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原発の終わりの始まり

2011/05/11 00:15
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プロフィール

寺本由美子

本名とタイトルのペンネームが異なっているのはご愛敬(話せば長~い物語あり)。IT系の話題からゲームのレビューまで、自由気ままに発信します。iPadやiPhoneなど、大好きな電脳小物についても熱く語りたいですね。Twitterにも出没中。ブログへのコメントも、@kirifue へどうぞ。
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以下は、5月10日17時50分から首相官邸で行われた「菅直人 内閣総理大臣記者会見」を視聴する直前に書いた文章である。記者会見視聴後の感想と意見を、最後に追記した。


菅政権の要請を受けて、中部電力が浜岡原子力発電所の原子炉停止を決断した。電力会社に原子炉停止を要請するというのは極めて異例だが、これが脱原発の糸口になるかと期待した人々は肩透かしを食らう形となった。何故なら、枝野幸男官房長官が同日の会見で「原発政策の基本は変わっていない」と語ったように、この措置は例外に過ぎないからだ。津波への対策を強化した後に再稼動するという。あくまで短期的な政策であって、日本の将来を見据えた中長期的な展望は開けていない。

日本では電力の原子力発電に依存する割合は実に3割に達している。原発の安全神話が崩壊した今、もはや平成42年までに14基以上の原発を新設するという計画が頓挫することは明らかであるが、全国に54基ある原発すべてを即時停止することは不可能だ。だからといって、このまま何の見通しもなく原発を稼動し続けていいのだろうか。

動いていても動いてなくてもさして安全性に変わりはない、だからすぐに停止する必要は無いし停止するべきではない、という意見をネットや新聞などのメディアでよく目にする。確かに現段階ではそうだ。このまま廃炉になるまでずるずると使い続ければ、数十年の猶予が生まれる。その間に核に替わるエネルギーを調達、開発、実用化していけばいい。

まったく悠長な話である。それまで管内閣が存続しているはずもないから、長期政策など打ち立ててもしょうがない、って言っちゃそれまでだが。原発利権に変わる新たな利権の開拓にも十分な時間が取れそうだ。というより、発電・送電・配電の分離や自由化など、電力をめぐる産業構造が改革されない限り、企業と政治家の癒着は一向に解消されないだろう。天然ガスであろうと風力発電であろうと、駒は変わっても操る企業や人間は同じなのだから。利権が最優先されるとき、国民の安全は二の次となる。原発の「安全神話」が築かれたのにはそういった背景があった。

 

すべては「想定内」の事態

科学的にも工学的にも「絶対安全」などということはこの世の中にはない(政治的にはあるのだろう、きっと)。巨大地震や大津波が発生するリスクはかなり高い。隕石が飛来してくる確率やテロが発生する確率もゼロではない。度重なる操作ミスにより二重三重のプロテクトを破ることもあり得る。

いちいち考えてたら、何も造れないし生み出せないという意見もあろう。そうではない、様々なリスクを想定してこそ、適切な対策を講じることができるのだ。それでも、費用対効果の問題や被害が少ない、発生確率が低いという理由で対策を施せないこともある。ここで重要なのは、そのような事態が発生したなら安全は担保できないということを、国民に広く知らしめることである。その上で選択すべきなのだ。

それらは決して「想定外」ということではない。まあ、どうしても想定できない事態というのも中にはある、例えば宇宙人がやって来て原子炉を破壊するなどということは、現代の科学では想定できないと思う(対処のしようもないが)。根拠が乏しいからだ。しかし、大津波が来ることが「想定外」とは片腹痛い。ご都合主義にもほどがある。

東日本大震災では内陸6kmまで津波が到達したが、1100年前の津波の浸水範囲とほとんど同じであったという。それ程の規模ではなくとも、大津波の痕跡や碑は各所に見られる。数百年に一度では仕方ないと取るか、数百年に一度でも起こりうるから対策を施すべきか、答えは明白だ。しかも、福島の原発が大津波が来たならひとたまりも無いことは再三指摘されてきた。当然、電源喪失も想定内のことだ。そういった指摘や意見を無視した結果がこの大惨事なのである。

一方、女川原発は津波対策には前向きに取り組んでいたため、致命的な打撃を受けることは免れた。これらを踏まえ、安全性という観点から捉えれば、浜岡原子力発電所の原子炉停止は英断であったと高く評価したい。あろうことか活断層に建設してしまった他の原子力施設(柏崎刈羽原発、敦賀原発、もんじゅ、美浜原発など)についても、是非検討して頂きたいものである。

国や電力会社が原発誘致のために如何に安全であるかのみ地元にPRしてきた結果、それを鵜呑みにした、あるいは信じざるを得ない状況にあった住民らが、今窮地に追い込まれている。しかも、賛成しようがしまいが、ひとたび受け入れてしまった人々にとっては原発こそが生きる糧であり、今さら後悔しても反対のしようもないのである。このような過酷な現実がメディアで報道されてしまった以上、今後日本で原発が新設されることは二度とないであろう。残る大きな課題は、事故の後始末と核廃棄物の処理問題、既存原発の行く末である。原発推進政策は終焉を迎えつつある。

 

再生可能エネルギー77%を目指して

しかしながら、原発に替わるエネルギーが見つからないと困るのは私達自身である。コトは家庭で節電をすれば何とかなるというレベルの問題ではない。日本の産業の基盤が大きく揺らいでいる。

