深夜のニュースでオリンピック関連のダイジェストを眺めていたら、ふとマスメディア・広告業界の業績不振という話を思い出した。その連想が自分の中でおもしろかったので、さらにそこから派生して最近考えていることを含めて、少しメモしておく。
マスメディア・広告業界の業績不振
最近雑談でこの話題に触れることが多いのは、半月ほど前に電通が今期業績予想の修正を発表したからだろう(リンク)。また、テレビ東京も2008年上期で1.5億円程度の営業赤字を見込んでいたり(リンク)、比較的好調に見えるフジテレビも予算圧縮や経費削減を進めたり、という状況で、業界全体で不調のようだ。
断っておくが、この数字を用いてマスメディアをあげつらうつもりはない。むしろ業績見通しを整理して発表できるのは立派なものだ。上場企業なら当然の義務、と言われるかもしれないが、世の中にはよりによって、高い信頼性が求められるはずの通信キャリアの一部にさえも、通期見通しを何らかの後ろ暗い理由で発表できなかったり、端末の「飛ばし」による粉飾まがいの数字を作り出す企業が存在する。
またCNETの読者であれば、この話は「マスメディアの終わりの始まり」のような文脈で解釈しがちかもしれない。確かに紙媒体を中心にその傾向は確実にあり、それこそ雑誌の部数低迷は「凋落」という言葉を使ってもいいところだろう。ただいわゆる4媒体全体という意味では、この数字だけでその文脈に持ち込むのはさすがに飛躍が大きすぎる。ひとまず事実として「業績がちょいと厳しそう」と認識すべきである。
オリンピックはゲタだったのか?
さておき。前項で述べたテレビ周辺の低迷について、端的に言えばやはり不況ということなのだと思う。実際広告販売の現場からも「広告が売れない」という話はよく聞くし、また広告主の側からも「広告に予算を割く余裕はない」という声は消費財分野を中心にしばしば耳にする。なにより生活者視点で考えれば、一言「当然の状況」で片付く話である。
とはいえ気になるのは、それでも今年はオリンピック・イヤーだった、ということ。ネットの世界の認識では「またまた、そんな古いパラダイムを」と言われそうだが、それでもまだまだマスメディアの力は強いし、オリンピックやサッカー・ワールドカップはまだまだ集客力のあるコンテンツである。ならばこのあたりだけでもテコ入れがあったはず、と考えるのが自然なのだが、だとすると二つのシナリオの可能性が生じる。
一つは、オリンピックだろうとなんだろうと関係なくフラットに「売れ続けていない」ということ。これなら通期での展開も概ね見通し通りに進展するだろう。しかしもう一つは、現状の数字でさえも「オリンピックによるアップサイド」が織り込まれているという可能性。この場合、オリンピックのゲタが外れ、そして中国のバブル崩壊や国内景気の悪化がほぼ間違いない下期以降、現時点での見通しを遙かに超えるダウンサイド・リスクを抱える可能性は否定できない。
不穏な状況
現時点では、前者の方が確度が高いとは見ている。というのは、広告主の一部から「オリンピックの枠を安く買えたわりに、多くの視聴者が見てくれてラッキー」という声が聞こえるから。しかし後者の場合、「地デジ対応どころじゃない」とか「そもそもキー局の数って大過ぎじゃね?」、あるいは「いやその前に地方局のグダグダっぷりが深刻でしょ?」といった、ちゃぶ台ひっくり返し系の動きになる可能性がある。
またそれらのさらに大前提となる、景気や産業構造や国内政治や国際動向が、極めて不穏な状況にある。正直、今の時点でテレビCMをジャンジャン流している通信キャリアや流通事業者が、今秋以降簡単に吹っ飛び、地域経済や日常生活に深刻な影響を及ぼすであろうことは、もはや資本市場に触っている人間では共通認識である。それこそ「○○難民」のようなキーワードが流行語になるかもしれない。
実際、先日民事再生法の適用を申請した不動産デベのアーバン・コーポレイションの昨期決算(リンク)は、売上高2,437億円、営業利益696億円と好調だった。それがたかだか数ヶ月の間に投資銀行からVWAPスワップとMSCBを仕掛けられ、さらにあちこちで空売りされ、と嵌め殺されている。このように、キャッシュフローが枯渇しているところに証券化などの金融技術で無茶なレバレッジを組んだ企業は、今後どこでも簡単に吹っ飛ぶ時代に入ったことは、読者の方々もご自身のリスク管理の一環として、認識しておいていいだろう。
