資本市場が中心となってバブルを作り、そのバブルを実体化・強化するドライバーとして通信機器ベンダーが一役買っていたのである。そもそもBRICsという概念自体、言い出しっぺはゴールドマン・サックスだ。そのバブルに乗れたのがノキアや華為であり、乗るタイミングを逃したのがノーテルだと言えなくもない。ノーテルには本社に知人もおり、気の毒だとは思うが、彼らの光ファイバー関連機器への移行タイミングは、ちょっと早すぎた。

バブルと恐慌は資本主義経済の宿命である。ディール・メイキングの末席にいる身でもあり、そのビジネスのやり方はおかしい、などとカマトトぶるつもりはない。問題は、経済状況が悪化した現在、このビジネスモデルとどう向き合うか、ということ。というのは、通信ビジネスを産業ごと輸出するには、垂直統合のパッケージを維持しなければならないものの、その維持には莫大な資本が必要なのである。

手がけている案件もあるので詳細は言えないが、一般論としては、

・実需があり過度な成長が求められない市場
・確実なフリーキャッシュフローを得られるビジネスモデル
・確実で堅牢な技術
・少ないレバレッジで一定のパフォーマンスが得られる付加価値

を組み合わせて事業を作っていくという丹念な作業を、ショートカットしながら迅速に作り上げる必要があると思っている。すなわち、"back to the basic"であり、それを求められる資本の重さとどう折り合いをつけながら進めていくか、ということに日々悩みながら、あちこち動いている次第。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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