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インターネットのリュミエール

2008/07/20 16:06
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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最近のエントリー

気分的には前回のエントリの続き。もう少し包括的な視点から書いてみる。
 
 

下位層は沈滞しているのか?

前回のエントリの文末で、

そしていま日本のインターネットの世界では、レイヤーの上下を問わず、こうした「オレ様」がかなり不足しているように思う。iPhoneの登場を前にして、私が一番危機感を覚えるのは、実はiPhoneそのものではなく、そこにある。

と書いた。伝えたかったのは、iPhoneマンセーでもジョブズ礼賛でもなく、レイヤーの垣根を越えて全体を俯瞰し、問題の本質に迫れる人が、いまの日本のインターネットには不足しているのではないか、ということだ。

たとえば、6月上旬に開催されたInterop Tokyoでパネル・ディスカッションに登壇してきたときのこと(この話自体も興味深いのでいずれ改めて)。講演後に展示棟へ入った途端、昨年よりも規模が縮小したことに気づいた。また同時に、一緒にいた知人から「今年はciscoも出展を見送ったらしい」という話も聞いた。結果、毎年ほぼ欠かさず参加してきた展示会場に、今年は足を踏み入れず、帰ってきた。

最近のinteropの縮小傾向について、「要は、業界の関心やリソースが、上位層に移行したということでしょ?」という指摘は、以前から下位層周辺では(やや自嘲・自虐的なニュアンスを含めて)よく聞かれる。しかし私は、そういった傾向自体はある程度認めつつも、この考え方に以前から違和感があった。
 
 

インターネットには上も下もない

レイヤー構造という概念は技術領域のものである。しかもそれ自体は、電話屋さんの世界を中心にした概念整理とその標準化が発端であり、インターネット由来のものではない。こうした、かりそめの技術概念を、異なる技術背景を持つインターネットの事業領域に持ち込み、かつそれで分業を云々すること自体、やや無理がある。

また、分業というのは本来、その産業が高度に成熟化し、分解した事業が自律的に判断・経営できることが必須である。しかし今日のインターネットは、相変わらずネット中立性が議論となるようことからも分かるように、洋の東西を問わず、分業ができるほどには産業として成熟していない。そもそもインターネット産業の市場規模は、他の成熟産業に比べまだまだ小さいのが現実だ。

注意すべきは、成熟していないからインターネットは劣悪だ、という議論ではまったくないということである。むしろその逆で、成熟していないからこそインターネットは相変わらず創造性の宝庫なのである。Googleのような企業が突然登場して、世の中のあちこちを掻き回せるのも、インターネットの未成熟さの恩恵だと私は信じている。成熟していないからこそ、インターネットはおもしろいのだ。

だから、インターネットで過度に分業意識を持つこと自体、産業実態に見合っていないことになる。そして見合っていない概念を前提にした議論は、やはり説得力がない。従って、Web屋だからネットワーク周辺のことは知らなくていいとか、物理層担当だからアプリのことは上に任せて…というような話は、あえて生意気な言い方をすると、手抜きの言い訳にしか、私には聞こえないのである。
 
 

エバンジェリストの喪失

もちろん、爆発的な成長を続ける中で、それぞれの担当領域での義務や責任が増えており、それ以外のところに目配りできなくなってきているのは重々承知だ。しかし、ならばなおのこと、全体を見渡してコントロールする役割の人が重要になるはずである。実際、かつてエバンジェリストと呼ばれた方々は、そういう役割を担っていた。

かつて、生粋のネットワーク屋であった村井先生が、なぜ坂本龍一氏のライブ・ストリーミングの総指揮を行ったのか。クリエイティブ・コモンズのエンジンである伊藤穣一氏がなぜ今でも下位層について関心を有しているのか。なぜGoogleはヴィントン・サーフ氏の経験を高く評価するのか…つまり、そういうことである。

そうした人材が、産業全体で不足しているように、私は思う。また、単に人材不足というだけでなく、産業全体でそうした人材を受け入れる素地が減っているようにも感じる。そして日本からiPhoneのようなノリのものが生まれる気配すら感じられなくなったのは、そうしたところに背景要因があるように、どうしても思えてしまう。

たとえば先日、WIDEプロジェクトの20周年記念シンポジウムの席上、BSDの父であるビル・ジョイ氏の話を久々に聞いたのだが、自ら創設したサン・マイクロシステムズを辞した彼は今、KPCB(クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ)パートナーとして新たな技術・ビジネスシーズの探索にあたっている。翻って、今の日本のネット周辺に、彼のような経験を持ちながら、彼のような動き方をしている人は、寡聞にして多くは知らない。彼我の違いは、私にはことさら大きなものに感じるのである。
 
 

あちこちのいろいろを解決するためのお手伝い

実は私自身、この問題には以前から気づいていた。それこそ私自身が1年半前に独立したのも、そうした不足に何らかのお手伝いができるのではないか(というビジネスチャンス)、またお手伝いすべきではないか(という一種の使命感)、と思っていたからでもある。

実際そうしたニーズはあちこちにあり、いまは技術・事業開発を超えて、資本政策やガバナンスも含め、いろいろお手伝いするに至っている。ただこの動きは、私自身がエバンジェリストになるということは、(誰もいなければやらざるを得ない場面はあろうけれど)ひとまず目指していない。むしろ一義的には、ポテンシャルのある人たちが(再び)縦横無尽に活動するためのお手伝い、と心得ている。

となると、逆にやらねばならぬことは山ほどあって、ゆえに個人で動くにはリソース・能力ともに限界がある。そのことは直感的に分かっていたので、独立して早々からお隣の渡辺聡さんとパートナーを組んでいたのだが、取引先の要請もあちこちから強く、また旧知のライツ・ビジネスの専門家が合流してくれたこともあり、この度「株式会社 企(くわだて、と読みます)」として組織化した。

もとより資本市場を冷徹に見ている二人なので、ベンチャーとして成長させてIPOで云々、などという意識はない。期待していることは、こうした問題意識とその解法を産業全体に広げて、自分たちが仕事をする環境も改善して業務効率性が上がれば、結果として取引先も私たちももっとラクにバリバリ仕事できる世の中になるのでは、ということである。

なにより、こうしたニーズが顕在化しつつあり、それに対して私たちにできることがある、という事実自体、単純におもしろいと思っている。というわけで、気がついたときにでもまたご報告させていただければ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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