足かけ2ヶ月を要したシリーズもいよいよ大団円。年内にこのシリーズを終えられれば、私も気分的にはひとまず年が越せるような気がする。というわけで無理矢理にでも決着をつける。
世界とどう付き合うか
誰と付き合うかというのももちろん重要なのだが、「どう付き合うか」というのがむしろ重要だと思っている。というのは、これまでの常識は徐々に通用しなくなっていくからだ。
たとえば最近、レギュラーガソリンよりも軽油の方が高いらしい。ディーゼル車需要の高い欧州ならいざ知らず、日本でそうした現象が起きるとはにわかに信じがたかった。しかし先日石油業界の方から、ガソリンは国内仕様の性状ゆえにダブついた在庫を海外市場に転売できないのに対し、軽油は国際的に仕様が近いので国際価格との連動性がある、という話を聞いた。欧州でディーゼル車需要が高いから、結果的にそちらへの輸出が増えて、日本の軽油も高くなったというのだ。
真偽のほどを見定めるほどこの分野に明るくはないし、少なくとも要因は他にもある(税金、精製コスト、先物の動向、等)。ただ、もしこれがある一因なのだとしたら、興味深い話だと思う。というのは、経済学のお題目である「規模の経済」を信じて世界市場に合わせていくのではなく、場合によっては「ガラパゴス」の中で温々と生きていく方が、むしろ経済合理性が高いということもありうる、ということになるからだ。つまり、お題目を闇雲に信じていたら、負けるかもしれませんよ、という話である。
もちろんすべてを画一化して考えるのは危険であり、よってこの話だけでガラパゴスマンセーなどと脊髄反射するつもりは毛頭ない。むしろここから学ぶべきはそんな表面的な話ではなく、モノでもサービスでも、輸出して成功するには、ちゃんと現地に根付くような動き方をしなければダメだ、ということだと思っている。そしてこうした愚直で地道な動きを続けることこそが、ポスト・レバレッジ社会での正攻法なのだろう。
正直、英語が話せるだの話せないだの、日本語が亡びるだの亡びないだの、そんなお題目に一挙一動を左右されるようなナイーブさは、率直に言ってどうでもいい。今を生きるビジネスパーソンであれば、英語は一応話せて当然だし、かといって日本生まれの日本育ちなら現地語で流暢にパーティトークできないのも当然。問題はそんなことではなくて、「別に何でもいいんだけど、とにかく取引先にちゃんと価値を渡せているの?」という至極単純な話に尽きる。
世界の誰と付き合うか
とはいえ、なんでもかんでも愚直にドンドコショー、というわけにはいかない。となると改めて「ポスト・パックスアメリカーナの時代に、誰と付き合うか」という問いが出てくる。なんとなくだが、少なくとも私とその子供が生きているこの先50年くらいの間では、中国、インド、欧州が大事かな、と思っている。
中国とはこれまでの経緯上、ある程度のお付き合いは避けられない。しかし中国はいまだかつて一枚岩ではないし、今後緩やかにグシャっと壊れる過程の中で、いろんな位相での亀裂はどんどん入っていくことになる。だから「中国」というよりは、中国のどこの誰とどんなお付き合いをするか、という眼力が求められる。
ところがこれが相当難しいのは、すでに冷凍ギョウザ問題で学習済みのこと。単純な善し悪しという話ではなく、いいパートナーと信じていた相手でもある日突然豹変する可能性があったり、逆もまたしかり、ということである。広域で流動性の高い国では、仕方ないのかもしれない。そう考えると改めてアメリカSUGEE!とも思えるわけだが、それはさておき。
またそこまでがんばってお付き合いしても、得られる果実はどの程度なのか、という問題がある。日本企業がまともに相手できる可処分所得を有するのは、全体でもせいぜい最大3億人程度だろうし、全体の経済規模も、せいぜい「韓国以上日本以下」というところだろう。となるとその中でバランスできる質量規模でビジネスを作れるプレイヤーだけが、中国でのビジネスを続ける資格を有しているということになる。
一方、インドは結構大事なんじゃないかと思う。先日もデリーにお邪魔して通信産業の方や政府関係者とお話ししてきたが、まずもって日本との親和性が高い上、いわゆる新興国の中ではかなり高い民度や知的水準を有している。以前もどこかで書いた記憶があるが、この「とりあえず相手に良く思ってもらっている」というのは、実は人間関係一般において、ものすごく重要な要素であり、アドバンテージである。
人口もいずれ中国を抜くのは間違いないし、アフリカへのアクセスも良好だ。なにより、まだまだ発展途上であり、様々なチャレンジが可能である。イギリスがジャガーやランドローバーを彼らに「預けた」のも、またF1チームを保有するに至ったのも、むべなるかな。さらに打算的な視点だが、インドと仲良くしていれば、中国や欧州は必ず日本に振り向く。いろんな意味で、インドはもっと深くコミットすべきところと思う。
欧州は、別の意味で難しい。彼らも中国と同様、一枚岩ではないから。おそらく欧州の課題は、昔も今も、ロシアとどう向き合うかという一点に集約されるわけだが、天然資源を有する彼らは、少なくとも今世紀中はプレゼンスを高めるだろう。天然ガス版OPECをロシア主導で作るという動きもその一環と捉えるべきである。そんなロシアとどう対峙するのか。そしてそれに関連して他の欧州各国とどう付き合うのか。
ここは日本の将来が問われるところである。すでに世界ではドルが崩壊した後の通貨のあり方に関する検討ははじまっており、ブレトンウッズ体制に変わる新たな秩序の構築に向けた動きが進んでいる。おそらく今後の世界秩序は多極化に向かうだろうが、その際に相変わらず重要なルールメーカーである欧州勢とどう付き合い、米欧中ロ印というあたりの中でどう立ち振る舞うのか。これは今世紀の日本の趨勢を決めることになるだろう。
ベンチャーはどうなるの?
