お知らせです。
IDGの月刊誌「ComputerWorld」で10月号から新連載を始めることになりました。
「紙のブログ」というコンセプトで、スローメディアとしての雑誌ならではのじっくり考えさせる記事づくりをしたいという編集長の河原さんの思いに共鳴して、渡米後の大変な時期とかぶるのを承知で引き受けることにしたのでした。
看板名はズバリ『IT哲学』です。内容も、名称に恥じないものを目指します。
月刊で、字数制限が厳密かつ少ないので、このブログのスタイルとは違った漬け物のような味わいが出るかなと期待しています。(というか、正直言うと、コンパクトな文章に起承転結を埋め込むいい特訓になってます:笑)
ちなみにお隣の紙ブロガーは元ガートナーのVPで最近独立された栗原潔さんです。いわゆるIT業界アナリストと呼ばれる脱力系のスーツ職業の中にあって、無比の技術的な知見でもって安心感のある記事をいつも書かれていた方なので、個人的にファンだったりします。
ところでComputerWorldといえば、2004年12月号に「うっかり『これからはSOAだ』なんて無責任なこと言っちゃってエンタープライズITをなめとんのかね君たちは」という全10ページにもわたる巻頭特集を書かせて頂いたのが最初のご縁だったことからも推測できるように、技術紹介や解説をするという段階に留まることなく、本質を問い批判も辞さないというステージで勝負をしている雑誌です。
以前に「ComputerWorldって、年配の方というより、次世代のITマネージャ、10年後にCIOになるような若い人が、いま読む雑誌ですよね」という話を河原さんにしたときに、「まさにその通りなんですよ!」と同意されたのがすべてを象徴しているように思います。
ただ、この業界の媒体はどうしても広告主と記事の対象がいつも近すぎるので、一般的なメディアに比べると批判的なスタイルをとりつづけるのは逆風が強いだろうと思います。しかし我々はデモクラシーというパラダイムに生きる市民なのですから、そういうスタイルの切り口は読者からは必要とされているはずです。私がブログを書くモチベーションも、世の中にあふれている通説の欺瞞をあばく(たとえそれが私自身の無知や誤解を露呈してしまうだけに終わるリスクがあるとしても)という志向性にあるわけで。
実は『IT哲学』の最初の記事にもほのめかしたことですが、情報技術というものがほんとうに成熟したのなら、薄気味の悪いITサプライヤの提灯持ちみたいな記事や、役に立つとか便利だとかそういうことばかりではなくて、美しいとか醜いとか、好きだとか嫌いだとか、もっと主観的で豊かな表現で彩られた、いわゆるクリティーク(批評的な言説空間)があってもよいのではないか、という意識はずっとあったわけです。
かつては熱心なMacユーザの端くれとして、あるいは判官びいきな技術オタクとして「良い技術が生き残るとは限らないなんて、世の中は矛盾している」なんてなまっちろい義憤を感じたりもしていたわけですが、今では「技術がユーザーの中でどう解釈され日常の一部として受け入れられていくかという問題は、運の問題として片づけるようなつまらない話ではなく、広大な経験と知識によってのみ物語性と合理性のつじつまを合わせることのできる、生涯をかけて取り組む価値のある偉大な仕事だ」と感じています。あえてマーケティングというつまらない職掌ラベルを使わずに表現すると、今の私の心的モードはそのような感じです。
そんな30歳の夏、今日も仕事は忙しい。
♪ Swing Out Sisters / Breakout