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インタンジブル・アセットのちから

2004/11/03 02:50
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本日(昨日)参加したカンファレンスの所感を。

日経コンピュータ主催の「テクノロジ・フロンティア:ITパラダイム〜グリッド、自律、SOA&Webサービスがビジネスの未来を変える〜」と題したカンファレンスである。

目玉は、MITスローンスクール教授であるエリック・ブリニョルフソン氏の基調講演である。何でも「IT投資と生産性の相関に関する研究」の成果が聴講できるとのことで、楽しみにしていた。

eBusiness at MIT

しかし、最近この手のカンファレンスで感じるのは、とにかくベンダーのセッションが軒並みつまらなくなったということ。ワクワクするようなメッセージもなければ会場を沸かせるようなユーモアもない。私が受講した午後のセッションのほとんどは、語り部本人がその内容を確信できておらず、念仏を唱えているようにしか聞こえなかった。一方、ユーザ企業やリサーチャーなど、より上流の視点から物事を見ている人の話には、地味ながらもハッとさせられるような気付きがある。「いつの時代もイノベーションの本命は下流から」が持論の自分としては、ちょっと残念なことだ。

さて、午前のセッションでは、冒頭でアマゾンジャパンの吉松さんからアマゾンWebサービスについての紹介があり、次にブリニョルフソン教授の「The Digital Organization - How IT Drives Productivity」というキーノートスピーチ、そしてサントリー情報システム事業部の木下氏からの講演と続いた。

吉松さんのトークは「インターネットはまだ『Day 1』」という、いつものジェフ・ベゾスCEOのメッセージを啓蒙するもので、これはこれで面白かったし(さてしかし、どれだけの人がアマゾンWebサービスをエンタープライズ・コンピューティングの文脈で消化できるだけの想像力を持っていたか心配ではある)、サントリーの事例もIT基盤整備におけるビジョンとミッション展開のハウツーを鮮やかに提示するものだった。けれども、やはり今回の本命は前述のブリニョルフソン教授の基調講演だろう。

■The Digital Organization 〜How IT Drives Productivity〜

大ざっぱに言って、氏の主張は、私がこのブログで再三にわたって表明してきた見解と本質的なレベルで通底しているように思われる。

まず冒頭に、生産性(Productivity)という指標がいかに重要かについて触れられる。アウトプットをインプットで割るだけという単純明快さから、産業革命以降の歴史的に見ても極めて重要な、「その時代」をシンボライズする定量指標でありながら、年率数パーセント程度しか進化しないために数年スパンでは実感値として語ることが難しいという、何ともじれったい魔法のことばである。

しかし、それでもやはり間違いなく長期トレンドとして生産性は向上している。かつ、奇しくも前回のエントリで述べたように、その時代の支配的な生産性水準を中心値としても、産業内格差(個々の企業における生産性の格差)は非常に大きいという。この決定因子としてIT投資の巧拙が含まれていることには疑いようがない。

その成否を分かつものの正体が「IT資本と組織資本の両方に投資しているかどうか」だというのである。

講演で挙げられていた典型的な例として、仮に20億円のERP導入プロジェクトがあるとすれば、その内訳はハードウェア(サーバとストレージ)が1億円、ソフトウェア(ERPのライセンス)が3億円、実装(プロセスリエンジ、ERPのコンフィグ、テストなど)が9億円、デプロイ(ユーザーの運用トレーニング)が7億円となるという(数字は大幅に丸めた)。もちろん導入後にはこれらと別に運用コストが年々かかってくる。

また、デルなどのケースを援用し、自発的な創意工夫を生み出す企業文化という無形資産に光をあて、シスコがDirector of Corporate Culture(企業文化担当役員)なるポストを置いていることにも触れる。

氏はこれを「氷山の一角」のアナロジーで解説し、ハードやソフトなどの目に見えるIT資産は全体の10%に過ぎず、残りの目に見えない90%が投じられる場所はビジネスプロセスを改革し続ける企業文化や社員研修、動機付け、目標の明確化などの「組織改革」への投資であるとした。

そして氏の主張の真骨頂は、「ITへの投資」と「組織改革への投資」は相補関係にあり、単に「バランスよく行う必要がある」という予定調和的な結論ではなく、「一方が一方のボトルネックになるから、バランスを間違えると投資対効果を根本的に減じる」という結論にある。言い換えれば、投資の90%を占める「組織改革への投資」の側面を徹底してハイライトすべし、ということである。このニュアンスの違いは重要である。

IT Assets vs Organizational Assets
from Brynjolfsson, Erik, Lorin M. Hitt, and Shinkyu Yang: Intangible Assets: Computers and Organizational Capital, Working Paper #138, 2002 pdf_icon1.png

ホワイトカラーの生産性向上という因果関係の掴みにくい難題に対して、競合他社より常に一歩先んじるポジションを維持しようと努力を重ねる企業だけに、利益を享受する権利がある。

こうして文字にしてしまえば当たり前のことも、真摯かつ豊かな表情で語られると、迫力が違う。言語化できなくとも、肌に染みこむ何かがある。オフラインのカンファレンスの魅力はそこにある。そういう意味で、有意義なセッションであったと思う。

インタンジブル・アセット―「IT投資と生産性」相関の原理
インタンジブル・アセット―「IT投資と生産性」相関の原理

Gong / Expresso

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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