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過去のないケータイ産業

2009/01/16 00:34
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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年明け最初の日曜に、遅い朝飯を食べながら眺めていた「サンデー・プロジェクト」の、後半に流れてたフィンランド特集の内容に、やや違和感があった。それを枕に、ちょいとケータイの産業論を徒然と。
 
 

「マジメにものづくり」という罠

番組そのものは、日本はフィンランドを見習い、国家一丸となって海外市場を目指せ、というような話だったと思う。ブログ界隈でもいくつか議論されていたようだが、番組の全体的な主張自体に違和感はない。相当規模の国内市場を有しつつ、海外市場も開拓しなければペイしない日本としては、どう論じたところで「内需も外需も等しく大事」という結論しかないのである。

気になったのは、特集の中心として取り上げられていたノキアへの言及。この中で、

・ノキアはGSM当初から世界指向があった
・ノキアは安くていいものを作ったから世界制覇した
・フィンランドには国全体でいいものを作る制度や環境があった

という話に集約されていた。しかしそんな単純な経緯でノキアが成功したわけはないし、むしろこれでは「やっぱりマジメにものづくりだけやっていればいいんだ、政府はそういうことだけサポートしてろ」というミスリードを招きかねない。

そもそも海外でノキアのGSM端末を日常的に使ったことのある人なら分かると思うが、ノキアの端末はどちらかというと安かろう悪かろうに近い。かくいう私自身はその素っ気なさが結構好きなのだが、それでも普通に考えて、ガラパゴスと言われようとも、日本のケータイ端末の方が、性能・機能・品質・使い勝手のいずれも、全然いい。

というわけでまずここが最初の違和感。ノキアが世界で受け入れられたのは、マーケティング的な意味合いにおいて「多少悪くても、安かったから」である。実際新興国ではノキアですら安くはないのだが、少なくとも彼らくらいの価格設定でなければ市場に受け入れられる余地はない。ドコモやソフトバンクモバイルの端末が、中国で高級機として転売されるがゆえに盗まれやすい、という話が逆説的にそれを証明している。
 
 

役割分担による市場支配

この裏返しとして、彼らは単にスペックを落としたのではなく、安く作るノウハウを確立したということでもある。このノウハウをうまいこと移転できれば、海外でより安く作ることが可能だ。実際、寧波波導(BiRD)のような中国の国内ベンダーは、肝となるチップや基板設計などの技術はノキアあたりとよろしくやって調達しながら、自分たちは商品開発とマーケティングに邁進して、端末をジャンジャン作り出している。

こうした役割分担はいわゆる"win-win"に近い。実際、寧波郊外にある同社の工場を4-5年前に見学したのだが、キャンパスのような敷地に小綺麗な社員寮も完備された、立派なものだったことを、今でもよく覚えている。「とりあえず作れば売れる」という、成長市場だからこそできるアプローチではあるが、このエコノミーが回っている限り、日本のベンダーに勝ち目はないな…とはその時点ですでにありありと感じられた。

ある程度の市場制御ができる立場であれば、安い端末は現地ベンダーに作ってもらい、一方のノキアは利益率の高い基礎技術や高付加価値商品を手がけ、という棲み分けが、市場の成長過程では可能となる。また、技術の要点を押さえておけば、そうした役割分担がなされる中でも、市場全体を支配しつづけることもできる。これは、規模の経済や経験曲線という経済学のお題目の、さらに一段上の展開である。ノキアが端末の領域において、ここまで世界市場でやってきたのは、つまりそういうことである。
 
 

キャリアに依存してはいけない

このあたりの話に触れると、「その通り、だから海外に出ていかない日本のベンダーはダメなんだ」という、いわば一般ガラパゴス批判のような声が聞こえてくる。しかしケータイ以外の様々な商品は、日本企業といえどもすでに海外生産でコストを叩きまくっている。というより家電や自動車の分野では、むしろ日本が世界の製造業を破壊した側だ。

だから論点は、なぜケータイベンダーにはそれができなかったのか、というところにある。おそらくケータイ業界全体の産業構造に明るい方なら、その一因として「キャリアが端末の仕様策定をしてきたため、ベンダーの製品開発能力が失われているから」という理由を挙げるだろう。確かにそれは事実だし、通信キャリアが海外に出て行かない(これは別に日本固有の問題ではない)以上、力のないベンダーは海外に出て行けない、という面も確かにある。

しかしそれは責任転嫁というもの。そもそも通信事業は、その国の政府による許認可を前提とした、公益性の高い事業であって、ドメスティックが基本である。もちろんT-mobileやボーダフォンのようなチャレンジャーは存在するが、はっきりいって彼らでさえも成功していない。ドコモの海外投資の死屍累々は有名な話だが、別に彼らがことさら無能というわけではなく、そもそも海外進出が難しい業種なのである(とはいえその難しさを分かっていながら中途半端なマイナー投資でスッてしまった罪は重いのだが)。

従ってベンダーは二重の意味でキャリア依存から脱して自らの戦略を組まなければならない。そしてそれができていない、というのがベンダーの現状を招いているのである。
 
 

国家一丸となればいいのか

こうした課題に対し冒頭のサンデープロジェクトでは、ベンダー単体に任せるのではなく、「国家一丸となって問題解決を」と提言し、フィンランドの事例として産官学共同で事業開発を推進するテケスや、国全体が教育熱心であることを挙げていた。

確かに、イノベーションの精度設計のような領域に関心のある人はテケスはいいケースになる(というわけで私も以前調べたことがある)。一方現状の日本ではそうした連携がうまく機能していないことも事実である。従って、番組全体の趣旨を鑑みても、そのあたりでオチをつけようとする気持ちは分からなくもない。

しかしこれも、仏を作れば自ずと魂が入る、というような甘い発想である。端的に言って、

・じゃあ、どこかに市場を見つけて、
・そこに最適化し、
・それを国全体でバックアップできれば、
・日本企業もみんなノキアみたいになれるんですか?

という問いに、やっぱり答えていないのである。そしてそれに答えていない以上、国家一丸などという物言いは、「竹槍を研ぎ澄ましてB-29を迎え撃て」という話の前フリのようにしか聞こえない。
 
 

競争力の源泉は抱き合わせ商法

身も蓋もない言い方だが、努力だけでは達成できないことが少なくないのが人生というもの。ゆえに上記の問いへの答えも、半分は「運次第」となる。ノキアだって、携帯電話の世代交代と、特に新興国の経済成長が、幸せな結婚を果たしたがゆえに、甘い果実を手にしたのであり、そんなハッピーが重なるのは、そうそうあることではない。

それでも、果実を手に入れる運が巡ってきた時に、そこまで手が届く場所に自らを高めておくことが大事だし、努力や工夫とはそのためにするもの。ノキアの場合、端末の開発能力だけでなく、携帯電話ビジネスというエコノミーを彼ら自身の努力によってさらに強くドライブできたことが、競争力の源泉となっている。

有線・無線を問わず、一般に通信事業は、端末とインフラをセットにした「壮大な規模の抱き合わせ販売」というビジネスモデルが求められる。特に、成長に資本が追いつかない新興国におけるGSM市場はこの傾向が顕著で、

・新興国においてインフラ整備の設備投資は相当困難
・そこでベンダーはファイナンスを負担して、基地局やSIを敷設する
・その際にベンダーはキャリアに実質的な「端末の販売」を担わせる

という仕組みで、エコノミー全体をがっちり掴みにかかる。正直、どこぞの日本のベンダーが「カッコイイ端末、作ってきました〜」とのこのこ市場参入を試みたところで、商品力以前の問題としてそもそも市場に付け入るスキがないのだ。