10年に一度、あるいは30年に一度
閑話休題。こうなるとマスコミもネットも再編の対象外ではまったくなく、前述の「飛躍」は飛躍でなくなる。ただその際、「マスメディアの終わりの始まりで、ネットがそれをテイクオーバーする」という形で展開するというのはさすがにネット・マンセーな視点だ。たとえば、上場して調達した資金で日本国債を30億円弱購入するという、訳の分からない資本政策を採るSNS事業者もいるように、ネット側だって決してほめられたものではない。それにそもそも、対マスメディア・対通信で規模が違う、という現実がある。
またその通信方面でも、まずモバイルが10年に一度のインフラ転換期を迎えており、研究開発や設備投資の動きが非常に悩ましい時期に入ってきている。またまた固定系もNTT-NGN(というのも実は複数あるのでさらに特定すればフレッツ・ネクスト)の失敗が見えてきたところで、NTTの2010年問題(詳細説明は割愛する)がどこに着地するのかを、NTTの中の人でさえも息を潜めて見守っている。
さらにそれを支える技術にしても、WiMAXの失敗が見えてきたり、LTEが横須賀方面の人々も含めて誰も牽引していない状況に陥っていたり、IPアドレスの枯渇とそれによって生じるであろう現実的な問題に対して正面から向き合った議論が不在だったり、という有様で、一言で言えば今後の混乱に対する準備がまだ十分できていない。先日もどこぞのキャリアがリークして某新聞に記事を書いてもらったようだが、失敗が見えたならそれを率直に認めるのが株主(や規制当局)に対する誠実さというものであって、少なくとも与太記事を飛ばして連名させられた他社に迷惑をかけているのに「庭で。」とかいって遊んでいる場合ではない。
このように、放送、通信、ネット(サービス)の各分野における、技術、市場、資本・財務、さらにはそれに関連する政策動向を総合的に勘案すると、10年に一度どころか、30年に一度くらいの大混乱期に、すでに入りつつあると思う。これは、ティム・バーナーズ・リーがWWWを考案したよりもさらに大きく、ボブ・カーンとヴィントン・サーフがTCP/IPを実装したのと同じくらいのインパクトだろう。
北京の常識はロンドンの非常識
と、話があれこれ拡散したが、私の頭の中ではこれらの問題意識はすべて一つの塊となっている(ただし塊なだけで、整理はまだされていない)。そしてその中で一つだけ明確に言えるのは、要するに「大変なことになってまいりました」ということである。そしてそれは、オリンピック一つ見ていても、チラチラ気配を感じはじめているのである。
おそらく数年後には、今日常識として理解していることは過去の遺物となっているだろう。たとえば「北京の頃にはガラパゴスなんて言ってたけど、結局若い人はノキアの安い3Gケータイばっかり持ってる時代になっちゃったね」とか「あの頃はアホみたいにケータイ料金が安かったけれど、今じゃおいそれとメールもできないなあ」とか「そういえば某キャリアはあの頃からノキアの取扱いを増やしていたんだよね、さすがだな」といった会話を、ロンドンオリンピックを眺めながら繰り広げているのではないかと想像している。
とはいえここまで話が膨らむともはや私の手には負えないので、このエントリは書きっぱなしにしよう…と目線をテレビにやると、野球・日本代表が3位決定戦に敗れる姿が放映されていた。そういえば野球もロンドンでは正式種目ではなくなるはずだが、そもそも野球はオリンピックよりはWBCの方が楽しいように思う。というわけで星野監督はさすがにこの時点で辞任すべきだろう。
そして後任は王監督がいいのではないか。健康上の問題はあろうから無理強いしてはいけないけれど、彼ならば日本人メジャーリーガーも(あるいは海外のメジャーリーガーの一部も)WBCに参加するだろう。それにきっと来年の春の頃にはヒマになっているはずだ。あるいは「○○コベナンツ」とかいう名前の球団の監督になって、ヒットをガンガン飛ばしているかもしれないけど…とかいう与太話でとりあえず強引に論を結ぶ。