(前回「警察におけるメディアミックスの展開(2)-標語からYouTubeへ」の話はこちら)
警察庁がハリウッド映画とタイアップ
皆さんは映画『ダイ・ハード4.0(音が出ます)』、もうご覧になっただろうか(もちろん、筆者は一人で観に行った)。ジョン・マクレーン健在なり。全くのアナログ人間にもかかわらず、ご老体にムチ打って、果敢にサイバー犯罪に立ち向かっている。
警察庁がサイバー犯罪対策のために作成したポスターである。しかしながら、一般のポスターやパンフレットと同じ写真を使用しているため、一見しただけではサイバー犯罪防止のポスターだと気づきにくい。下に小さく「警察庁」とあるので、「あれ?」と思う程度かもしれない(まあ、ファンにとっては、垂涎モノのポスターには違いないのではあるが)。
8月末まで、全国の警察署や交番、インターネットカフェや学校に掲示されているとのこと。さすがに交番で見かけると、「何でこんなところに『ダイ・ハード』が?」と驚く。
実は、映画とタイアップした警察広告は以前にもあった。 2006年9月に公開されたアメリカ映画『マイアミ・バイス』である。マイアミ警察特捜課(バイス)に所属し、麻薬潜入捜査を行うソニー(コリン・ファレル)とリコ(ジェイミー・フォックス)の2人の刑事の活躍を描いたもの。
薬物・銃器撲滅キャンペーンポスターでは、この2人が「NO! GUNS」「NO! DRUGS」というキャッチフレーズを広める役目を担っている。実際、そのポスターを目にしたわけではないのではっきりしたことは言えないが、ド派手なアクションがウリのイケメンコンビのポスターは、さぞインパクトがあったろうと想像する。
どちらのポスターも話題性を狙ったのだろう。特に、現代のようなインターネット社会においては、口コミの効果はばかにならない。直接訴えるというよりは、その波及効果に期待したい。
警察庁のサイバーテロ対策
さて、『ダイ・ハード4.0』では、マクレーンの敵は天才的なクラッカーだった。これは映画の中の出来事なのだが、現実でも似たような犯罪が起きつつある。いわゆるサイバー攻撃とかサイバーテロと呼ばれる犯罪だ。ちょっと本題から外れるが、警察庁のサイバーテロ対策について紹介したい。
警察庁とて、増加するサイバー犯罪をただ手をこまねいて見ているわけではない。警察庁情報通信局による「警察の情報通信」のページから、サイバー犯罪への対策を抜き出してみよう。
7.サイバー犯罪への技術的な対応
犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術及びその手法、すなわちデジタルフォレンジックの確立に向けた取組みを推進している。
警察庁技術センターを開設。重度に破壊された電磁的記録媒体からの情報の読取りや暗号化されたファイルの解析、コンピュータウイルスの解析等を行う。
8.サイバーテロ対策
警察庁及び各管区警察局等に設置されたサイバーフォース(機動的技術部隊)では、都道府県警察等と連携し、被害の未然防止に向けた重要インフラ等への個別訪問、情報セキュリティセミナーの開催等の取組み及び事案発生時の被害拡大防止のための緊急対処活動を行う。
9.サイバー犯罪・サイバーテロ対策における国際連携
警察庁では、G8やICPO等のサイバー犯罪及びサイバーテロ対策の国際的な検討の枠組みに積極的に参画し、特に相互の連携の基盤となる技術的な共通認識の醸成に努めている。
一般の方に呼びかけるサイトとしては「警察庁 サイバー犯罪対策」のページがあり、最新のサイバー犯罪の予防策が紹介されている。また、このサイトには「インターネット安全・安心相談」のページがある。「相談窓口」と「情報受付窓口」窓口が設けられており、過去の「事例検索」を行うこともできる。
これとは別に「警察庁セキュリティポータルサイト@police」もある。これは個々の犯罪に対応するページではなく、サイバー犯罪全般の情報を提供することが目的のポータルサイトである。
「@police」には「サイバーフォースの紹介」ページがある。「サイバーフォース」という名称自体がいかにも最先端でカッコイイのだが、その実態は以下の通り。
