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サーバにイノベーションのジレンマは起きているか(5)

2003/11/10 23:01
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この連載の締めくくりとなる今回は、ケーススタディとしてインフォテリアの戦略を取り上げよう。既にご指摘いただいたように、内容が自社の宣伝になってしまってはこのBlogの読者のようなエッジな方々にはネガティブにしか写らないということは、おそらく筆者自身が誰よりもよく承知している。従って、ここではインフォテリアの商売そのものではなく、戦略のエッセンスの、それも深層心理的な面に限って述べる。その代わり、フルオープンで歯に衣着せないポリシーを貫こうと思う。

インフォテリアのポジション

インフォテリアは、1998年に日本初のXML専業ソフトウェア開発会社として設立されたベンチャー企業である。最初の2年は文字通りXML技術にフォーカスした製品群をリリースし、その後2年ほどかけてB2B/EAI/Webサービスというキーワードで象徴されるような分野にシフトしてきた。そして現在は、「ASTERIA」というプラットフォーム製品(これを正しく形容するカテゴリーは、まだ世の中に存在しない)を主力としている。このASTERIAこそが、まさに今回のテーマに沿った製品となる。(がっかりしないで欲しいのだが、以降でXMLという単語は一度も登場しない)

プログラミングをしないというパラダイム

ASTERIAという製品の性質は、ひとことで言えば「ノン・プログラミングでシステムを作る」というものである。言い換えれば、より抽象度の高い新しい言語とその開発環境・実行環境を体系化し、提供しているとも言える。

これまでに存在したC,Perl,Javaなどのプログラミング言語が、平たく言えばテキスト構文で命令・メソッドなどを記述していくものであったのに対して、ASTERIA Flowという言語は、マウスでアイコンを繋ぎ合わせていくことでプログラムを組み上げていく、グラフィカル・プログラミング言語とでも呼ぶべきものである。

この言語を貫いているポリシーは「手続き」ではなく「データ」に着目していることだ。何をトリガーにし、データをどこから取得し、どういう形式に加工し、どこへ送り込むか、といった思考順序に沿ってアイコンをつないでいくだけでシステムを作ってしまおうというアイデアである。

ここまでの説明を、多くの人は素直に受け入れられないだろうと思う。特に技術者ほど猜疑心が強いことは容易に想像がつく。だからこそ、ここではこれ以上の冗長な説明は行わない。興味があれば実物を見てもらうほかない。まずは話を続けよう。

ターゲットはプログラマーではない

約2年近く前、この製品のプランをディスカッションしているときに社内の開発者から「こんなものが必要とされるは思えない」という意見が出た。同じことをやるにも、今あるJavaなどのプログラミング言語で書いた方が(彼等にとっては)早いし確実だし、こんなオモチャみたいなものが流行るとは思えない、というのだ。このときのエンジニアたちの反発ぶりに、逆に「これはものすごいことになるぞ」と予感したことを今でも覚えている。(「イノベーションのジレンマ」の愛読者なら、破壊的イノベーションは常にその初期段階ではオモチャ呼ばわりされるということを思い出すだろう)

確かに、エキスパートと呼ぶに値する地位を築き上げたプログラマーたちは、このようなものを必要としないだろう。しかし製品のターゲットは、全エンジニア人口の1%に過ぎないスーパープログラマーではないのだ。わがままなユーザと柔軟性のない隷属的なプログラマーの間で板ばさみになっているフィールドエンジニアたち。全エンジニア人口の大多数を占めながら、いつも道具を持たず丸腰で、過去に貯蓄してきた技術知識とコミュニケーション力だけで勝負をしている彼等こそがターゲットだ。多くがかつてプログラマーだった彼等自身が、このツールを武器に再び実装まで踏み込むことで、ユーザの声をダイレクトにシステムに反映しスピードアップと品質保証を両立させる。ここには設計と開発のプロセスに区別はない。そんな新しい価値観と新しいワークスタイルを、フィールドエンジニアに提案するところがターゲットなのだ。

この意味するところは、「どういう機能をどういうバランスで実装すればよいか、いかなるスーパープログラマーでも(自身が使わないため)判断がつかない」ということである。従来のプログラミング言語は、全てがプログラマーの、プログラマーによる、プログラマーのための言語であった。これまでにも様々なバリエーションの言語が作られたが、どの一つとてプログラマー以外の人間が扱うことを想定したものはない。