もう一つ触れようと思っていたのは、ベンチャービジネスが今後どうなるか、ということ。CNETというメディアの特質を考えれば、関心の高いところだと思うが、残念だが短期的にいえば「パーティは終わった」というのが正しい認識だろう。特にベンチャーキャピタルに依存した事業者に関しては、そのキャピタルのご本尊自体が壊れてしまいつつあるので、これは正直どうにもならないと思う。
資本市場での仕事をしている立場上、いろいろな話を耳にするのだが、この金融危機の中でも旺盛な投資意欲を持つご本尊はあちこちに存在する。たとえば不動産ファンド大手のパシフィックホールディングスが先日中国からの資本を受ける旨の発表をした。日経あたりを読んでいるだけでは「不動産×ファンド×中国=オエー」という認識になってしまうかもしれないが、こうした動きは実は結構あちこちで活発化している。
しかし、ITベンチャー周辺に手を出していたPEファンドなどは、どうにも状況がお寒い。理由は単純で、これまでいい加減なファンド・マネジメントしかしてこなかったので、玉石混合と見られているのである。要は、玉と石を見分けるデューデリジェンス自体がバカバカしい、と見なされてしまっているのである。確かに、物件、条件、稼働状況を見れば、最短数十秒で一発評価できる不動産とは、その手間やコストは雲泥の差である。
結局この10年間で、日本のITベンチャーへの投資環境を改善できなかったツケが、ここにきて回ってきたということなのだろう。たとえばシリコンバレーでは、成長段階に応じてバイアウトやM&Aなど様々なオプションがあり、事業の淘汰や新陳代謝、あるいは途中段階での利益確定に一役買っている。一方日本では、とりあえずVCがドーンと張って、張って、張り続けて、あとはIPOのタイミングを待つだけ。ちなみにIPOした後は吊り上げられた株価がロングテールするので、空売り大好きな「ショート・マニア」がヨダレ垂らして待っている状況。
その「ドーンと張って」がなくなりつつある昨今、あとは自力でどうにか生きてってください、という状況である。というわけで、上場・未上場を問わず、ここでも猛烈な勢いで峻別が進むのだろう。少なくとも自立した事業基盤を構築できていることが絶対的な必要条件であり、かつそうした企業であっても、資本政策を間違ったことで残念な結果になりうる可能性は十分にあり、いくら警戒してもしたりないということはない。
…というのが、少し前にセコイア・キャピタルが開陳した"GET REAL or GO HOME"という鬼のようなスライドの趣旨だと私は理解しているが、皆さんはいかがだろうか。
レバレッジは死なず、ただ地に足をつけよ
一連のシリーズについて、ひとまず老婆心全開で書き殴ってみたところ、頭のてっぺんからつま先に至るまで、お先真っ暗感の非常に高い続き物となってしまった。しかし現実としてこれくらいの厳しさを持つことが重要だと考えている。もはや夢見がちに生きていくことは当面不可能な時代となったのである。
実際、私ごときが四の五の言う以上に、現実はもっと厳しい。たとえばトヨタが欧州の現地工場の運転資金を欧州金融機関から調達できなくなり、仕方なくトップマネジメントが総出で国内銀行に頭を下げ、トヨタさんなら仕方ないかと他から貸し剥がしてでも融資しようとしている…などという話があちこちから飛び込んでくると、ベンチャー企業はおろか一部上場クラスでも普通に飛べる状況にある、と考えない方がおかしい。
それに当の金融機関自身、相当追いつめられており、追いつめられているからこそ意志決定がズルズルと後ろに伸びて、問題がさらに拡大しているのが現状である。正直、一部の金融機関のトップ・マネジメントについては、まあどうせ潰れるならそこまでアクセル踏みっぱなしでいいか…と思っているフシさえ見られる。とはいえ諸々考えれば今年度中にどうにかしなければならないことが山積しており、明日からの3ヶ月間はあちこち修羅場であろう。
しかし、そんな修羅場の元凶が仮にレバレッジ経済であったとしても、それが完全に解消されることはない。なにより、当の私たち自身が、レバレッジ経済の恩恵の中でしかもはや生きていけない以上、自分でそれを否定することは不可能なのである。それこそ米粒一つ作るにも、耕耘機を動かすための石油が必要であり、石油はもはや金融商品としての性格を捨てることはできず、石油の出ない日本はその金融商品と向かい合って生きていかなければならず、ヘッジのためにはレバレッジも必要だ。
面倒な時代だからこそシンプルに
そんな、どうしようもなく面倒な時代に、私たちは生きていかなければならない。だとしたらせめて自分が直接手を動かせる領域は、シンプルかつ地に足つけて生きていきたいものである。バターが品不足ならオリーブオイルで代替すればいいし、外食が高いなら自炊すればいい。もはや存在理由を喪失したビジネスは潰せばいいし、よく意味が分からない慣習はやめればいい。
というわけで結論としては、レバレッジだの、金融危機だの、ベンチャーだの、といった目先の現象やキーワードに惑わされず、自分の意志で自分が正しいと思ったことをシンプルに実現しながら、うまいこと生存していくという、ごく当たり前のことが、改めて重要になってきましたね、ということなのだと思う。
そんなわけで、全然シンプルじゃない当ブログとしては説得力ゼロのまとめとなりましたが、2009年も懲りずにご愛顧いただければ幸いです。