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GoogleはAT&Tではない

2007/07/23 11:34
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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米国の電波行政を巡って、Googleなどのサービスベンダと通信キャリアが火花を散らしている。前回のエントリ(その1その2)で触れたネットワーク中立性の戦線拡大という面もあり、ここ数日で火花が「打ち上げ花火」ほどに成長しはじめているようだ。近々決着がつくと思われるが、備忘録も含めて現状を少しメモしておきたい。

700MHz帯のオークション
ことの発端は今年の4月末にFCCが発表した700MHz帯の電波オークション規制案[pdf]である。この規制案自体は、テレビのデジタル放送移行で生じた空き周波数をオークション方式で再分配するというものだが、FCCのマーチン委員長は米国内のブロードバンド普及に向け「第3のパイプ」として有効利用されることを期待する旨のコメント[pdf]を同時に発表している。

「第3」とは通信キャリアやCATVに続く新たな事業主体を暗示しており、具体的にはGoogleやYahoo!のようなサービスベンダにフォーカスがあてられている。中でもGoogleは以前からこの分野への関心が高く、この規制案発表直後から応札の方針を示したり、広告ビジネスでのオークション機能を活用した「電波の卸事業」など、その活用方法についても具体的かつ積極的に言及してきた。

Googleの主張は、サービスや事業機会の公平な開放という視点に立てば革新的で、その主張が通れば市場原理に基づいた産業のアンバンドルをもたらすと見られていた。これに対して基本的に垂直統合を指向するAT&TやVerizonといった通信キャリアは危機感を有していた。実際、今月はじめにFCC宛へ送られた異議申立て[pdf]のレターにも、defy(妨げる)、diminish(低下させる)、inhibit(抑制する)等の単語が並び、悲愴感が漂っている。

変わる風向き
しかしここにきて風向きが変わりはじめているようだ。一つは今回オークションされるうち「Dブロック」と呼ばれる領域の免許は、警察や消防等が利用することから、端末やソフトウェアの自由な利用を認める他のブロックとは異なる仕様と区分で売買される方針[USATODAY記事]がマーチン委員長から示された(まだ承認には至っていない)こと。またそれに関連し、同委員長が必ずしもGoogleの主張をサポートしないコメントをほのめかしている[同記事]ということである。

もちろんマーチン委員長はGoogleの提案を「否定」しているわけではない。インタビューに対し「我々が提案するルールにおいて、落札者は卸売りが可能だ」[USATODAY記事]とも述べている。またもともと彼がオークションを推進しているのは米国のブロードバンドアクセスや無線通信の競争促進[同記事]を目指すからでもある。ただ同委員長の対応では不十分だという指摘は、身内のFCCコップス委員(民主党員、より積極的なオープンアクセスや市場競争を望んでいる)からも寄せられている。

また、デビッド・アイゼンバーグ氏もBlogで指摘しているが、AT&Tはこうした機微の変化に乗じて信頼性の確保等を主張しつつ、入札条件や価格の引き上げを狙っているようだ。これによりうまく事が運べば、競合を排除しつつ最終的には優位な入札ができるかもしれない。実際同社の政策担当者は、「Googleたちは"put-up or shut-up"(やりたければやれ、さもなくば黙ってろ)だ」[USATODAY記事]と表現するなど、先日の悲愴感はどこへやら、である。

Googleの再反撃
このあたり、本件がいかにも政治マターであることをうかがわせるが、もはや政治プレイヤーでもあるGoogleも、こうした事態に当然黙ってはいない。同社は先日、オークションが"consumer choice"(消費者の自由な選択を保障するルール)[CNET記事]とより積極的な競争を実現するために行われることを希望し、「アプリケーション、サービス、デバイス、ネットワーク」という「4つのオープン」をFCCが適用するという条件が適えば、最低46億ドルで入札を行う旨のFCC宛のレターを公表した。

また同様の趣旨の要望を、Skypeやfrontline wireless、またいくつかの公共団体(全米図書館協会等を含む)と共同で発表している[pdf]。民生無線技術の公共部門(警察や防災等)の普及を推進するfrontlineが名を連ねるあたり、ともすれば通信キャリアに好意的な解釈とも受け取れるマーチン委員長の最近のコメントに対し、Googleのアプローチでも対応できることを言明するような位置づけであり、ここでも対立軸が形成されているように見える。

…というところで先週は週末を迎えた。上記を私が追った限りの印象だが、まだ風向きは定まっていない。おそらく今週、来週とまた動きは出てくるだろう。

※追記:というわけでCNETにも記事が掲載されていた。

昨日の敵は今日の友?
ここでも、通信キャリア(AT&TやVerizon等)対サービスベンダ(Google、Yahoo!等)という構図が浮かび上がる。今のところ状況は、遅々として進まない米国のブロードバンドに業を煮やした後者(特にGoogle)が、潤沢な資金を背景に通信インフラ事業への介入に積極的に動き、一方の前者は同産業の品質や秩序の維持、またNGNを含めた技術基盤の変革期であることから、あの手この手で前者の動きを牽制しているように見える。

また両者を裁くFCCも、一方では市場開放を目指しながら、他方では通信産業の秩序維持を意識する必要に迫られている。上記の通り、マーチン委員長のコメントからは、市場開放への積極的な意欲を見せつつ、通信キャリアの権益をある面で認めるような素振りもうかがえる。酒でも酌み交わせば「おれだってつらいんだよ…」というつぶやきが聞こえそうな、どうにも難しい舵取りを迫られている。

ただ、こうした構図が未来永劫続くわけではない、と私は思っている。たとえば両者はiPhoneを介してすでに間接的な接点を有している。そもそもインフラとアプリは「鶏と卵」の関係である以上、(iPhone関連ではないかもしれないが)何らかのwin-win関係が構築できれば一気に手を組むかもしれない。両者はすでに"too big to fail"(潰すには大きすぎる)であり、ある局面では今後も衝突するだろうが、全体としては共栄共存の道をどこかで探るのが自然な成り行きだと思われる。

日本の先行事例となるか
そしてこうした各プレイヤーの複雑な動きは、日本の電波行政やひいてはネット産業の構造にも影響を与える、とも私は思っている。すでに日本でも携帯電話キャリアのビジネスモデル転換が本格的に議論されており、近いうちに何らかのうねりが起きる気配は十分に感じられる。その際、各プレイヤーのポジションや動き方かをシミュレーションするのに、格好のケースとなると思われるのだ。

もちろん、米国の動向がそのまま日本で展開されるわけではない。たとえば発端となる電波行政は相変わらず硬直的だし、とにかく強すぎる携帯キャリア、強すぎるNTTをどうすべきか、という日本固有の課題もある。ただ、あるコントロールポイントを軸に業界が再編される時のダイナミズムは、結果としてユーザも含めた商流の再構築をもたらす。この動向を検討する上で、米国でこれから何が起きるのかをつぶさに観察することは、変化に備える意味で大きなアドバンテージとなろう。

このところ、あちこちで花火が打ち上げられる状態なのでなかなかフォローも難しいのだが、また何らかの動きがあればエントリとしてまとめたい。また一次情報に関心のある方は、上記のポインタを参考に探られると分かりやすいかと思われるので参照されたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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