(前回のつづき)
■「はてなグループ」をチョイスしたわけ
さて、今回「はてなグループ」を採用することで、以下のメリットを享受することができました。
- 「お試し」が簡単にできる
- 社外からでもアクセスできる
- はてなアカウントによるクッキー認証が使える
- ポータルページを簡単かつ自由にカスタマイズできる
- 更新情報をポータルページに表示するモジュールがある
- 「買う」より「借りる」の条件を満足する
- 有償サービスで完全プライベートに運用できる
- 将来性がありサービスが自動的にアップグレードされていく
- 安い
- オーナーが自身のブログをセルフサービスで簡単にカスタマイズでき、感情移入しやすい
このように、前回社内ブログ導入記(2)に書いた条件を満足しつつ、カスタマイズ性というオマケもついてきたのでした。(実は、機能レベルではかなりの部分までGREEなどのSNSでカバーできるというヒントも添えておきます)
中でも、(1)の「お試しが簡単にできる」というのは非常によかった点です。実際、うまくいくかどうかわからないシステムに投資(労力&お金)をするのは勇気がいりますが、はてなグループの場合は完全プライベートに移行する前段階としてフリー版で半プライベート(ポータルページだけはパブリック)でお試しができたので、労力フリー、お金もフリーで非常に気軽にテストドライブをしてみることができました。(結果的には3営業日ほどで早急に本番モードへ移行することになったのですが)
はてなグループを使うと決めてしまえば、あとは簡単でした。ポータルページを作ったり、もろもろのポリシーを決めたり、ユーザ自身ではてなアカウントを取得してもらう方法を提示したり、見た目を調整したりといった部分に約1日かけて準備完了。あとは皆が日記を書き始めるだけ、というお膳立てのできあがりです。
社内ブログ導入の検討から構築までのスピードについては、はてなグループは間違いなく現在ナンバー1でしょう。
■モデレータの知られざる孤独な戦い
さて、ここまでを読むと万事順調に始まったかのように思われるノンスモーキングルームですが、もちろん、その裏には膨大な下準備があります。
それでもやはり、テストドライブの開始前には「本当にみんな使ってくれるだろうか、空騒ぎにならないだろうか」という不安はありました。
幸いにして経営者の平野(社長)、田中(副社長)は社内ブログに理解があったので、少なくとも上層部には書いてもらう約束をとりつけていたのですが、社員がついてくるかどうかは未知数でした。
だからといって、絶対に書いてくれそうな一部の人間だけをモデレータがピックアップして運用をはじめると、ピックアップされなかった人たちは差別感や疎外感を敏感に感じ取ります。シャイな人たちは「自分は疎外されている」と少しでも感じると、「場違い感」を過剰に恐れるようになってしまい、のびのびと書けなくなってしまいます。
なので、テストドライブの開始にあたっては「全社員にあててフェアに一斉告知」することと、「すでに盛り上がってるみたいだから参加しなくちゃ感」の演出のバランスに腐心しました。もうこのあたりは完璧に心理戦です。とにかく、トップダウンに「書け」という命令口調の窮屈な始め方だけは避けたかったのです。うまくいかない典型パターンですし。
そして、モデレータである私自身は初速をつけるために必死に動いて、キーになりそうなメンバーを一人一人直接勧誘してまわったり、他人のブログにコメントをつけてまわったりしたのは言うまでもありません。営業活動と同じで、このあたりのマメなケアはとても重要なのです。
このストーリーを読んで、すごくリアリティをもって共感してくれる人もいれば、何でそこまでこだわるの、と感じられる方もいることでしょう。でも、こういうデリカシーと細やかな気配りこそが、社内ブログ導入の成否を分けると確信しています。
■外部のサービスを使うことのセキュリティ不安
一方で、最大のネックは社内の機密情報が書かれるであろうデータを第三者が運営するサーバに預けるということの不安感です。
これは実際、かなりのオープンマインドを持っていると自負している私でも、しばらく二の足を踏んだ点でもありました。社長の平野を説得するのにも、少し骨が折れました。
しかし、これこそが今回の決定の真骨頂です。「情報」というものは、それを必要とする人、欲しいと思う人が読み込んではじめて価値を持つものです。インフォテリアの機密なんて、それも自然文で書かれた非構造テキストを読むなんて、インフォテリアに対してよっぽど恨みがあるとか「特別な関心を持っている人」にしか割に合わない労力です。のぞき趣味のターゲットになるのはイヤでしょうけど、だからどうしたと。
セキュリティ犯罪の8割は内部的な犯行である、というのは、暗にそういうことを言っているのです。「特別な関心」というハードル(コスト)と「データの汎用性」という商品性(リターン)がクロスしたところに、個人情報流出などの事件があるのです。
