200万人の平和的デモにも耳を貸さない政権に他に何の対抗手段があるのですか
逃亡犯条例改正案に端を発した、香港抵抗運動の日本向けスポークスマンでもある周庭氏が公然と「平和的手段」と並んで「強行手段」=暴力的手法の継続を宣言し始めた。彼女は言う。「200万人の平和的デモにも耳を貸さない政権に他に何の対抗手段があるのですか」と。
(そんな彼女に対して「暴力的な手段は世界の支持を失うのではありませんか?」「天安門事件の再来が起きるのでは?」などという薄っぺらな日本のワイドショーのレポーター達の質問!!では平和的抵抗を続けていればこの国は何をしてくれると言うのか)
9月4日になって香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)長官は、逃亡犯条例の改正案を撤回したが、まだ香港の抵抗市民から出された4つの要求が残っている。残された要求の中には「普通選挙の実現」も入っており、他の3つに比べ(我々には当たり前の要求だけど)北京にとっては格段にハードルが高い。しかしここまで来たら香港市民は、残る4つの全てが叶えられない限り旗を降ろさないだろう。
抵抗のアイコン
彼女、周庭(英語名 Agnes Chow Ting<アグネス・チョウ>1996年12月3日生)さんはおそらく死を覚悟している。一方で彼女にことがあれば、間違いなく「民主の女神」は抵抗のアイコンになる。万一のことが彼女にあれば、民衆は彼女の肖像を掲げて行進するだろう。だから北京も香港政府も彼女に容易に手は出せないし継続的な拘束もできない。8月30日朝、一時警察に拘束されたがすぐに保釈されたのも、長期にわたる拘束を行うことが、香港政府側に有利に働かないことがわかっているからだと思える。
他方で、もしも命と引き換えに香港の民主化が叶うならそれでもいいと本気で彼女は思っているように見える。
天安門事件の頃とは時代が違う。香港は中国にとって唯一無比の経済的資源でもなくなった。香港と隣接する深センの2018年の域内総生産(GDP)は香港を初めて上回った。内陸部の何十もの都市も、すさまじい成長を続けている。敢えて彼女に、そして香港に対して「軍事介入」を行い、一国二制度を前倒しで崩壊させ、ここから数十年の世界からの逆風による損失を引き受ける覚悟は北京にあるだろうか。
そもそも、この独学で日本語を取得したという22歳の女性に、ここまでの度量と決心がなぜ育ったのか。両親はどんな教育をしたのだろう(良い意味で)。
「女神」の静かな覚悟
彼女には、政治的活動に邁進する人にありがちな、独善的な論理を固い信念で展開するような、ヒステリックな雰囲気は感じない。感情的にならず表情も変えず、彼女はただ淡々と「革命」を説いている。
抵抗の象徴でもある彼女を、殺すことも長期拘束することもできないなら北京はどうするのか。国外に追放するのか。地位と空手形を用意して籠絡するのか(あのアウンサンスーチー!)
彼女にしてみればまだ若い。ここまで香港に拘らなくても、米国などに移住すれば「西側」は「民主の女神」と祭り上げた彼女に対して、少なからぬ待遇を与えるだろう。香港でこのまま命の危険に晒されるより、彼女は自らの将来を考えたほうがいいという声ももちろんあるだろう。
自分は軽々な発言ができるほど考え抜いているわけではない。
だが1つだけ言えることは、ひとりの人間にできることは少ないけれど、その人間の並々ならない決意を翻意させるのは、大中国をもってしても至難の技だということだ。
手強い。
淡々と革命を説いているこの若い知性を見ていてそう思う。
10月1日の中国の国慶節に向けて何があるかわからない。自分にできることも実際のところほとんどない。けれど願わくば香港の人々全てに幸のある結果になることを。祈るだけしかできないなどとは口にしたくないが、そう思う。