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「iPhoneで同人誌」がキャズムを超えるとき

2008/08/22 01:11
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プロフィール

寺本由美子

本名とタイトルのペンネームが異なっているのはご愛敬(話せば長~い物語あり)。IT系の話題からゲームのレビューまで、自由気ままに発信します。iPadやiPhoneなど、大好きな電脳小物についても熱く語りたいですね。Twitterにも出没中。ブログへのコメントも、@kirifue へどうぞ。
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これぞ日本のポップカルチャーとばかり、AppStoreに颯爽と登場した同人漫画『薬局のポチ山さん』。価格はなんと600円。AppStoreで売られている他の漫画や書籍に比べてもかなり高い。どうしたものかと思い悩んだ末、結局購入した。記念すべき同人漫画第一号として、ここはどうしても目を通さずにはいられない気持ちに至ったからである。その理由は後で述べるとして、まずはこの漫画がどのような経緯でAppStoreに並べられることになったかを簡単に説明したい(すでにご存知の方は読み飛ばしてください)。

同人誌がAppStoreに並べられたワケ

その陰の立役者は、ユビキタスエンターテインメントの代表取締役社長兼CEOの清水亮氏である。
自身のブログ「アメリカで同人誌を売るということ」で、次のように経緯を説明している。

「iPhoneでマンガを読むと面白い」ということを最初に教えてくれたのは誰あろう増井俊之さんだった。
彼がiPhotoでマンガを取り込み、自分のiPhoneでみせてくれたのだ。「ほら、こんなに見やすいでしょ」と。
全てはそれが発端だった。
コミックビューアなんか誰でも作れるし、誰でも作るだろう。
そういうなかで、僕らが目指したのは「紙っぽさ」だった。

ホテルに戻る頃には、既にプロトタイプは完成していた。
これにどんなコンテンツを載せるべきか。
もちろんオリジナルのものを載せられると良かったのだが、それでは時間がかかってしまう。
そこで懇意にしていただいているイラストレーターの安倍吉俊さんにホテルから電話をかけて、過去の同人作品を電子出版させて貰えないか、という話を持ちかけたのだ。

彼らには同人誌であろうが商業誌であろうが関係ないのだ。
しかし逆にいえば、だからこそチャンスであると言える。
日本で全く無名のマンガを海外で再チャレンジさせる大きなチャンスだ。
世界にはいろいろな価値観を持っている人が居るから、日本ではニッチでも海外で大化けする可能性もある。
たとえ大化けしなくても、日本語人口と英語人口は10倍違う。ハズレたとしても10倍のチャンスがあるのだ。
北米向けマンガ出版事業というのは、もしかしたらとても面白いビジネスかもしれない。

こんな柔軟な発想で生まれたというコミックビューア、ぜひとも読みたくなってくるではないか。

AppStoreがコンテンツ発信の牙城となる日

さて、購入動機であるが、主に以下の4点に興味があったから。

 紙の良さを生かしたビューア
 誰でもコンテンツの発信が可能となる
 AppStoreには国境が無いという事実
 Amazonの「Kindle」を超えるか

まずはコンテンツに触れてみないとお話にならない。その上で、あらためて考え直してみた。

  1. 紙の良さを生かしたビューア

    Ubiquitous Entertainment Inc.のビューア

    一からビューアを開発しようとすると手間がかかるが、実際はたいして難しい技術ではない。肝心なのは操作性だと思う。iPhoneならではの使いやすさを追求するべきである。この点UEI(株式会社ユビキタスエンターテインメント)のビューアは、必要最低限の機能ながら操作しやすい。紙ベースの漫画をなるべく加工せずに載せることに重きを置き、文字が見づらいという欠点を補うべくピンチで拡大表示できるようにしている。まあ、それでも100点とまではいかない。解像度が低い文字は、拡大しても読みにくいからだ。

    何故このような仕様になったのかと考えると、つまり既存の同人誌の再発信という点を重んじたからだ。すでに流通したコンテンツを、なるべく手をかけずにiPhoneというメディアに載せる。これは他の会社でもやっていることで、実績あるコンテンツを再販する手段としてAppStoreを利用しているわけである。

    では、他社のビューアはどうか。

    SONORAN BLUE(株式会社セルシス)のビューア

    一画面毎にスクロールやバイブレーションなどの演出がなされている。携帯電話で実績のあるビューアをiPhoneに移植したようだ。これ程手の込んだコンテンツをコミックから起こすとなると、かなりの労力と時間が掛かるだろう。もとより、流用できるものは流用するという方針は当然である。

