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私の頭の中の経営危機

2008/02/07 14:08
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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冷麺を食べながら

まずは昔話から。3-4年ほど前のある夏の日の昼下がり、韓国政府の若い官僚たちと、ソウルの街中にある安い食堂で冷麺を食べていた。ちょうど小泉元首相と盧武鉉大統領が済州で会談した直後で、とりあえず政治の話で「写真集出したりプチ整形したり、お互い五十歩百歩だよね」と談笑ムードに持ち込んだあと、ふと私が疑問に思っていたことをぶつけてみた。

それは「なぜ韓国経済は成長を急ぐのか」ということである。確か2002年で7%、訪問した前後でも5%程度のGDP成長率で、対するインフレ率は2-3%程度と安定していたはずだ。またちょうど「samsungが世界を席巻し、日本の家電メーカーは危機に瀕する」と喧伝された時期でもある。ちょうど失われた10年を経験した直後の日本と比べ、良く言えば成長の力強さを、悪く言えば焦りのようなものを感じたのだ。

情報通信省の面々であり経済は基本的に門外漢だから、彼らに正解を求めたのではなく、彼らの仕事領域から韓国経済がどう見えているのを聞いてみよう、という程度のつもりだった。ところが驚いたことに、彼らは口をそろえて「IMF管理下に入ったから」と答えた。マクロ経済的にはいろいろ別の説明が可能だが、平たく言えば「IMFから金を借りるにあたって経済成長を義務づけられた」ということである。

倒産と広告の奇妙な関係

昨秋に韓国経済がトリプル安に見舞われた時、私はこの時のやりとりを思い出していた。そして同じくして記憶が蘇ったのが「倒産直前の会社は無意味な広告を打ちまくる」という話である。

からくりは単純だ。要は経営が傾くとそれまでの債権者が経営危機を警戒し、よりカネを突っ込んで急場をしのがせる。大抵は有利子負債を膨らませる効用しかないのだが、債権者としては焦げ付きだけは避けたいからさらに無闇にカネを突っ込む。その時の条件として、とにかく目先の営業キャッシュフローを改善すべく、広告を打って集客するよう要請する。

大抵の場合は欠陥要因が経営やビジネスモデルにある以上、広告で解決できる問題ではない。しかし債権者の意向は無視できず、訳の分からない企業イメージのようなスポットCMがなんとなくテレビに流れ出す。すると消費者の認知は高まるが、すでにその認知を回収する受け皿となる事業が破綻しており、集客には至らない。そしてその支払いができなくなったころにCMは止まり、ほどなくして会社は破綻…こんな流れである。

もちろん資本政策の性質(間接金融ベースか、直接金融ベースか、等)によって変わる話である。それにあくまで一企業の話であり、「紙幣を刷れる」政府レベルの経済でそのまま使えるアナロジーではない。ただ、ターンアラウンド直後の成長率を要求され続ければ、何らか無理が生じるものだ。国でも企業でも、あるいは個人でも、それぞれすべて人間が支えているものであり、悲しいかな、人間はそんなに急には変われないのだ。

無理のある成長戦略の果てに

枕が長くなったが、いまここに経営危機を迎えつつある会社がある。かつては時代の寵児としてもてはやされた会社だ。そういう会社の常として、ある面ではお行儀が悪いと揶揄されがちでもあったが、彼らのおかげでその産業分野は大きく変わった。私もその変化による恩恵をを享受できた一人として、彼らには一定の尊敬の念を抱いている。

そんな暴れっぷりを支える上で、彼らもやはり成長を義務づけられた会社であった。資本政策のスタイルは上記の広告の例とはまったく異なるが、常に目先の営業キャッシュフロー確保が求められ、それだけが市場から評価される根拠となった。その成長戦略を維持するためには、ある基盤事業が飽和したら次の領域を求める、という事業領域の拡大にひたすら突き進むしかない。

