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グッバイ、レバレッジ!(1)

2008/10/05 01:29
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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前回のエントリについて、米国が拙いということは何となく分かったけれど、満を持してトリュフォーのタイトルを持ってきたわりに内容が分かりづらい、というご意見をいただいたので、繰り返しになるが改めて。
 
 

世界経済でいま何が起きているか

世界経済はいま「レバレッジ経済の崩壊」に直面しているのだと認識している。レバレッジ経済をざっくり約せば、実体経済上での価値を、ロジックと数字をあれこれこねくりまわして何十倍もの価値があるように見せかけて、それを経済価値として流通させるということ。

銀行の普通預金にも利子がつくように、あるいはペイオフで守られる範囲を超えた分は銀行の破綻時に預金額が返ってこないように、金融経済と実体経済の価値はそもそも一体化しない。特にニクソン政権下のドル・ショック以降、足かせは完全に取れている。

それ自体は問題ではない。というより一体化していないからこそ、年収500万円の人でも3000万円のマンションが買え、売上ゼロのベンチャー企業が出資を受けられる。金融経済の実体経済からの独立という恩恵を受けて生きているのである。

しかし、年収200万円の人が800万円のBMWを乗り回しているのは、やはりおかしい。この「足るを知る」のココロを失ったのがレバレッジ経済であり、金融技術の発達と世界的なカネあまりによって、この30-40年ほど、正しくドル・ショック後に大きく膨らんでいた。

そんなバブルとも言える過剰部分が、昨年夏のサブプライム問題の表面化以降、解消されつつある。これがレバレッジ経済の崩壊である。こうした一連の事態をして、ジョージ・ソロスは「30-40年かけて作られたバブルの崩壊」と表している。
 
 

米国の信用失墜

一方、米国FRB前議長のグリーンスパン氏は、現状を「100年に一度の変化」だと表現する。彼の前職を考えれば「お前がいうな!」というツッコミが入るわけだが、確かにこれもその通りだと思う。

マクロ経済的には、ドルという通貨の信用不安。円だけでなく多くの通貨に対してドル安なのは周知の通りだが、端的にいえば「米ドルなんて(=米国なんて)もう信用できないよ」という、世界中の政府や企業や投資家からのメッセージである。

確かに、産業があちこち没落し、GDPの7割が消費で支えられているような現在の米国に、金融というゲタを外したら何が残っているのか。そのゲタ自体がイビツなものではなかったか。そんな自分たちのわがままを標準標準として世界中に押しつけようとしていなかったか…こう考えたとき、彼らが尊敬され、価値を認められる要素は、丹念に探さなければ見つけにくい状況だ。

また定性的な評価(レピュテーション)には硬直性があり、一度失った尊敬や信頼はなかなか回復できない。加えて、評価は相対的に行われるものであり、かつて良かった分(あるいは期待が大きかった分)、失った時のダメージはさらに大きい。正しく「負のレバレッジ」である。
 
 

崩壊する米国経済

これがミクロ経済にも直接波及しているから、米国は深刻な状況にある。今回の金融危機以降、企業の資金調達の手段は間接金融、特に債券発行にシフトしつつある。しかし現在米国の債券市場は完全に冷え切っており、発行も入札もできない状況だ。泣く泣く、日本市場でのサムライ債発行に依存する状況で、これは円高の要因ともなっている。

ぐっちーさんのエントリでも触れられていたが、すでにカウントダウンに入ったGMはおろか、ほんの少し前は米国を代表する優良企業であったGEですら、引き受け手がいない。日米欧の通貨当局がスワップをやらなければ流動性確保できないほど、カネの流動性が止まっているのだろう。つまり「ワケの分からん債券よりも手元の現金」である。

そんな資本市場の状況で、上記の通り実体経済の裏付けに乏しい米国の企業にしわ寄せがいく。そしてそれが彼らを追いつめ、カウントダウンのスピードを速める。少しでも延命するためにリストラを行うが、当然失業率は悪化の一途を辿る。すると米国のGDPの70%を支える消費は冷え込み、企業業績はさらに悪化。世界中の投資家は米国企業を「売り」、それが米ドルを追いつめ、その上で踊る米国企業はまた倒れる…。

