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誕生日のパラドクスとノーベル経済学賞の共通点

2003/09/30 21:24
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セキュリティ技術の世界で著名なコンセプトとして "Birthday Paradox" (誕生日のパラドックス)というものがある。ざっと言えばこうだ。

2人の人間が同じ誕生日である確率は約1/365であることは直観的に理解できる。では、何人の人間が集まると同じ誕生日の人がいる確率が50%を超えるだろうか?

答えは23人である。さらに言えば、40人集まると約90%の確率で同じ誕生日の人がいるのだ。つまり、40人の教室が学年に10クラスある学校なら、9クラスは同じ誕生日の人がいることになる。(初歩的な確率計算で証明できる)

直感に照らしてどうだろうか?初めてこの事実に触れたほとんどの人が、驚きを隠せない。担任教師は、毎年のように受け持ちクラスの中に同じ誕生日の生徒がいることに気付けば、驚くに違いない。

このことが意味することは、一体何だろうか。

人間は主観的な生き物である。「自分と他人」の関係については直感が働くが、「他人と他人」の関係については鈍い。自分と他人の誕生日が同じである確率は、どこまでいっても約1/365なのだ。だから、「40人中に誕生日が同じ人の組がある確率」と言われても、「自分と他人の関係」を基準に考え、「他人と他人の関係」の要素が非常に大きいということを見落としてしまう。これが "Birthday Paradox" を生み出す心理である。そう、これは錯覚だ。

高校の数学の授業では、確率論を教える時には例題を解かせる。しかし、「これは確率の出題ですよ」というバイアスがかかった状態では、数学のテクニックの問題としか捉えることができない。そこには錯覚はないのである。しかし、実社会では確率や統計の技術的な知識よりも、錯覚を見抜く眼力の方が重要なのだ。計算機の発達した現在では確率や統計、分布などは自動で可視化できるのだから。

一方で、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授の行動経済学・プロスペクト理論も興味深い。ざっと言えばこういうものだ。

A)80万円もらえる
B)100万円貰えるが15%の確率で返さないといけない

では、多くの人はA)を選び、

C)80万円払う
D)100万円払わなければいけないが15%の確率で返してもらえる

では、多くの人はD)を選ぶ、というものだ。つまり、人間は得をしている場面では安定を好み、得を確定したがり、損をしている場面では変動を好み、リスクを取りたがる、しかもその行動は確率的に見れば合理的ではないというわけだ。(上記例ではB,Cを選ぶのが正解)

株式市場などは、結局のところ感情をもった生き物である「人間」によって運営されている。従って、市場参加者がそれぞれ持つ先入観・焦り・恐怖・狂喜・懐疑などの感情が積もり積もって共鳴を始めると、市場全体がとんでもなく理不尽なふるまいをすることがあるのだ。そう、市場とは一見とことん客観的な「神の手」のようでいて、実はもっともっと人間臭いものだったのだ。

さて、今回はセキュリティ技術と行動経済学という、一見全く異なる分野から話をした。これらに共通するものは、「確率」と「心理」の相互作用だ。現実の社会にはこういった「確率と心理のカラクリ」がさまざまな様態で浸透しており、このカラクリを消化した人と消化できていない人との間に、単なる経験則を超えた非連続な差別化要素を生み出すのだ。これを俗に「センス」という。

これからの社会は、ここでいう意味の「センス」が肝になるに違いない。

実はこの「確率と心理のカラクリ」というものは、私自身にとってはもはやビジネスを超えた研究テーマ、ライフワークになりつつある。今後もこの話題についての考察が多いと思うのでよろしく。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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