ノキアはこれを、金融技術を組み合わせることで、さらに加速した。中国やインドといった新興国の成長市場に着目し、多いときには一国あたりで数千億円規模のファイナンスをブチ込んで、実質的に産業支配した。原資も調達力も技術もないローカルのキャリアは、ただ黙ってそれを甘受するのみ。しかも市場の拡大期には、自らの技術や知財を駆使して市場の拡大支配を続けたのは、前述の通り。

そして考えてみると、そういえばノキアのCEOはシティバンク出身であること、90年代に入って「グラス・スティーガル法」が死文化したこと、それにより商業銀行の投資銀行化が加速したこと、その頃にノキアは急成長していること、といった要素があれこれシナプス結合するわけだが、これはまた別の話。
 
 

実はここにもグッバイ、レバレッジ!

というわけで気がつけばノキアは端末販売が世界1位というだけでなく、ノキアシーメンスは通信設備分野で、1位のエリクソンを猛追するに至っている。これらはすべて、

・新興国の爆発的な成長
・それに足並みを揃えたレバレッジを効かせたファイナンス
・GSMというボロ技術の良さ(ボロゆえに安いこと)

がガッチリ噛み合った勝利といえよう。

一方でこれを裏返すと、「この先結構キツいんじゃない?」ということになる。具体的には、

・GSMのインフラ投資自体は概ね飽和しつつある
・しかし3Gのインフラ投資はやっと着手しつつあるところ
・というより場合によっては3Gはスキップされるかもしれない
・新興国の成長が止まりGSM端末販売も成長鈍化する
・金融危機を経てレバレッジ経済が終焉しつつある
・ローカルキャリアは技術力が足りずサービス開発できない
・過当競争とサービス開発不足でARPU改善が見込めない

といった、世代を跨いだネガティブ要因が、同時多発的に吹き出しつつある状況だ。こうなると、ノキアといえども無駄金を使っている余裕はないだろう…ということで参入余地のなかった日本市場から概ね撤退、というのもよく分かる話となる。

また、環境も変わってきている。中国はようやく3Gの免許が出てインフラ整備が始まったところだが、今回は中国政府が景気浮揚の意味合いも込めて自らファイナンスすることになっている。とすると前述の「ノキア商法」はうまく活用できず、ノキアといえども横並びの競争を強いられることになる。もはや新興国は単なる発展途上国ではないのだ。

実際、3Gのインフラ投資は結構重い話でもある。日本でも、某政府系金融機関による裏書きにより主幹事銀行からのファイナンスをようやく得て、当面のキャッシュフロー危機から脱したらしい、某白い犬のキャリアの3Gインフラの貧弱さが、某林檎電話によって明らかになった。これは、彼ら程度のファイナンスでは不可能というくらい、3G投資が重いことを逆説的に証明しているとも言える。

そして白い犬の前の会社時代から、同社のインフラの面倒を見ている、もう一つの北欧通信機器ベンダーは、白い犬の足下を見るように、どうやら基地局ビジネスで動きを見せるらしい。商売人はかくあるべし、というような動き方だと思う。
 
 

世界で戦うための野心を持つべき時

さて、そんな変化の中で日本のベンダーが付け入るスキはどの程度生まれるか…と書こうと思っていたところ、ノーテルがchapter11入りという話が入ってきた。噂は以前から囁かれていたが、ノーテルでさえダメとなると、付け入るなどという話以前に、明日は我が身と恐れおののいている企業や部門も少なくないのではないか。

しかし言うまでもなく、今こそ市場開拓のチャンスである。というよりチャンスは今しかない。前述のエリーさんの動きを見習って、ここは一つ日本のベンダーも、資源高でしこたま儲けた総合商社や、ODAを出したがっている日本政府を焚きつけて、改めて新興国に乗り込んでみる、というくらいの野心を持っていいところだ。逆に言えば、そうしたパースペクティブがない限り、いくら端末を高度化したところで、大したビジネスにはなるまい。

というわけで私も末席ながら、資本レイヤーを含めてちょいとあれこれ動いている。いずれ書ける時が来たら、どこかで開陳したい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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