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NGNについて考える(2)

2007/05/05 17:04
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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前回のエントリに引き続き、NGNについて整理する。

●NGNにできること
【Q6】NGNで利用できるアプリケーションは?
ITU-Tの標準では6つのサービスが想定されている(概要をまとめたページがJPNICにある)。これをさらに再分類すると、以下のように整理できる。

A)電話網の代替を想定したサービス
・PSTN/ISDNエミュレーション(PSTN電話の置換えを想定した電話網)
・PSTN/ISDNシミュレーション(IP電話の普及を想定した電話網)
・公衆サービス(110番等の緊急通報、警察による盗聴、身障者対応等)
B)インターネットのアプリケーションに近似したサービス
・マルチメディアサービス(テレビ電話、ゲーム、テレビ放送の再送信等)
・インターネットアクセス(インターネットのインフラとしての利用)
C)VPNなど企業用途向けのサービス
・その他(VPN、ファイル転送、センサーネット等)

大雑把には「A)電話、B)ネットサービス派生、C)企業網」とまとめられる。AやBであればすでに家庭での利用が進んでいるし、Cについても専用線や独自IP網上でのVPN利用ニーズの拡大など、いずれもすでに需要が見えているものではある。従ってアプリケーションに目新しさはあまりないが、「電話網の置換」というNGNのコンセプトを考えれば、むしろそれが自然でもある。

【Q7】NGNのサービスの特徴は?
前述のようにまとめてみると、「インターネットでもすでに実現されているのでは?」という疑問が自ずと生じる。またそこから派生して「NGN的アプリケーションとは何なのか」というアイデンティティ問題にも陥る(実はこうした疑問を投げかけられることが大変多い)。確かに機能面で考えれば妥当な疑問である。ただ、ここで重要なのは機能よりも「電話網が有する信頼性」の提供である。

電話は「1秒たりとも接続が切れない通信」であり、それこそ受話器を上げた瞬間に「ツー」と音がしなければ、あるいはダイヤルを回して発信しなければ、それはすなわち事故となる。一方インターネットは「何回か接続を試して最終的にうまくつながればいい」というベストエフォートの考え方を前提にしている。もともと電話網の置換を目的に構築されるNGNは、当然前者を目指さなければならない。その意味で、利用できる機能は同じだが、信頼の「内容」は異なる。そして、その異なる内容の信頼性の上に立脚しているということが、NGNのサービスの特徴となる。

ここであえて信頼の「水準」ではなく「内容」と書いたのは、そもそも考え方が違う以上、単純に水準という考え方で比較することはできないからだ。たとえば、インターネットがいくらベストエフォートだからといって、通信品質の問題でメールが届かないことはさすがにほとんどなくなった。またskypeだってそこそこ使い物になるし、信頼とは別の付加価値(安い、簡単、多地点会議ができる等)を提供している。こう考えると、両者を同じ土俵で直接比較すること自体にやや無理がある、とも思えてくる。

●NGNの課題
【Q8】NGNの技術的課題は?
いくつかあるだろうが、代表的なものの一つとして、スケーラビリティが挙げられる。具体的には、IMSというNGNの中核技術周辺が、果たしてNGNの想定する利用規模や通信経路の構造(=電話網が支えている通信需要、回線構造、品質)に耐えられるのか、ということである。実際、類似のネットワークアーキテクチャと技術を有するNTT東西のIP電話で、2006年に大規模な障害(東日本の事例西日本の事例)が発生しており、不安は未だに払拭されていない。また究極的には、NGNが普及してみなければ何が起きるか分からない、とも思われる。

こうした懸念は、当初インターネットでも指摘された。たとえばDNSが現時点で破綻していないのはちょっとした奇跡のようなものだと考える人もいるし、その裏返しとしてルートサーバ等ネットの根幹に周到なDDoSを仕掛けられたらインターネットは破綻するとも言われる。あるいは経路制御等ではすでに問題が起き始めており、IETFやIABでも議論は始まっている。ただ結果としてインターネットはここまで成長してきたし、その「実績」そのものがインターネットのアドバンテージだと言えるだろう。

また関連して、NGNの運用技術の不足も挙げられる。これは、まだサービスインしていないがゆえの課題でもあるのだが、インターネットがこうした課題を世界中の技術者の協調によって克服してきたのに対し、NGNは通信キャリア自身による閉じた運用体系を前提としており、その構造がノウハウの蓄積や流通を困難にする可能性がある。それこそNTTグループ内でいえば、実はNTTドコモのネットワークはすでに一種のNGNとも考えられる(大規模、閉塞網、IP利用、等)のだが、現在のNTT-NGNとは同一でなく、また同じNTTとはいえ実際には異なる事業体(それこそ資本構造も異なる)のため、協調は容易ではないはずだ。

