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ベンダーに騙されないためにITを学ぶ

2004/05/15 01:51
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今日(正確にはもう昨日だが)、我が社の重要顧客である京都のK社のYさんが東京に来られていて、お話しする機会を得た。Yさんとじっくりお話しするのは何年ぶりだったか、ともかく大変なご無沙汰であった。

IT業界全般のことやインフォテリアに対する期待などについてお話をさせていただいたり、Yさんの自社ビジネスに対する考え方やビジョンなどを拝聴するうちに、感動のあまり居ても立ってもいられないような気持ちになった。

もちろん大切なお客様との会談の一部始終をこんなところで記すわけにはいかないが、この気持ちを少しだけでも皆さんにお伝えしてみようと思う。

■ITが真の価値をもたらすとき

私を瞠目させたYさんの言葉とは、まずこうだ。

The purpose of studying economics is not to acquire a set of ready-made answers to economic questions, but to learn how to avoid being deceived by economists. (経済学者にだまされないために経済学を学ぶ)

ケンブリッジ大学教授のJoan Robinsonの言葉である。そしてすかさず

The purpose of studying IT is to learn how to avoid being deceived by system integrators. (ベンダーにだまされないためにITを学ぶ)

とおっしゃったのだ。恐るべき洞察力である。

この部分だけを聞けばただのIT批判論者に思われるかも知れないが、とんでもない、YさんはITにとても造詣が深く、最先端のITを使って自社のビジネスを拡大することに成功した、変革の実践者である。言われたことを言われた通りにやるだけの、要領よく自分を守ることに長けた小狡いシステムベンダーを一喝し、あるいはそれなりのことは言うがインプリは知らんぷりで腹を括らない、これまた自分を守ることに長けた小狡いビジネスコンサルタントを一喝し、変革とは屁理屈ではなく実践であることを自ら体現している人物である。

こういう言葉を使われた裏には、テクニカルな詳細に振り回されずに本質を見抜いてやろうという、まるで科学者のような「誠実なる猜疑心」が見てとれるのである。

「俺についてこれるやつだけついてこい」というスタイルなのだから、率直な話、こういうお客さんは営業泣かせのいわゆる「うるさ方」である。ハウツー本に載っているような小手先の知識や提案はすべて裏目に出てしまう。こんな人だから、勝手な想像で恐縮だが、おそらく防衛的マインドの持ち主からは好かれず、陰で悪口を言う輩もいることだろう。

しかし、覚えておいて欲しい。真にITが明確な効果を達成できるシチュエーションというのは、こういう人がリーダーシップを発揮しているときだけなのだ。ITは今の業務を楽にするための小道具ではない。そういうしみったれたマインドで行われたシステム構築プロジェクトはだいたいモグラ叩きのようなソリューションで、ある側面では楽になったように思えるが、見えない別のところで手間が増えてしまうゼロサムの自己満足に終わるのが関の山だ。そうではなくて、自社のビジネスがどうあるべきかを考え、それを実現するためにルールを変え、ポリシーを変える。そして、その「こうあるべき」の骨太なポリシーをギプスのように強制施行するための仕組みとしてシステムを作るのだ。

他にもたくさん素晴らしいキーワードをいただいたが、最も心に残っているのはこれ。

キーワードは「ビジビリティ(Visibility)」。人は見られていると、キレイでいようとする。例えば、在庫がいつでも誰からでも見えるようになれば、現場に緊張感が生まれて在庫がだぶつかなくなる。だからITでビジネスを可視化するんです。

ショックだった。

ビジネスプロセスを可視化するとか、ビジネス状況を一元把握するとか、経営者に対する殺し文句としてIT業界のセールス現場では毎日のように言っていることだ。しかし、本質は「管理性の向上」などではなく「現場の意識の変革」だったのだ。「ビジネスの本質は心理学だ」などと知ったようなことを常々言っているくせに、こんな基本的なことに気付かなかった自分を恥ずかしく感じた。

■変革を持続する企業文化

K社というのは私の尊敬する有名創業者の経営哲学のもと、守るに値する豊かな企業文化を築き上げ、創業40数年で従業員数がグループで5万名を数えるまでになった世界の一流企業である。大きな身振り手振りでユーモアを交え、しかも舌鋒鋭く本質を語るYさんを見ていると、経営者の哲学がここまで社員のマインドに影響を与え続けられる企業というのは一体どうやったら実現できるのだろうかと、今の自分の周りの状況を鑑みて一瞬気が遠のきそうになるのである。

現代は、誠実さだとか真面目さだとか正義だとかいった「まっすぐ」な観念用語を大っぴらに口にすることを恥ずかしいと感じさせる風潮があり、押しつけがましい退廃的な自意識や曲がったり捻ったりした諧謔的な笑いこそが最高の感性であると錯覚させんとするニヒリズムが横行している。これはヨーロッパ的な保守性を有する先進文化ではありがちな傾向であるが、そういった流行や廃りに負けず「まっすぐ」な哲学を40年も貫けるチームの力を、私は美しいと思う。

今や私はすっかりYさんのファンである。こんなに身近なところにこんなにも素晴らしい思想家がいたことに今頃気付いたというのは、不覚の極みである。そして、我々のような会社と古くからお付き合いをいただいていることについては、ただただ巡り合わせの幸運に感謝するばかりである。

最後に、Yさんが好きだというヴィトゲンシュタインの言葉を。XMLというテクノロジーを評して。

The limits of my language mean the limits of my world. (私の言語の限界が私の世界の限界を意味する)

経済学者に騙されないための経済学入門
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Ruien / 討厭 (名盤!)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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