お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

モバイルWiMAXはつらいよ

2008/08/12 00:27
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
ブログ管理

最近のエントリー

WiMAXについて尋ねられることが増えてきたので、ちょっとまとめておく。
 
 

できないことをやろうとしている?

まず「WiMAXとモバイルWiMAXは別モノですよ」というあたりの基礎知識についてはバッサリ割愛するので、この時点で「よく分からん」という方はWikipediaでも眺めておいていただければ。

最近尋ねられることが多いのはモバイルWiMAXについてだが、ポジティブな声を聞くことが多い。製品化は間近、世界的にも大規模な展開、次世代無線通信技術の本命、等々。あるいは国内市場的には、実現すれば数十Mbpsが安価に手に入る、モバイルのパラダイムが変わる、来年からいよいよサービス開始、云々。

これだけ美辞麗句が並ぶ時点ですでにおかしいのだが、私としては、モバイルWiMAXは相当厳しい状況にあり、サービス・インすら怪しいと思っている。また仮に開始したところで、基地局からちょっと離れた場所ではおそらく電波が飛んでいるのに捕まえられず、また捕まえても数十Kbps程度のスループットしか期待できないだろう。

率直に言って、これでは典型的な「安かろう悪かろう」だし、さらに言えば安くなるかさえも分からない。理由は簡単で、技術的に無理があるから。詳細は割愛するが、仕様書のレベルで「できないことをやろうとしていた」としか思えない状況にある。
 
 

WiMAXというバブル

このあたり、無線技術とネットワーク層あたりをある程度見極められる人には、割と知られていたことでもある。なにしろ当のキャリアたちも、当初は3GやHSPAの補完技術として位置づけていたのである(記事)。

それでも、ある日天才が舞い降りて、問題を解決してくれるかもしれない…当事者になるとそんな夢を抱いてしまうのだろうし、それが当事者になるということでもあるのかもしれない。あるいは成就しえないのにいつもマドンナを追いかける、フーテンの寅さんのような心境かもしれない。

ところがWiMAXは映画の中の話ではなく、生身の人間を当事者とした現実である。その当事者たる現場のエンジニアたちが、ここにきて続々と船を降りはじめ、競合陣営に移りはじめた。そういえば、総本山のインテルでさえ開発スケジュールが遅れ、未だにCentrino2でのモバイルWiMAX対応は「乞うご期待」状態だ。とりあえず「なぜだろう」と棒読みしてみる。
 
 

バブルというシナリオ

さておき。バブルという現象の構造自体は、比較的単純である。要は、ニーズがあるのにシーズがない時に、そのギャップを埋めるシナリオとして、バブルが発生するのである。そのシナリオによって企業は資金調達が可能となり、それを原資にエンジニアを囲い込むことができる。そうして誰かがニーズを満たすシーズを作り出せばいい。

こう考えると、バブル自体は必ずしも悪とは言い切れない。カネがなければヒトは雇えないのだし、ヒトが雇えなければ新たな技術は生み出されない。この考え方自体は極めてオーソドックスなものであり、それをドライブさせるためのシナリオが必要なら、バブルにも意義がある。少なくとも私はそう思う。

ただし副作用も当然ある。たとえばバブルが過剰に膨らむと、他の類似技術の開発の牽制や妨害になることがある。またその技術の登場を前提として開発を進めていた周辺技術が、バブル崩壊によって壊滅的なダメージを被ることもありうる。あくまで私の見立てだが、正直すでにWiMAXはそんな加害者になりつつあると思う。
 
 

すでに劇薬化しつつあるWiMAX

また世の中には、バブルに乗じて覇権の拡大やカネ儲けを画策する連中もいる。こうした連中がバブルを必要以上に大きく育てる役割を果たしていることが、バブルをバブルたらしめる要因でもあるのだが、こうなると副作用が云々というレベルはすでに超えているように思う。

たとえば現在、中国の大手通信機器ベンダである華為技術(ファーウェイ)が、無償提供も含めた東南アジア・西アジア地域へのWiMAXインフラ提供を猛烈な勢いで進めている(記事1記事2)。同社は中国政府の政策に沿って活動する企業でもあり、その背後には同地域の情報通信インフラを支配したい中国政府の意向があることはほぼ間違いない。

実際私はかつて、精華大学の中にあるCNGI(中国版NGN)のNOCにお邪魔したことがあるが、それを支えている華為の面々は、彼らの見つめる先にアジア全体が含まれていることを明言していた。彼らの動き方は実にしたたかで、最近は前述のほかに、東南アジア地域の大学や研究機関のネットワークを無償で構築しているようだ。ネットワーク・エンジニアがどのルータの言語を話すかが商圏や商流を決める、という事実を非常によく理解している証左である。

また彼らは、同様に中国政府の意向を強く反映した検索サービス大手の百度と提携関係にあり、次世代インターネットの研究開発に乗り出している(記事)。インフラは華為、サービスは百度、という役割分担で、GoogleやYahoo!等を同地域から追い落とし、中国のヘゲモニーの下におさめようとする意図が透けて見える。

そんな華為の背後に、ゴールドマン・サックス(GS)の影がチラついている。GSが華為によるスリーコムへのM&Aのアレンジを行ったことは公知の事実だが、華為や百度(や中国政府)の野心や事業規模を支えるバブルは、GSが必要とする利回りやプレミアムを実現する上で、うってつけの材料なのだろう。

だとしたら、クラッシュ後の被害を考えると、すでにWiMAXは一種の劇薬と化しているようにも思える。実際、当の華為は、バブルが崩壊しても将来的な商圏・商流確保というExitがあるだろうが、それに振り回されている周辺の人たちは、生存さえ厳しい。まずもってお仲間の百度ですら怪しいところだ。

ちなみにこの補助線を使うと、なぜ日本のイー・モバイルが基地局機器やエッジルータに華為の製品を導入したのか、なぜ同社のCOOの職にGS出身の華僑が就いているのか、なぜ「オバマを演じる猿」への批判記事がウォールストリート・ジャーナルから発信されたのか、そしてスループットの劣化が明らかな現状で、あの無茶な財務諸表と厳しいコベナンツの中、彼らの行く末は…等とあれこれ類推できるのだが、それはまた別の話。
 
 

バブルの終わりと次の世界

キャリアの中の人はさすがにこのあたりは理解している。しかし世の中には、「WiMAXでネット中立性の議論なんてぶっ飛ばせ!」などと無邪気な物言いの人が案外少なくない。こういう声が台頭してこそバブル、と愛でるべきなのだが、最近は「このあたりの人たちが言い始めたらバブルは終わり」というネガティブなベンチマークとしていたあたりから、いよいよ「WiMAXってすごいぜベイビー」という声が聞こえるようになった。

あともう一つ気になる動きは、WiMAX陣営が知財プールを作るという話が聞こえてきていること。一般に競争領域にある技術について、知財プールを作ったらほぼ敗戦処理に入ったことを意味する。単純な話で、モノにならなかった知財群が山ほどあり、それをバルクで扱える状態にしておかないと、もはやソフトウェア資産の劣化を招く事態に陥っているのだろう。実際ビジネスの世界では、本当に使えると判断した技術は、ビジネスプランが描ける限り、どんなに高い金を払っても権利取得するものである。

というわけで結論。すでに私はWiMAXが潰えた後のことを考えている。そして最近になってようやく、どんな技術が来るのか、どんな世界になっているのかが、見えてきたところだ。このあたりの話もいずれ折りを見て展開していこうと思うが、ひとまずは、いろんな意味で「灯台もと暗し」だと思っている、とだけお伝えしておく。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー