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連続的な開発と非連続的な開発

2005/08/09 14:24
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kondo

人力検索やダイアリー、アンテナなどユニークなサービスでおなじみの「はてな」。そんなはてなを率いる近藤淳也氏が、ネットのコミュニティやサービスのあり方について独自の視点で切り取ります(このブログの更新は2006年2月9日で終了しました)。
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ペアプログラミングや偉くない管理職、といった方法のほかに、はてなでは様々な開発業務を「連続的」「非連続的」といった概念で分類して考えています。

例えば、携帯電話から見ると、はてなダイアリー向け以外のリンクが張られない。はてなアンテナと同様に、コンテンツ変換を通して携帯から読める形のリンクを張ってほしいといった問題に対してシステムの変更を行う作業は「連続的」な問題です。

既に動いているコードがあり、そのコードに対して変更を行うような作業は、それなりに時間がかかる場合もありますが既存のシステムから予測可能な変更作業です。こうした作業は、継続的に行うことでサービスの品質を上げたり、ユーザーの満足度向上に貢献します。

これに対して、「新しいユニークなブログの仕組みを思いついたので作ってみよう」といったアイデアは「非連続的」あるいは「破壊的」な問題です。こういうアイデアは、待っていてもなかなか生まれませんし、継続的にアイデアが生み出される保証はどこにもありません。また、アイデアを思いついた段階から、実際にサービスとしてリリースする段階に至るまでにはいくつものハードルが待っています。

しかし、こうした「非連続的」なアイデアを着実に形にしていくことが、次の主力サービスを生み出し、その結果次のビジネスを生み出す根源になります。特に今のはてなのような業態ではその傾向が顕著です。

ここで問題なのが、素晴らしい「非連続的」なアイデアを思いついたとして、それを着実に形にしていくのはとても難しいということです。(その前提として、アイデアをどうやって思いつくのかというさらに大きな問題がありますが、これについてはまだ何も解決策は生まれていないので割愛します)

例えば「今日ははてなダイアリーの携帯端末対応作業をやらなくちゃ」といった業務を各社員が複数抱えている通常業務日に、「今日は新しいブログを作ってみよう」といっていきなり新しい大規模開発を始めるのはなかなか敷居が高いものです。(そんなことをしていたらやるべきことは終わらないし、かといって新しいブログシステムも出来上がらずに「君は何をやっていたの?」と怒られてしまうかも知れません)

心理的な問題だけでなく、書籍『イノベーションのジレンマ』で紹介されているような経営的な問題も存在します。つまり、既存の主力サービスからの売上が大きいために、ビジネスモデルもままならない新しいアイデアに新規に取り組む経済的なインセンティブがとても低いという問題です。

だからと言って既存のサービスにしがみつき、連続的な作業だけに明け暮れ、そこからの収益だけに頼っていては、世の中の流れに取り残され、長くて5年もすれば結末が見えてくるでしょう。

非連続的なアイデアを形にするには何らかのトリガーが必要になりますが、かといって「取締役会議で新しいブログを作ることになったので、1週間後までに新ブログシステムを作りなさい」といったトップダウン的なトリガーでは、なかなか開発者のモチベーションが上がりません。

非連続的なアイデアが確実に形になるようなフローを社内に作るにはどうすれば良いか、それに対する一つの答えが、環境を変えて仕事をする事だと思っています。

これまでの新サービスがどういった状況で作り始められたかと振り返ってみると、それは1人の開発者が「新しいアイデアを思いついて思わず作り始めた日曜日」だったりするわけです。決して「業務に追われて忙しいオフィスでの昼下がり」では無いのです。であれば、それに似た環境を継続的に作ることで、アイデアが形になるきっかけを作れるのではないか、と考えました。

