オンラインの恋活・婚活マッチングサービス市場が急速に伸びている。
株式会社サイバーエージェントの連結子会社でマッチングサービス「タップル誕生」を運営する株式会社マッチングエージェントと株式会社 デジタルインファクトが共同で実施した、国内におけるオンライン恋活・婚活マッチングサービスの市場調査によれば、2018年のオンライン恋活・婚活マッチングサービス市場は、2017年比46%増の374億円。これが2023年には、2018年比約2.3倍の852億円に拡大すると予測されている。
これらのサービスは、少し前には「出会い系」としてまとめられていたもので、どちらかというと、ちょっと秘密で使う雰囲気があったが、市場の成長と共に、そのイメージも使い方も大きく変わってきているよう。ここでちょっとマッチングサービスの進化について考えてみた。
マッチングエージェント、オンライン恋活・婚活マッチングサービスの国内市場調査を実施
先行した米国のマッチングサービス
米国では、NYなどの都市を中心に早くからマッチングサービスが普及し、2015年の段階で世界最大のデートサイトをうたう「マッチ(Match.com)」は、既に20年の間に1000万組以上のカップルを米国内に誕生させたとしている。また2005年~2012年に結婚した19,000人以上の米国人を対象にしたPNASの調査では、およそ1/3が、オンラインで始まった関係から結婚まで発展したと回答。(そのうち45%はマッチング系サイト、20%はソーシャルネットワーク、10%はチャットルームを通じて知り合った)先のマッチングエージェントの調査では米国のONLINE DATING市場規模は2017年の段階で約2500億円なのに対して日本は約200億円とされており、およそ10倍以上の差がついていたとされている。
Marital satisfaction and break-ups differ across on-line and off-line meeting venues/PNAS
立ち上がり始めた日本のマッチングサービス
このように、米国と比べるとまだまだ成長余力がありそうな、日本のマッチングサービス市場だが、特に急速に普及したFacebookやTwitterといったSNS上で自然な形で出会いの機会が増えてきたことが、長く「出会い系」への抵抗感を持ち続けてきた日本社会の受け止め方に変化をもたらしたことは確かであると思われる。Webからの検索型が中心であったマッチングサイトサービスから、SNSや専用アプリ中心にツールが変化していることも、手軽に登録できるスマホの利便性と合わせてユーザーを広げている。
さらに2013年にローンチして一気に米国でトップになった「Tinder」や、男女の出会いだけではないソーシャルサークルの形成も後押しする「Bumble」、新世代のマッチングアプリと言われている「Dine」など米国発の日本版アプリが次々とリリースされていることや、(Dineはユーザーが登録時に自分が行きたいレストランを3件選ぶところから始まり、相手にリクエストを送る際には「どのレストランで会いたいか」を選ぶという新しい仕組み)大手企業が次々と参入していることも、心理的な抵抗感を取り払う力となっているようだ。
上場・大手企業の参入
上場企業や大手企業も、成長必須のマッチングアプリ市場に相次いで参入をしている。主なものをあげると
- 「Yahoo!パートナー」(ヤフー株式会社<東証一部上場>)
- 「Omiai」(株式会社ネットマーケティング<東証JASDAQスタンダード上場>)
- 「with」(株式会社イグニス<東証マザーズ上場>)
- 「カップリンク」(株式会社LINKBAL<東証マザーズ上場>)
- 「ゼクシィ恋結び」(株式会社リクルートマーケティングパートナーズ<親会社リクルートホールディングス(東証1部上場)>
など。この他、株式会社サイバーエージェントは「タップル誕生」「CROSS ME」、「mimi」、「トルテ」など子会社も含めると4つものマッチングアプリをリリースしている。
サービスのイメージ転換とセキュリティ強化
名の通った大きな企業が参入することで、ユーザーに心理的な安心感を与えるだけではなく、旧来の出会い系アプリの悪いイメージを消そうと、ユーザー保護に各社が力を入れているのも最近の特徴。ブランドイメージによる安心感はもちろんだが、24時間監視体制や業者の排除、年齢認証や本人確認の徹底の他、Facebookなどのアカウントと連動を行ったり、実際にリアルのイベントに参加した人には、「イベント参加」のマークをつけている例もある。(カップリンク)リアルイベントに参加しているということは、リアルに存在しているということなので、こうすることによってbotやサクラのユーザーなどの排除を狙い、実在しているユーザーかどうかを峻別できるという仕掛け。また敢えて女性も料金を払わなければ利用できないシステムにして、業者の排除を狙っているサービスも存在する。(マッチドットコム)
新しいサービスジャンルへのヒント
ここで扱ってきたマッチングサービスは、主としては恋愛や婚活を軸としたCtoCのサービスだが、こうしたサービスのニーズはそれだけではない。ボランティアや趣味の集まりなどのサークル形成や友人探しの機能に特化したものもある。さらにリクルーティングを行う企業と個人を結びつけるBtoCのサービス、幅広く出会いを中心においた広告配信ジャンルの新た可能性など、出会いビジネスの周辺には、実は多くの応用ジャンルが広がっていることがわかる。
視点を変えて見ると、人と人の出会いをサポートすることは、恋愛や結婚だけではなく、人間関係の拡大や構築、サークル形成、教育、ボランティア活動、企業によるリクルーティングなど、多岐にわたる人のライフステージの重要な部分をサポートして行くことであるとも言えるだろう。その中でも、参加者のニーズも切実で競争が激しく、参加者同士だけではなく、参加者とサービス運営者の信頼関係やセキュリティが厳しく求められる恋愛・婚活マッチング市場でノウハウを確立することができれば、他のジャンルのサービス参入においてもいち早くリーディングポジションを確保できる可能性があるのではないか。マッチングサービスに相次いで参入する企業にはそうしたビジョンを持つところも多いのではないかと思われる。
既成のイメージを変えてサービスの可能性を考える
少子高齢化や非婚男女の増加が懸念される日本の社会構造にあって、マッチングサービスに参入する大手も含めた企業の増加は、必然性があると思われる。冒頭で見たように米国で一般化したマッチングサービスだが、国内においては従来のネガティブなイメージを払拭したとは言え、結婚男女の30%以上がマッチングサービスによるという米国に比べれば未だ発展の途上にある、これから拡大できる余地を十分に持ったサービス。
それだけではなく、マッチングのノウハウは恋愛・婚活市場だけではなくソーシャルサークルや、企業のリクルーティングなど他のジャンルに応用できる可能性もある。「出会い系」として特殊なジャンルと見られがちであった時代は終わり、人と人の出会いを巡る必須の社会インフラとしてサービスが確立して行くのも、程遠くないように思う。誰もが前から知ってはいても、旧来のイメージにとらわれているだけでは見えない、思いもかけない展開の可能性を秘めているサービスは、ここであげた以外にも多くあるのではないか。あるサービスのモデルを考えるときには、旧来の固定化されたサービスイメージだけに目を向けるのではなく、今日的な状況の中で展開を考えることにより、新しいビジネス機会と応用ノウハウが見えてくるのではないかと思う。