    『ゴルゴ13』や『ケロロ軍曹』などを読むと分かるが、紙のコミックとはもはや別物である気がする。スクロールなどの動きのある画面はリズミカルとさえ感じられ、これはこれで結構楽しい。

    ケータイ向けという制約上、縦画面へのコマの切り出しはやむを得ない面もあるだろう(横画面にも切り換え可)。しかしながら、紙という媒体に描かれた漫画の良さを台無しにすることもあるように思う。コマ割りされた静的な漫画の持つ「間」や「全体のバランス」といったものが失われてしまうからだ。そのあたりは自覚しているのか、アプリの分類が「電子書籍」ではなく「エンターテインメント」となっているのが興味深い(当初は「電子書籍」という分類が無かっただけかもしれないが)。

    Bbmf(株式会社ビービーエムエフ)のビューア

    Bbmfのビューアはまさに紙芝居である。一コマを横画面に収まるように切り出している(縦にも切り換え可)。アプリ的には、可もなく不可もなくといったところ。こちらもケータイビューアの移植なのだろうか(ケータイアプリにはあまり詳しくないが、横画面ベースだから違うかもしれない)。

    『新ナニワ金融道』『吉祥寺モホ面』といった異色の作品をアップしているのは面白い。ただ頂けないのは、いくら無料とは言え、最後のページで「つづきは単行本でお楽しみください」といういきなりの打ち切り。宣伝だったら最初からそう書けよと言いたくもなる。これは、アプリの善し悪し以前の問題である。

    Voyager Japan,Inc.(株式会社ボイジャー)のビューア

    『アリス∞ワンダーランド』を読んでみた。電子書籍の老舗であるVOYAGERのビューアである「T-Time」は至れり尽くせりで、完成度は最も高い。1ページを丸ごと載せる方式だが横画面にも対応しており、ダブルタップによる拡大機能はピンチを使用したものより使い勝手が良いと感じた。ただし、こちらは拡大率は固定である。商業誌の電子版なので活字の判読性が高く、任意倍率にする必要性が無かったのだろう。

    同人誌のためのビューアとは

    まだコミックのビューアは数少ないがこうして比べてみると、UEIのビューアはページめくりを含めて漫画の命である紙の良さを活かしたところに好感が持てる。まさに「同人誌のためのビューア」と呼ぶにふさわしい。

    だが、これで満足してしまうような清水氏ではない(と思う)。「オリジナルの作品」においては、また違った操作方法や機能性を持つビューアを披露してくれるのでは、と秘かに期待しているのである。

  2. 誰でもコンテンツの発信が可能となる

    既存のコンテンツという資産を活かすことは重要であるが、今後のことにも言及したい。

    同人誌は1冊500円〜1500円ほどが相場である。ファンに販売済みの同人誌の場合は、iPhoneでの価格が高く設定されるのも仕方が無いだろう。AppStoreの『薬局のポチ山さん』のアプリケーションの説明ページには、話数や総ページ数も明記されており、納得した上で購入するわけだから問題はないはず。

    しかし過去に発表された個々の作品はともかく、同人作家はAppStoreデビューを果たした時点で同人卒業ということも十分あり得る。成功すればプロの道が拓けるどころか、国際的にメジャーなアーティストに化ける可能性だってある。AppStoreで一体どのくらいのアクセスがあるのか分からないが、少なくとも万単位の人々の目にはさらされているわけだから。

    もっとも「同人」というのは、サークル活動や流通方式だけを表した分類ではない。プロなのに同人活動をされている先生方がおられるのは「出版」という枠組みに囚われたくないという思想や、「表現の自由」を追求したいという姿勢が根底にあるように思える(『薬局のポチ山さん』を描かれた安倍吉俊先生もまたしかり)。サブカル的な観点から捉えると、この言葉と精神は不滅。つまり、日本の出版社からは売り出さずに、AppStore上で「同人作家」として有名になるという路線もアリかと。ニコ動職人のように、iPhone専門の同人作家が生まれてくるのも時間の問題だ。

    出版・流通から見た場合はどうか。これからは既存のコンテンツの流用だけではなく、iPhoneで販売することを考慮に入れた作品が制作されるかもしれない。むしろiPhoneが先で、成功したら出版というような流れも考えられる。この場合は、価格設定も当然安くせざるを得ないだろう(無料も含む)。