この殻を打ち破ろうというのだ。その実現に求められるエネルギーたるや凄まじいものがある。だからこそ、破壊的イノベーションと呼ぶに相応しい。まさに、付加価値のないプログラマーを不要にしてしまうような、生産性が高くヒューマンフレンドリーな「何か」の創出の第一歩である。この方向性は、これまでこの連載で述べてきたように、供給過剰になった性能を消費しながら抽象度を高め、簡単なことを簡単にできるようにしたいというソフトウェア・イノベーションの潮流に強く呼応している。

この「ノン・プログラミング」というパラダイムへのシフトこそが、オープンシステムにとって最大級の折り返し地点になるであろうことを、インフォテリアでは最大の仮説として置いている。以下はその前提を念頭にして読み進めて欲しい。

海外ベンダーがコンセプト偏重に走るわけ

ASTERIAは、まだ正式名称がないソフトウェア・カテゴリーの製品ではあるが、当然ながらビジネスをしていく上では市場定義や競合などを意識することになる。いかに不本意な市場や競合であっても、これがなくては食っていけない。

現在、ASTERIAのポジションはEAI製品として比較の対象になることが多い。この分野では、全く異なる組織のもとで構築されてきたシステムを相互接続し、相互運用可能にするということが主たる課題となる。

当然、米国を中心とした目利きの海外ベンダーは真っ先にEAI市場に先鞭をつけ、競争をしてきた。これらのプレイヤー間で共通して特徴的なのは、年間で数千万円という高額なライセンスとコンサルティングのパッケージである。これらの特徴は何かを思い起こさせないだろうか?そう、高い粗利に依存したメインフレーム型の垂直統合ビジネスモデルである。彼らの製品はパッケージというよりも半製品のようなもので、ソフトウェアとしての一貫性が極めて乏しい。提案書だけはご立派だが、コンサルティングファームあがりの人たちがエンジニアを雇って無理矢理作らせたとしか思えないような、中途半端なアーキテクチャの製品がとても多い。

これまでにも述べたように、市場従属でフル・スタックに作られたアーキテクチャは、コンセプトが見目麗しく語られているが実装フェーズでは技術面の矛盾が山ほどでてくる。また、コンセプトを経営者に直接売り込めるということは、短い期間で大きな成功を手にする可能性がある反面、移り気な経営者の気分次第で「熱しやすく、冷めやすい」という側面も持つ諸刃の剣だ。さらに、熱しやすいマーケットは大手ベンダーに目をつけられやすい。大手ベンダーは、彼等の成長需要を満足できるような収益プランさえ描ければ、巨額の投資と最優秀な人材の投入により市場参入することが可能なのだ。これはベンチャーにとっては危険極まりない行為だ。

しかし、特に米国のベンチャー企業は、大手ベンダーに会社ごと売却するというイグジット・プランをひとつの大きな成功オプションとして考えている。ここでは、「熱しやすい市場で、熱いうちに大手ベンダーに売る」というプランが合理的であったりもするのだ。夢より、金。米国主導型のテクノロジー市場が常にハイプ・カーブを経験してきたのは、このためだ。今も昔もIT業界は「ホラ吹き、煽りすぎ」なのである。そのモメンタムを利用して私腹を肥やそうというITゴロのような連中がいる限り、この傾向はなくならないだろう。

海外ベンダーにコンセプト偏重の傾向が見られる背景には、この手の行き過ぎた資本主義とでも言うべき短期決着型のビジネス志向がある。

カニバリゼーションこそが参入障壁

しかし、このような大企業を騙し続けてあぶく銭をかすめ取るというノーリスク・ノーマインドの思考回路からは、決して破壊的イノベーションは生まれない。破壊的イノベーションを持続可能なビジネスにつなげていく戦略というものは、今日のメシを食べることに追われながらも深謀遠慮と強い信念が欠かせないのだ。

インフォテリアの戦略がこれらのEAIベンダーと異なるのは「イノベーションは下から」という自然界の法則ともいえるほど強力な原則を尊重し、忠実に守っているということだ。だからこそ、ノン・プログラミングというプラットフォームの技術的裏づけを矛盾なく維持することを何よりも重視している。その結果として、上記のような海外ベンダーはいずれ競合にはならなくなる。なぜなら、我々はいつかEAIというハイエンドニッチから巣立つときがくるからだ。

