SNSを用いた多彩なマーケティングの手法の中で、最近次第に存在感を増しているのがチャットボットを用いたユーザーコミュニケーションの強化です。特にチャットBOTを有効活用することで具体的な成功事例を作る企業が増えています。久しぶりの投稿ですが、ちょっとこのチャットBOT周辺の動向を書いてみようと思います。
すでにLINEでは2016年10月からチャットBOT(LINE Messaging API)をリリース。LINEの抜群のアクティブ率と圧倒的な国内ユーザー数を背景にユーザーへの新しいサービスとして展開を図っています。現在では「LINE公式アカウント」や「LINE@」にも提供されて幅広く使われるようになっています。慣れ親しんだLINEのトーク画面でチャットボットに対して質問を投げかけるとそれに答えてくれるというサービス形態はまずシンプルでわかりやすく、チャットボットに対して抵抗を感じることも少なく自然に活用できるという点では優れていると言えるでしょう。
LINE Messaging APIの機能を活用して、投げかけた質問に対して、単に答を返してくれるというだけではなく、用意された質問に答えていくだけで、見積書をEXCEL形式で作成してくれる対話型ドキュメントサービスの「SPALO」や、採用担当者が面接可能な時間の情報をあらかじめ入力しておくと、チャットBOTがLINEを通して応募者とメッセージを交換し、受付だけでなく面接日程の決定までを自動的に行ってくれる「オートークビズ」など、従来イメージの「チャットBOT」の枠に収まらないサービスも現れ、企業のユーザーコミュニケーションの促進に貢献しています。
またライフネット生命ではLINEだけでなくFacebook Messenger上でも、24時間チャットBOTによる自動応答で保険の検討が可能。チャットBOTだけでは補えない時など必要に応じて有人での対応に切り替えて、保険プランナーと直接チャットによる保険相談を行うことが可能になっています。 Twitterでは、2016年11月にチャットBOTプラットフォームであるTwitter DM bot(Twitterダイレクトメッセージチャットボット)を公開。2017年4月にはその機能がアップデートされました。今までのような単体の投稿ではなく、その投稿からユーザーがアクションできることで、よりインタラクティブなコミュニケーションをとることが可能になっています。
また、NTTドコモでは、「無料で誰でもチャットBOTが作れるサービス」である「ReplAI」(レプル・エーアイ)をスタートさせています。「ReplAI」はプログラミングが不要であることを謳っており、直感的なインターフェースで豊富に用意された「シナリオテンプレート」を活用することにより、様々なシーンに対して効果的に回答をするチャットBOTを作成できるというもので、すでに1000ものプロジェクトが登録されているということです。
こうして作られたBOTとは、企業のWebサイトに組み込めるほか、LINEやFacebookメッセンジャーを通じて会話をすることも可能であり、ドコモがdocomo Developer support上で公開しているAPIを利用した、他のBOT、知識Q&Aボット、トレンド記事ボット、雑談対話ボットと連携できる機能も持っており、これらのボットを利用すると、エディターでは作ることが難しい高度な受け答えを、自身のシナリオで簡単に実現できるようになります。 ReplAIは「旦那の捨て方」というユニークな回答で有名になった横浜市のゴミ分別案内システムや、株式会社ABC Cooking Studio の冷蔵庫にある食材をつぶやくだけで最適なレシピを提案してくれる「献立チャットボット」サービスなどで活用されています。
チャットBOT隆盛の背景にあるとして考えられる要因は、AI(人工知能)技術の発展に加え、LINEやFacebookなど多くのメッセージアプリがオープン化され、チャットボットの「プラットフォーム」化が進み、開発がしやすくなったこともありますが、企業が課題として抱える、将来的にさらに深刻化するであろう労働力不足があることは間違いありません。少子高齢化が進み、日本の生産年齢人口は減少の一途をたどっており、将来の人材不足は避けられない事態とされています。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年には約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人あまりに減少。2010年には8000万人以上だった生産年齢人口(15~64歳の人口)は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がるとされています。 こうした中で、将来的に日本人の労働力を担保していくためには、(1)外国人労働者の活用(2)人工知能等チャットBOTの活用 だと考えられており、特にチャットBOTは今後の企業マーケティングの中で大きなポジションを占めていくことが予想されます。
もう一つ、チャットBOTを考えるにあたって重要な視点の一つと思われるのは、チャットBOTが「身体性を持たないロボット=AI」として、これからのAI社会の入り口を私たちに垣間見せてくれているということです。顧客へのサポートや定式化された簡単な作業を行うだけではなく、それぞれの現場にいる制作者の知見やビッグデータ、他のBOTとの連携などを通じて、チャットBOTは身体性を持たないまま、今後はさらにSNS空間やオンラインにいる限りは、通常の人間と見分けがつかないほどに進化していくことでしょう。 AIが十分な身体性を獲得するよりも、「十分な頭脳性」を獲得する時代の方が、早く到来するという説もあります。身体性を十分に獲得するためには、巨額の投資と大規模で精密な製造加工技術が必要になりますが、頭脳性を実現するためのコストはそれよりも遥かに凄まじいスピードで下がっているからです。ロボットが実社会に完全に根づくためには、まず凄まじいAIの進化の時期が先行し、身体性の発達はそれより遅れてやってくるという考え方です。
何も説明をされなければ、カスタマーは相手がチャットBOTであることに気がつかないまま会話をするようになることも考えられます。企業のオフィシャルサイトやSNSの公式アカウントでは、チャットBOTが対応していることを明示する決まり事も必要になってくるでしょうし、万能とは言えないであろうチャットBOTの顧客応対や活動に対して、危機管理の観点からどのようにチェックをすることができるか。そうした観点での「チャットBOT管理」も求められるようになるかもしれません。(それもBOTに依存するような事態も考えられますが) 意識しなければならないのは、チャットBOTがすでに相手の回答に対して単純なオウム返しや、決めセリフのリピートをしていた時代はとうに終わり、AIがマーケティングやコミュニケーションの分野に本格的に参加してくる時代の幕開けであるということでしょう。
これからのSNSは人の活動と同時に、これらのチャットBOT=AIの活動によっても担われるようになるのは、おそらく確実です。どんなにシステムが進化しても、人と人のコミュニケーションが大前提であった時代すら終わり、ユーザーの意思を先取りして飛躍的なスピードで対応するチャットBOTが一般的になったところで、私たちはどのような風景を見ることになるか、その準備が急がれていると思います。
(参考リンク)
●国内人口推移が、2030年の「働く」にどのような影響を及ぼすか
●検索の弱点をチャットボットで克服
AIで地域の「お困りごと」の解決に挑む横浜市の取り組み
●NTTドコモのAI技術と料理教室ならではのコンテンツを融合し、一人暮らしや主婦のかかえる毎日の悩みを解決!