【Q9】NGNの事業面での課題は?
これもいくつかあるだろうが、一つはマーケティング面での課題が挙げられる。つまり「ユーザの需要を喚起できるか」ということなのだが、今のところあまりうまく解決できていないように見える。というのは、「何が、いつ、どのような条件で使えるのか」といった面が明らかでないため、企業ユーザも家庭ユーザも現状では「自分とはあまり関係のないサービス」と認識しがちなためだ。

供給側は「まだ出来ていないのだからそう認識されても構わない」と考えているのかもしれない。しかしそれはやはりサプライサイドの論理であって、ユーザ側はネットワークというライフラインに対して将来的な導入計画を立てなければならないし、その際に「見えないものは選べない」ので、結果的に現状提供されているサービスを選択し、使い続けることになってしまう。

その結果、たとえば企業であれば「予算があれば専用線かIP-VPN、なければインターネットVPNでいいや」となるし、家庭であれば「現状のADSLとISPの組み合わせでいいや」あるいは「音声通話も携帯電話さえあれば別にいいや」ということになる。ネットワークはライフサイクルの長いサービスであり(一度導入したADSLやISPの契約を数ヶ月でリプレイスする面倒を考えれば分かる)、この状態が続くのであれば、NGNのサービスイン当初の足かせになってしまうだろう。

またサプライサイド側の課題として、NGNが果たしてエコノミー(あるいは産業)を作れるか、というものもある。世界中の電話網は旧来、「○○ファミリー」と呼ばれるような特定少数の事業者が、研究開発、仕様策定、実装・構築、運用・維持管理のあらゆる面でその国の通信キャリアと密に協業する体制で進められてきた。たとえばNTT-NGNもその枠組みを踏襲し、伝統的にファミリーの一員であるNECとの密接な協力の下に、構築が進められている。

一方、インターネットの登場により、通信機器ベンダの世界は大きく変容した。それぞれの企業努力によりメジャー、マイナーの差は生じているものの、基本的には群雄割拠の世界であり、IP技術はこの環境の中で育まれてきた。両者の立つ産業構造にそもそも違いがあり、それゆえNTT-NGNは「○○ファミリー」のスキームを用いているのだろうが、IP技術による効率化を進めるためには、IP技術を有するベンダを活用しなければならないし、そのためには彼らが依拠する産業構造を理解し、使いこなさなければならない。

一言で書いてしまえば「じゃあ取り組めばいいじゃないか」となってしまうが、産業構造が違うということはビジネスモデルや商流の構造が違うということであり、これを心底理解して自らの事業に取り入れていくのは至難の業である。現時点でも様々な試行錯誤が行われているとちらほら聞こえてくるが、おそらく当面はこの状態が続くことだろう。

【Q10】NGNは本当にできるのか?
現象面でとらえれば、作っているのだろうからいずれできるのだろう。しかし、本当にゴールに近づいているのだろうか、という印象も否めない。というのは、NGNの中身を検討すればするほど、技術的にも事業的にも「相当難しいものを作っている」という気配を感じるからである。おそらくそれは、IPと電話網という出自の異なる「水と油」を混ぜることの労苦なのではないか。

水と油が混ざった状態を安定させるには高いエネルギーが必要となるのと同様に、難しいものを作るにはコストも時間もかかる。そしてコストと時間を費やした分、リリース時の要求水準(あるいは期待)が、供給側、需要側の双方で上がってしまい、エントロピーがひたすら増大する。有り体に感想を述べると、NGNは本来目指していた「秩序ある系」から、それこそビッグバン以降の宇宙のように遠ざかっているようにも見える。

ただいずれにせよ、既存の通信インフラに課題や限界があり、ユーザの活動に制約が生じていたり、またインフラとしての永続性に疑問が生じている以上、何らかの対策を講じなければならないのは間違いない。その意味でNGNは「通信インフラの課題に対する一つの回答」であり、ユーザも事業者もそのようにNGNを相対化して認識すべきなのだろう。

そう考えるとこの問いに対する回答としては「NGNが果たすべき機能を意識した何らかのネットワーク」は、ユーザがそれを望む限り、いずれできるはずだ、ということになる。

…と、ひとしきり問答を書いてみたが、混迷を深めただけだったのかもしれない。ただこのあたりの混沌とした状況が、私が年初に感じた「変化の兆し」の源泉だと考えている。というわけで今後も当Blogでは、「情報通信」という語義を拡大解釈して、そうした混沌と変化の兆しを採り上げていきたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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