こうした悪循環を見るにつけ、グリーンスパン氏の「100年に一度」という発言も、(他人事のように言える資格が彼にあるのかとは思いつつ)これはこれで腑に落ちる。不良債権処理に7000億ドルの公的資金を投入することが決まったが、財務的な受け皿が決まったことで、今後はクラッシュさせるものはクラッシュさせるという向きが強まろう。

ただ、それでもやはり底が見えない。これが日本の不良債権処理との最大の相違点で、結局日本は「ひどい」と言われても最後は値段が付けられたが、今回の場合はいつまで経っても値がつけられない可能性がある。そして値段がつけられないでジタバタするうちにファンダメンタルが再び毀損され、アリ地獄を脱したと思ったらより大きなアリ地獄の中だった、という構図の繰り返しさえも懸念される。

そんな米国に対し、資本市場の一部からは「アルゼンチンになってしまうのかもね」という声がたまに聞こえるが、大げさではないかもしれない。そういえばジョージ・W・ブッシュ氏は米国史上はじめて「スペイン語でスピーチができる大統領」だというのも、今となってみれば不思議な縁と言えなくもない。

(追記)サムライ債発行は円安要因では?というご指摘があった。マーケットが正常機能している場面ならご指摘の通りかと思うが、コメントした通り、日米欧の中央銀行が「握らないと」流動性確保が困難な状況にあり、すでに米ドルにはプレミアムがついている状態だと認識している。 
 

コーポレイト・ファイナンスの変革

ところでこれは米国だけの話ではない。サブプライムローンはもはや底がどこにあるのかも分からない形で証券化されて輸出されてばらまかれており、すでに欧州では炎上をはじめた(銀行の国営化があちこちではじまっている)。また日本も、フレディー・マックとファニー・メイという住宅ローン債権の保障を行う公的事業者に、債券という形だがあれこれお付き合いしているし、そもそもご本尊である米国債の主要引受先は誰だっけ?という話だ。

そして世界の資本市場や金融産業の構造も大きく変化している。端的には、投資銀行というビジネスモデルの崩壊。既報通り、リーマン・ブラザーズが倒れ、二大巨頭であるゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが投資銀行の看板をおろして普通の銀行になることを宣言した。日本はおろか世界的にも「ざまあみろ」的に語られがちだが、コーポレイト・ファイナンスの観点からは、大事件である。

なぜなら投資銀行の機能停止は、コーポレイト・ファイナンスが当面エクイティ(株式に代表される投資によるファイナンス・アプローチ)中心では成立しない、ということを意味するからだ。前述の通り短期的には資金調達手段はエクイティから債券にシフトしているが、今後新たにリスクマネーの調達を目指す際にも、単なるレバレッジ算定で「乗れる」というような話ではなく、「事業シナジーによる価値算定」に変化するだろう。

方向性自体はコーポレイト・ファイナンスの健全化に資する、歓迎すべき展開だと思う。しかし現実として、出資先に応じて様々なオプションを個別調整しなければならず、おそらく事業開発という仕事は今後猛烈に忙しくなっていくだろう。実際、企業の資本政策や資本調達を手伝っている立場としては、すでにこのところBlogも更新できないほど激動の日々になりつつある。
 
 

気がつけば長くなった

ので、次回に続く。一応このあと、欧州・アジア・日本経済への影響と、ベンチャーというビジネスモデルへの影響について書こうと思っている。

少しだけ事前予告をしておくと、キャリアビジネスの中でも大きな問題が表面化する可能性があり、またベンチャーファイナンスは相当厳しい事態を迎え、おそらく抜本的な変質を遂げていくだろうと予想している。もしかするとCNETという「比較的ベンチャービジネスに親和性のあるメディア」も、1年後にはその装いがまったく変わっているかもしれない。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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