一方で、その代償として現時点でのEAI市場への浸透速度が犠牲となっている。少しでもバランスを崩すとビジネスとして成り立たなくなるリスクを冒しているのだ。このストレスたるや尋常ではないし、作戦が失敗に終わってしまう可能性だって当然ある。文字通りの暗中模索、イチかバチかだ。

しかし反面で、この苦しみは参入障壁としても機能している。インフォテリアのようなベンチャー企業が最も恐れるのは、大手ベンダーとの直接競合である。しかし大手ベンダーは、このような不確実な市場へ参入する意思決定を極めて苦手とする。ましてや、自分たちの主たる収益源とカニバリゼーション(共食い)を引き起こすようなテクノロジーを前にすると、ほぼ例外なく最後まで英断を下せない。

例えば、マイクロソフトにはVisualStudio.NETの顧客(つまりプログラマーだ)をないがしろにするような破壊的な言語は作れない。せいぜいJava潰しを図るべく作られたC#が関の山なのである。彼等は空前の規模の投資が可能で、持続的イノベーションや全く新しい市場への参入ではものすごいパワーを発揮するが、自社のバリューネットワークを破壊するような意思決定には、きっと膨大な時間を必要とするだろう。

メインフレーマーたちも、自分たちのバリューネットワークを脅かさない程度のイノベーション、即ちJavaやアプリケーションサーバといったプログラマーのための技術革新までは問題なくキャッチアップしてきているが、今後ASTERIAのようなプログラマーを否定してしまう破壊的な技術へとソフトウェアが進化していくにつれ、ますます意思決定に時間がかかるようになるだろう。

次世代の破壊的イノベーションこそ日本発で

このように、インフォテリアの戦略では大手ベンダーにとってのジレンマを最大限利用し、意図的に熱しにくい性質の市場、慣性の大きい市場を選ぶことで、ステルスモードでノウハウを蓄積するための期間を稼いでいる。破壊的イノベーションにとって重要なのは、コピー&ペーストできる製品のソースコードなどではない。暗中模索の中から学習・発見的アプローチによって社内に醸成される無形の価値観やプロセスこそが、最大の差別化要素であり資産なのだ。並行して、チャレンジャーたちをパートナーとして味方につけるべく、啓蒙活動を通じて独自のバリューネットワークを模索し、事態が動き出して慣性の法則が作用し始めたらパワーを余すところなく発揮できるように準備を進めておく。これが「イノベーションのジレンマ」の見地から見たインフォテリアの戦略だ。

ところで、このような破壊的イノベーションに取り組んでいる会社が実は他にもある。アプレッソという会社がそうだ。実はインフォテリアと似たカテゴリーでビジネスをしている商売敵でもあるのだが、同じく日本発のベンチャーということで、ひそかに応援している。やはり海外勢とは異なりしっかりとしたテクノロジーをベースとしており、そして性質の差こそあれノン・プログラミングをコンセプトとしている。このような次世代を担うソフトウェアが、海外製品にはひとつもなく日本には複数あるということが、なんだか頼もしい気持ちになるのである。

また、今回槍玉に挙げられた一流企業には、まぎれもなく一流の人材がいる。特に日本は大企業偏重の傾向が強い。そこでは熱意ある若者の多くが燃えるようなエネルギーを発揮する場を得られずくすぶっているはずだ。しかし、考えてみて欲しい。会社がうまくいっているときに若者にチャンスなどない。年金システムと同じで年長者に報いるピラミッド型システムが維持される。しかし、乱世には下克上が起きる。破壊的縮小に見舞われているピンチのときこそ、大企業でも若手に抜擢のチャンスがあるのだ。このBlogを見つけて読んでくれているような目線の高い若者が、大企業内で躍進したり、またはスピンオフして我々と競合したり、我々にジョインしたりしてくれることを、心から願っている。

筆者は現在インフォテリアという企業に属してはいるが、むしろ日本という共同体への帰属意識の方が強い。強い日本、元気な日本を実現するためにも、次世代のITイノベーションこそ日本発といきたいものだ。同志たちよ頑張りましょう。

(了)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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