    では、誰でもAppStoreから漫画や小説といったコンテンツを発信できるようになるのだろうか。それは困難な道のりかもしれないが可能ではある。

    例えば自分でビューワーを開発して単独のコンテンツとして申請する方法。うまく行けば審査を通るかもしれない。無名のクリエーターなら初回は無料とするべきである。ただし、後が続かなければ「一発芸」で終わってしまうだろう。しかも、この方法は黎明期である現在なら通用するかもしれないが、将来的には大量に発表される優良なコンテンツに埋没してしまいそうだ。

    一方、広く作品を売りたいプロや、まずは多くの人に作品を見てもらいたいというアマチュアを対象として、ビューアやツールを提供したり、翻訳までも手がけるようなサービスも生まれてくるだろう。そんな状況をAppleが歓迎するかどうかは分からないが、コンテンツが充実すれば市場も発展する(音楽ならインディーズという実績がある)。清水氏も「我こそはという創作系同人マンガを書いている人を募集して、海外デビューを支援するビジネスも面白いかもしれない」とおっしゃっている。

    結局のところ、ケータイ小説やブログと同じように万人が良いと判断するか、あるいは、マニア受けするかどうかで淘汰されるようになる。有料であればなおさらだ。それは避けることのできないコンテンツの宿命ではあるが、窓口が世界に向かって開かれたというところにAppStoreの真価があるのだと思う。

  3. AppStoreには国境が無いという事実

    もちろん、言語の壁は依然として存在する。小説やエッセイを多国語展開するのは相当な労力を要する。自分でコツコツ訳すならともかく、有名作品でないと対応はまず無理だ。

    漫画の場合は絵が中心となるため状況は異なる。それでも、セリフやト書きが母国語で書かれてないと内容を理解するのは難しく、ほとんどの人はそもそも購入しようという気にもならないだろう。しかし、多言語化は後付けでも対応できる。マーケッティング戦略面から考えると、最初から英語と日本語に対応する方が望ましいのは言うまでもないが。

    清水氏も述べられている通り、AppStoreでコンテンツを配信するメリットは、世界共通の基盤の上にすぐさまコンテンツを載せることができる点である。国やキャリアや機種ごとの規制が無い。国際社会に打って出ようとする者にとって、この環境は天国であろう。ビジネスチャンスはまさにこのAppStoreにある。もはや自分の居場所に囚われる必要は無いのだ。これはコンテンツに限らずアプリも同様である。

  4. Amazonの「Kindle」を超えるか

    現在のAppStoreは「電子書籍」と他の「ジャンル」が同系列に並んでいるが、これには無理があると思う。「電子書籍」の申請数は今後爆発的に増えると予想する。しかし現段階ではカテゴライズはされておらず、読みたいものを探すような機能も無い(ウィンドウ上部で「iTunes Store を検索」することはできるが)。せめてジャンル分けは必須だろう。

    さらに近い将来、「電子書籍」はAppStoreからは独立したサービスに昇格すべきである。それはAmazonの「Kindle」と同等の、あるいはそれ以上の、「iPhone」や「iPod」を利用した電子書籍サービスとして発展する可能性があると思う(私の偏見では、出版の流通形態を根底から覆す可能性があるのはAppleか任天堂、AmazonかGoogleくらいなものだ)。

    その場合、ビューアに何が採用されるのかが問題となる。既存のビューアを許容するのか、Appleが開発したビューアを採用するのか。全く新しいサービスとしてスタートするなら後者だろう。しかし、既存コンテンツを含めた多様なコンテンツに対応するつもりなら前者とすべきである。個々のビューアの利点を最大限に活かすために、前者であってほしいという気持ちもある。でもまあAppleなら、もっと革新的なシステムを構築できるかもしれない。

などなど…。コンテンツ発信に限らず、私の「iPhone未来予想図」はアカルイものばかりだ。

たとえチップに少々難があったとしても、それが何だと言うのだ(困るけど)。それは時間が解決する問題である。iPhone 3G/iPodとiTunes Store、その間を仲介して管理するiTunes。三者で構成された確固たるシステムがあればこそ、iPhoneは他の追随を許さないモバイルガジェット足りえるのだ。画面がタップできれば一緒だろというものでは断じてない。

私の中でiPhoneはもはや欠かせないツール、いやそれ以上のモノとなってしまった。だからこそ、さらに便利で役立つアプリや充実したコンテンツの登場を期待するのである。それは喉の渇きにも似た、しごく純粋で自然な欲求に過ぎないのだから。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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