環境を変えるために現在取り組んでいるのは、合宿と移動オフィスです。

合宿では、前回紹介したように5名ほどの開発者で高原のペンションなどに行って、3日間缶詰になります。しかも、普段オフィスでやる仕事は持ち込まずに、「なにか新しいことをやって帰ってくる場所」ということにしています。3日もかけて何か新しいことを作る、という話になると、普段から悶々と感じている「やりたいこと」をいよいよ形にする時がやってきた、ということになって非連続的なアイデアが形を見せ始める良いきっかけになります。

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高原のペンションにて

また、移動オフィスは平日に普段のオフィスとは違う別の場所に集まって1日仕事をするという方法です。インターネット回線が使える場所に集まって黙々と作業をするわけですが、これは中規模な作業、つまり連続と非連続の間くらいで1日くらい集中して作れば作れる程度の作業を行うのに向いています。

合宿や移動オフィスをやってみて気付くのは、普段のオフィスではいかに割り込みが多く業務の効率を下げているか、ということです。誰からも電話はかかってこないし打ち合わせも無い、自分がやっている作業以外の事を考えずに済む、というだけで生産性が2倍、3倍と増加するのを感じます。

合宿ではだいたい朝の8時から18時くらいまで開発作業をするわけですが、それだけ集中して作業をすれば、各自が「もうこれ以上作れない」という状態になりますので、夕食後は軽くお酒を飲みながらのんびり過ごしてたくさん眠る、というサイクルになります。

それでも十分に生産的な仕事ができ、これまで行った合宿では常に新サービスが生まれたり既存サービスの大幅な拡張に成功してきました。

また、話が前後しますが、社内で毎朝ミーティングを行うことは、新しいアイデアを思いついた時に、そのアイデアをどこかに眠らせてしまわずに、アイデアに少しずつ形を与えていく事に貢献しています。

朝のミーティングには発表の時間を設けており、手を上げれば誰でも自分の発表を行うことができます。「ユニークなブログシステムのアイデア」を思いついたならば、手を上げて全員の前で披露でき、他の社員の意見を聞くことができます。

「とりあえずアイデアを発表して色々な意見を聞いてみる」というブレーンストーミング的な議論が始まった時には、なるべく否定的な意見を言わずに、発言が「質問」か「代案」になるように心がけ、なるべく多くの可能性を出してみることを心がけています。

「そのアイデアはなぜ○○な仕組みを持っているの?」とか、「それだったらトラックバックも受け付けるようにしたら面白いんじゃない?」といった発言は活発な議論を誘発し、新しいアイデアを引き出します。

一方で新しいアイデアに対して否定的な意見を言うのはとても簡単です。「そのアイデアは著作権問題を抱えているから権利者に了解を取るのが難しいんじゃない?」といった類の意見は確かに正論なのですが、まだやると決まったわけでもないサービスに対して今からそんな事を言っていても何も始まりません。できれば「著作権をクリアにするために○○な仕組みをくっつけたらどうだろう」という代案の形にした方が議論が前に進みます。

非連続的なアイデアはいつもいかがわしくて怪しい雰囲気を持っています。何せ、まだこの世の中に存在しないものについて話をしているわけです。既存の仕組みでうまくいっているように思える物事を、別の方法でやり直そう、と言っているわけです。

そんなアイデアに対して否定的な意見を述べるのは簡単ですが、得てしてアイデアを考えた人間のやる気を萎えさせるのに十分な力を持っています。

まだアイデアが生まれたばかりで、これからどんな形を与えられて育っていくかも分からない段階に、ありきたりの否定的な意見でその可能性を潰してしまわないためには、議論を「連続的」な問題と「非連続的」な問題に、あるいは「実運用に向けた現実的な議論」と「可能性を考えるブレスト的な議論」に分けて考えて、それぞれに対して適切な態度で議論に臨むことが重要だと思います。

このような取り組みを通じて新しい可能性の芽を大事に育て、成長段階に応じた適切な方法で成長を支え、独り立ちできる一本の樹まで育てられるよういかに歩留まりを上げていくか、これが継続的な会社の発展にとってとても重要だと感じています。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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