そうして手を出した新しい事業が、彼らの落とし穴となった。すでに基盤事業の停滞が見えた彼らにとってはフロンティアのように映ったのかもしれないが、その事業が競合他社と比べてかなりのボロで、結果的には高値づかみとなってしまった。しかもそのボロっぷりを競合他社が救済する直前での「横取り」となってしまい、結果として競合を本当の意味で敵にまわすことになった。

さらに悪いことに、彼らはその穴への落ち方を間違えた。高値づかみというのは、いわば身の丈に合っていないということである。落ちたときに受け身を取る能力があったり、落ちても這い上がれる深さの穴だったら、あるいはどうにかなったかもしれない。しかし結果として、現状の彼らは深くて狭い穴の底で複雑骨折の状態にある。私の頭の中での杞憂であってほしい話だが、これらは税効果会計の仕組みが分かる人なら、公開情報から十分推測可能なものでもある。

残念なことに誠に残念

昨秋の終わりくらい、ちょうど前述の韓国のトリプル安が起きた頃に、私はこの問題に気がついた。ただ、気づいたところで、私にどうこうできる問題ではない。私にできることといえば、その中にいる知人・友人にアラートを発すること、その近隣で仕事をしている人たちに早期のクローズや精算を促すこと、そして彼らが主戦場とする業界の行く末について、政策当局も含めたステイクホルダーと話をすること、くらいである。このエントリもその意味ではアラートの一つである。

あるいは本来なら、もっと早い段階で破綻しかねない話でもあったと思う。それをここまで引っ張れたのは、ひとえに彼らの商売のうまさでもある。たとえば、ある指標に視線を集中させ、同時に無茶な競争を仕掛ける。そこで市場の盛り上がりを作り、負債を先送り(あるいは別法人に横滑り)させて当座の営業キャッシュフローを確保する。いよいよ話題が不足したら蛸が自らの足を喰うかのごときキャンペーンを大々的に打って凌ぐ。さらに政策当局にも恩を売って尻尾切りを防ぐ、等。

こうした中にはもちろんグレーやブラックな手法も含まれている。ただ総じて、日本がサービス業の国を目指すのであれば、重要な能力だと思う。そして今の日本にはそれが不足しており、彼らはやはり希有な存在だ。だから私はこのまま彼らが単純に倒れていく姿を見たくはないし、まだまだ働いてほしいとも思う。とはいえ繰り返しになるが、私にできることはないし、すでにいくつかの開発案件が止まりつつあるという話を伝え聞くに、やはりもうダメなのかもしれない(そういえば最近彼らから華々しくリリースされた製品も、技術的な開発要件は「ゼロ」という代物であったことを思い返している)。

他山の石

そんな私たちにもできることがあるとしたら、彼らの評価されるべき部分をきちんと評価し、彼らの行く末をきちんと見届けることだろう。また、彼らが倒れた後に揺り戻しとして台頭するであろう批判や言説を見極め、分別・排除することも必要だ。特に、すでに日本は生産拠点の大半を中国や東南アジアにシフトし、また彼の国の企業にさえ負けはじめているのに、相変わらず無思考に「ものづくり」と念仏を唱えるのは、もはや一種のオカルトである。

また、彼らのようなケースは、今年から来年にかけて日本でも増えてくる気がしている。というのは彼らが採用した手法が日本の買収案件でもチラホラ目に付くようになっており、そのわりに厳格なデューデリジェンスが行われている気配を感じず、また行われていたにせよ、前提となる市場が極めて荒れているからだ。その意味で、自分や知人が働く会社や取引先も、そんな事態に見舞われる可能性がゼロとは言えない。

今回の話題に限らず、これから春を迎え決算期が迫る中、あちこちで大きな瓦解が生じるように思う。そしてそれは、ここ数十年の間に築かれ、維持され、また延命させられてきた様々な秩序の崩壊につながるかもしれない。そうして目の前にあらわれた荒野を前に、私たちは何をしたいのか、何が出来るのか、そしてその中でどう生き延びるのか。そういった視点から彼らを他山の石とすることが、今の私たちに必要なことだと私は思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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