たとえば極端な話、はてなの社員がブログをこっそり読んだからって、感情的にはともかく、別に会社が倒産したりはしないじゃないか。電子メールなんて、もっとプライバシーに踏み込んだ情報を扱っているけれど、誰もプロバイダーの社員がメールをこっそり読んでるなんて疑ってないじゃないか。プレーンテキストのメールが機密情報を運ぶ媒体として「信用」されているのは、実際にリスクが少ないからではなく、実績から判断してリスクの存在を忘れているだけなのだと。でも、それでいいじゃないか。
セキュリティを実現するアプローチには「性悪説(まず疑う)」と「性善説(まず信じる)」の2種類あるのですが、我々は内部の人間に対しては性善説を適用して最大限の自由を確保しました。情報の機密性を維持したければ、社員の監視を強化するのではなくて、社員を幸せにすればよいとの考え方です。うまくいってる夫婦と離婚後に暴露本まで出してしまう泥沼の夫婦との違いみたいなもんです。
情報の流出に戦々恐々とするかどうかは、経営者にとって肝試しみたいなものです。企業文化を犠牲にしてもガチガチの管理体制を敷いてプライバシーを優先するか、ちょっとぐらい裸を見られる事故があっても自由な風土を育むためリスクテイクするか。
セキュリティに関してはまだまだ思うところがあるので、改めて別の機会に論じたいと思います。
■ポリシーとFAQ
さて、ここで実際に規定したポリシーとFAQをいくつか羅列してみましょう。
(Q)話題の制限はどこまで?
(A)話題の制限は、ズバリ「なし」の方向で。業務利用、プライベート、小ネタ、何にでもご活用ください。(Q)コメント回答を期待する質問、または疑問をアップしてよいものか?
(A)まだ無理です。メールを併用してください。そのうちアテンションが集まってきたら、可能になるかも知れません。ていうか、なるといいね。(Q)社外秘のことは書いちゃダメでしょ?
(A)社外秘のことを書くのも恐れないというのが、運用上、重大なポイントです。万が一、情報が流出するような事故に遭遇しても、書いた本人への責任は一切なく、そういうリスクを承知の上でこういうポリシーを定義したモデレータである江島、および江島を任命した経営陣の責任である、という理解でお願いします。「何かあってからでは遅い」と言い出したらきりがないので、とにかく、内容が機密上NGかどうかという判断は個々人ではなくモデレータにまかせて、個々人はまず情報を「出す」ことに専念してください。
とくにこの最後の項目は、はてな社長の近藤さんにも「感動しましたよ」と言っていただいたほどの自信作です。
実際には、第三者とNDA(機密保持契約)を結んでいる事項については「なるべくイニシャルトークで」とか特別扱いにしたかったのですが、そんなことを意識し始めたら、マジメな人ほど何も書けなくなってしまいます。
というわけで、まずは完全手放しで運用してみて、みんなで空気を読みながらポリシーをブラッシュアップしていく、という方針にしたのでした。
■今後の課題
現在、本格的に運用をはじめてから約1ヶ月経ちます。
総じてうまくいっていますが、最近では毎日マメに書く人、自分ではエントリしないがコメントはつける人、読むだけの人などにわかれてきています。目立つところとしては、はてな以前のMT時代にはけっこう書いていた開発部のメンバーがあまり書かなくなってしまいました。
タバコ部屋効果は規模との相関があると常々思っていたのですが、現在の50人はけっこうギリギリかなぁという感触もあります。他にもまぁ細かい点では色々と気になる点はあるのですが、長い目で見ていきたいと思っています。
今は読むだけの人が「書き始めるタイミングを失った」とは思わないように、弾力的でフェアな「ゆるいムード」を維持するのが大切だと思っています。
はてなグループにも、もちろん不満がないわけではありません。
- Permalink単位ではなく日付単位でしかコメントを付けられない(痛恨!)
- 社内のファイルサーバにあるファイルを「\\Sever\」のようにUNC指定することができない
- 独特のはてな記法に若干の慣れが必要
- ヘルプが使いにくい
- クッキー認証なのでBloglinesやgoo RSSリーダーなどのRSSリーダーが使えない
- 決済手段がはてなポイントしかない(経理にとってはイレギュラー業務)
これらは、今後の改善に期待しています。
というわけで、全3回にわたってお届けした社内ブログ導入記、いかがでしたでしょうか。
ビジネスブログといえば、やっぱりインターネットを向いたパブリックな情報公開ツールという位置づけで捉えられることが多いのですが、むしろ社内のコミュニケーションツールとして使ってこそ面白いと実感しています。
社内ブログを検討している方やサービス開発者の方にとって何らかの参考になれば嬉しいです。
♪ Soulive / Whatever It Is