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誰がためにDRMはある?

2007/03/23 23:39
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プロフィール

クロサカタツヤ / KUROSAKA, Tatsuya

インターネットや通信、放送サービスが大きく変容する中、産業、政策、技術開発等の最新動向や、情報通信サービスと社会の関係性を考える上での「新たな視点」を、さまざまな分野でコンサルティング活動をしているクロサカタツヤ氏がお届けします。
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コメントの真意が分からない
Apple TVの発売で思い出したかのように、2月上旬にAppleのスティーブ・ジョブズCEOが発表したDRMに関するコメントを最近改めて読み返している。すでに要約記事を読まれた方も多いと思うが、発表当初から私はあのコメントの意図するところが今ひとつ分からなかった。

原文を読んでみても、FairPlay(AppleのDRM技術)の撤廃宣言にしてはメッセージが中途半端すぎるし、反対に継続宣言というわけでもない。ではレコード会社にDRM廃止を求めているのかというと、書かれているのはあくまでレコード会社側の自主的な取り組みへの期待という程度に過ぎない。CDにはDRMがないのだから、という話も、正直なところ「何を今さら」というような話である。

お隣のレッシグ氏はこのコメントを「DRM廃止の呼びかけ」として歓迎しているが、私としては、音楽業界におけるiTunes StoreとiPodの影響力の大きさを考えると、やや煮え切らないという印象である。うがった見方だが、ユーザ、コンテンツホルダ、またAppleの対応を批判する(特にヨーロッパの)いくつかの国の政府等に対し、「自分たちだけじゃ現状はどうにもできないんですよ」と言い訳をしているようにさえ聞こえる。

ユーザにとってDRMは敵か?
ところで、そもそもジョブズ氏が指摘するように、ユーザは本当にDRMの廃止を望んでいるのだろうか。

DRMに対しユーザは否定的である…従来はこれが定説だったと思う。しかし気がつくと、携帯音楽端末や携帯電話で音楽を聞く人は街中にあふれている。そしてネットでの音楽配信も、それこそ既存の店舗の存亡を脅かすほどに好調だ(しかもそれは、他ならぬiPodとiTunes Storeによってもたらされている)。ならば、こうしたDRMを前提としたサービス形態は、それなりに定着したと考えていいのではないか。

すなわち、ユーザは必ずしもDRMを敵視しておらず、むしろ日常的に利用していることになる。もちろん「DRMの好き嫌い」をアンケート等で調べてみれば、「嫌い」と答える人の方が多いだろうし、決して積極的に肯定しているわけではないだろう。しかし実態を見れば、必ずしも全否定しているとももはや言い切れないだろう。

大事なのはユーザにとっての使いやすさ
それに、DRMもある程度の柔軟性を備えつつある。規格によって対応状況は異なるが、たとえばコピー回数の制限にしても、それなりの回数が認められている。ユーザが利用意欲を失わないよう、コンテンツホルダもそれなりにユーザの権限を認めているのだ。

またユーザにとってのリスク管理という視点もある。たとえば2007年の今を生きる私は、ネット上にある怪しいファイルに手を出す気にはならない。たかだか数百円の節約のために自分のPCを(そして自分の社会人としての存在を)感染のリスクに曝すくらいなら、私は迷わず音楽配信サイトから正規のファイルを購入する。そしてその時、DRMの有無は気にしない。

こう考えると、DRMがユーザにとって一概に敵というわけのではなく、そのDRMがユーザからみて使いやすいものか、ということがユーザによる採否を決するということになる。すなわち、サービスの利用スタイルやブランドも含めて、そのサービス自体に価値があり、かつそこにDRMが機能として自然に位置づけられていれば、ユーザはそれを特に抵抗なく受け入れるのだろう。

ユーザが自分で使うDRM
より踏み込むと、今後はユーザ自身の情報流通管理のためにこそDRMが使われていくかもしれない。たとえば、今後ユーザ参加型のコンテンツが本格的に流通するのであれば、ユーザも潜在的にはコンテンツホルダの一人となり、場合によってはその知的財産権を主張する場面もあるだろう。

あるいはそこまで明示的でないにせよ、自分が利用する権利を有するコンテンツを何らかの形で管理したいというニーズはありうる。実際、ロケーションフリーslingbox、あるいはiPodでの録画ビデオの視聴のような「外出先で自宅周辺のコンテンツを楽しむ」という用途の台頭は、その動きを裏付ける。

こうした「個人の情報流通管理」という領域は、従来はざっくりと「セキュリティ」の一言で片付けられ、単純に非公開のロックをかけるだけの方向に進んでいた。しかし、よりきめ細やかな情報流通管理のニーズが顕在化しつつある中で、今後ユーザが自分自身のコンテンツ発信のために何らかの管理体系や保護体系を求めることは十分に考えられる。

Appleはどこを見ているのか?
ぐるっと回って冒頭に戻ると、今回のコメントは、Appleがユーザも含めた各当事者の反応をうかがうために打ち上げた観測気球だったのではないか、と考え始めている。実際、コメント発表から1ヶ月以上が経過したが、音楽業界ではフランスのユニバーサル・ミュージックが一部の楽曲のDRMなしでの提供を決めたという程度の動きしかない。どうも裏ネゴなしの「単独行動」のように思われる。

だとするとAppleは、今回の気球で、誰のどんな反応を観測したかったのか。もちろんコンテンツビジネス方面へのDRMに対する確認が大きな目的の一つなのだろうが、一方でどうもユーザに向けられたメッセージにも読める。それも、単にコンテンツ消費という視点だけでなく、どうも前述の「ユーザ自身の情報流通管理のためのDRM」というあたりを見据え、ユーザのDRMに対する反応を観測しようとしているのではないか。特にApple TVやiPhoneの動き方を見ていると、そんな気配を感じる。

…と、これはさすがにちょっと考え過ぎかもしれない。ただ、文意が定まらず、論理も必ずしも一貫していないあたり、逆に深読みを誘う文章ではある。そして最近のAppleは、あたかもそう深読みさせるような動き方をしているように思う。もちろん仮に彼らがそう考えていたとして、事業化に成功するかは分からないし、そもそもこうした観測気球めいたものを打ち上げること自体、Apple自身が揺れている証左なのかもしれない。

しかし、Appleがその領域に注目しつつある、という気配が、どうしても私にはする。そしてその気配は、日本の情報家電や携帯電話事業にも少なからず影響を及ぼすように思える。こうして「釣られてしまう」こと自体が思う壺なのかもしれないが、彼らの動向はもう少し注意深く追いかけたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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