天然ガス(LNG/メタンハイドレート)は現状では石油と同じく輸入に頼らざるを得ないし、火力発電のためCO2の排出量が多い。地熱では設置場所と安全性が問題視される。風力発電や太陽光発電は再生可能なものの常時供給することが困難であり、適した立地条件もある。各々についての解説は専門家に任せるとして、どのエネルギーも一長一短あることだけは確かだ。

欠点を克服した次世代型の機器や新技術なども開発されつつあるが、日本で実用段階に至るまでには巨額の投資と時間が必要だろう。例えば、フロート式洋上風力発電の構想、効率が良く安価な次世代ソーラー発電、地熱発電のために温水を利用する穿孔技術、熱を電気に直接変換できる材料の研究などなど…。

要は一つのエネルギーに頼らないことが肝要だ。原発のように依存度が高いと、使えなくなったときに痛い目に遭う。同時に、ガス・灯油・アルコール・バイオマスなどを原料としたコージェネレーション(熱電併給)の普及も視野に入れたい。現に、六本木ヒルズでは都市ガスによる大規模コージェネレーションシステムを採用しており、3月18日から4月30日まで余剰電力を東電に供給していたというから驚きだ。都市ガスがダメな場合でも灯油を使用できるという。

中長期的には、東西グリッドで電力を融通するために周波数変換所を建設することも必要になってくる。また、作り出した電力を有効に活用できるシステムを構築することが求められている。スマートグリッドは次世代送電網のことだが、さらに効率的に電力をコントロールできるようなシステムの開発を切望する。

9日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、太陽光や風・水力などを使った再生可能エネルギー発電は、各国で正しい政策が取られれば、2050年までに世界のエネルギー需要の77%をまかなうことが可能だとする報告書を発表した。今まで原子力エネルギー政策1本に舵を切ってきた日本がこの波に乗れるかはどうかは正直言って分からない。しかし、原発を使い続けてその電力に頼り、他の選択肢については問題点のみをあげつらい反対してばかりいたのでは、お先真っ暗だと断言できよう。

 

このたびの巨大地震発生、津波襲来、原子炉水蒸気爆発といった一連の大惨事を「原発の終わりの始まり」としなければ、さらなる悲劇が生まれる可能性がある。短命な政権であっても短期的な政策に終始せず、明るい未来を描けるような長期的な政策を是非打ち立ててもらいたいものだ。



記者会見を視聴して

管首相は記者会見で、原子力事故と原子力政策について次のように語った。

福島原発事故の検証のために原子力事故調査委員会を発足する。その際は三つの原則を守る。
1. 従来の原子力行政からの独立性。
2. 国民や国際社会に対する公開性。
3. 技術だけでなく制度や組織のあり方をも考慮する包括性。

今後のエネルギー政策については、以下の点を見直していく。
1. 原子力については何よりも安全性を確保する。
2. 火力と原子力に加えて、太陽、風力、バイオマスといった再生可能な自然エネルギーを基幹エネルギーに加える。
3. 工夫や社会のあり方によって省エネ社会を作る。

他の原発に停止や再稼働を求めるつもりなのかという記者の質問に対し、「浜岡については、文科省の地震調査研究推進本部の評価で、30年以内にマグニチュード8程度の大きな地震が起こる可能性が87%とされているのが理由である。他の原発については浜岡のような逼迫した状況は報告されていない」と述べた。

原発への依存を減らしていくのかという質問に対しては、「エネルギー基本計画はいったん白紙に戻して議論する必要がある。原子力についてはいっそうの安全性を確保する、もう一方で、自然エネルギー・再生エネルギーをより大きな力で推進するという方向性を念頭におきながら議論を進めていきたい」と語った。

現段階で立てるべき計画としては必要最低限の要件を満たしていると思うが、まだ進むべき方向性を示したに過ぎず、具体的な行動を待たなければ評価はしがたい。また、原子力事故調査委員会は独立してはいるが、隠蔽体質で現場を知らないトップが率いる東電の処遇や、名ばかりの原子力安全委員会・保安院といった原子力行政の組織やシステムについての見直しは検討されていない。むろん、利権ズブズブの政治家など排除できるわけもなく。

脱原発に言及しなかったことは注目に値する。「原子力事故調査委員会では、今回の東電福島原発の事故原因とその背景について徹底的に調査するに留まる。報告が出た中で、それを踏まえての議論は必要になる」と語ったことから分かるように、原発が必要か否かまでの踏み込んだ議論をすることを先延ばしにした。他の活断層にある原発についても、安全性を確保することで停止せずに乗り切るという姿勢である。

事故の原因が究明され原発の安全性がいくら高まろうとも、万が一の事態にはそのクリーンさは微塵に吹っ飛び、近隣の住民から土地を奪い、放射性物質が農林水産業に壊滅的な打撃を与え、国際社会での信用は失墜し、経済が混乱に陥るということが今回の事故で明らかになった。それでもなお、活断層にある原発を段階的にでも止めていくことは不可能なのだろうか。

皆さんに問うてみたい。
大切な家族や友人を守り、人間らしい豊かで安全な暮らしを送るために、近代的で便利な生活を切り捨てる覚悟はあるのかと。

 

ITmedia NEWS 2011/05/09
余剰電力を東電に供給した六本木ヒルズの自家発電システム

ロイター 2011/05/10
再生可能エネルギー、40年後に総電力の最大77%に=国連

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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