「サイバーフォース」とは、常に発生の危険性があるサイバーテロ等に直接対処するとともに、事案対処活動の支援を行うため全国に配置された、情報セキュリティに関する機動的技術部隊の総称です。
全国9ヶ所に「サイバーフォースセンター」が設置され、インターネットの治安情勢を24時間体制で監視しているという。また、サイバーフォース用訓練システムによって、実際のサイバー攻撃を想定した実戦的訓練が行われているらしい。
実は、警察庁はMicrosoftとも技術協力協定を締結しており、セキュリティ情報や技術情報の提供を受けている。もはや、民間企業や研究機関・大学などの協力がなければ、サイバーテロ対策は成立しないと言っても過言ではないだろう。
まとめ
一つには、警察庁による革新的なキャンペーンについて述べた。話題性の高い映画とのタイアップはかなり効果的だと思う。映画では、対象となる犯罪を取り締まる側、つまり警察サイドの活躍を描いているのが特徴だ。まさか、実際の犯罪捜査が映画並みだとは誰も思わないだろうが、そんなことは関係ない。ただ、警察は積極的にこういった取り組みをしている、という方向性を示すことが重要なのだ。
とは言え、単純な脳みそを持つ筆者は、ポスターを見ただけで、かなり刷り込まれてしまった感じがする。サイバー攻撃に立ち向かわなければと考えたり、セキュリティを固めるにはどうしたらいいかなどと悩んだり。一時的にせよ、関心がそっちの方に向いている。これからも、年に一回くらいは、キャンペーンをしてもいいんじゃないだろうか。
『ダイ・ハード4.0』の公式サイトには、警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課の方のコメントが載っている。
「今回のタイアップポスターを通じ、全国の皆さんにサイバー犯罪が身近な脅威であることを感じてもらい、情報セキュリティ対策への関心を高めるきっかけとなってほしい」
もう一つのテーマ、警察のサイバー犯罪への取り組みと、その広報活動について。筆者がサイバーフォースという組織の存在を知り得たのは、警察庁のサイトを見たのがきっかけ。もちろん、他のメディアでも報道されることもあるだろうが、それは一過性の情報だ。サイバー犯罪対策に限らず、継続的な警察広報メディアとしてインターネットの重要性は増す一方だ。
そういう視点で警察庁のサイトを見てみると、ページの作り込みはなかりのレベルにまで達している。おそらく既知の脆弱性はほとんどないだろうと思う。必要とされる情報を高い精度と信頼性で提供することに成功している。ただ、双方向のコミュニケーションについては、実際に試したわけではないので、どの程度のもの(返答の速度や応対等)なのか分からない。架空の相談をするわけにはいかないので、仕方ないのだが。
警察庁のサイトや「警察庁 サイバー犯罪対策」のページが静的・受動的なのに比べて、「@police」のサイトはインターネットセキュリティのポータルを目指しているためか、より積極的なアプローチが随所に見られる。例えば、利用する人によって、「キッズ!」「パソコンユーザ」「システム/ネットワーク管理者」向けのページを用意している。また、目的別に「学ぶ」「知る」「参加する」といった入り口も設けている。メルマガもあるようだ。
しかし、外部に向けてどんなに素晴らしいセキュリティ対策を訴えても、「警視庁の情報1万件が流出…巡査長PCウィニー感染で」なんて事件が起こると、今までの努力が水の泡となってしまい..
J-CASTニュース 2007/06/27
警察庁、「ダイ・ハード」ポスターでPR
YOMIURI ONLINE 2007/06/13
警視庁の情報1万件が流出…巡査長PCウィニー感染で
連載『警察におけるメディアミックスの展開』
警察におけるメディアミックスの展開(1)-テレビで演出される正義『踊る!大警察』
警察におけるメディアミックスの展開(2)-標語からYouTubeへ
警察におけるメディアミックスの展開(3)-警察庁サイバーフォースは『ダイ・ハード4.0』並み?
警察におけるメディアミックスの展開(4)-GyaOで情報提供を呼びかける『世田谷一家殺人事件』