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エジプトのこと Don't be evil 

2011/02/09 16:30
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プロフィール

殿岡良美

幻の博覧会「世界都市博覧会」で、インターネットを応用した公共イベント企画をプロデュースしたことが、ネットでの活動の出発点でした。しかし結果はご存知の通り。あるいはその未完の記憶が満ち足りない思いを私に残してしまったのか、ネットという愛すべきも、摩訶不思議で捉えようのないものに惹かれ続けてきました。リアルとネットが激しい火花を上げている今日。CNETでは、あらゆる前提や先入観にとらわれない視点から、BigBang的なIT論を展開したいと考えています。
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ある業界の集まりで時節柄エジプトの話になった。

そこにいたある人が(私より年輩だ)

「エジプトは選挙があるからましだ。サウジアラビアなんか選挙もない(※)

と言う。

「しかしエジプトは選挙とは言えないですよ。ムバラク政権下では投票所を封鎖して反対派に投票させない場合すらあるようです。」

と言っても

「いやそんなことはない。エジプトはアラブではましな方なんだ」

と言って聞かない。「私はアラブのことはよく知っているんだ」とも言う。(商社の経験か何かでサウジアラビアに数年滞在した経験があるという。)

どうもこの方は「エジプトはアラブの中では(選挙があるだけ)ましなんだ。そんなに酷くない。(だからデモなんてやるな)」と言いたいらしい。


「治安警察が実際に投票所の周りを固めて人々を投票させないで暴力を奮っている映像が実際にある。」

と言っても

「いやそんなことはない。とにかく選挙をやっているんだから」

の一点張りである。現在ネットにあがっている情報なんて見たことも聞いたこともないのだろうし、今のタハリール広場も見ていないのだ。現地にいたときはともかく、彼の現在の情報源はおそらく新聞やテレビだけなのだ。

こういうときに仕方がないなと簡単に黙らないのが自分の悪い癖で、年輩の経験のある人が(多少変でも)そうだというんだから、適当に「そうですか」とやっておけばいいのだろうが、元来の性格でそうはいかない。

「どんな選挙でもやればいいってもんじゃないでしょう。我々に比べてそんな低い水準(不正と暴力だらけ)のものがなぜあなたは選挙だと思うんですか」

などと返したものだから言い合いのようになり、周りを引かせてしまった。

家に帰ってきてからちょっと反省した。反省したというのはもっと素直な応対をすれば良かったという意味ではない。彼がサウジにいたと言っているんだから、頭ごなしに言い返さずにもう少し話をさせれば良かったと思ったのだ。
あのトーンだとサウジにいたときにどんな風に現地の人間と接していたのか推して知るべしだけれど、絶好の「取材」の機会を逃してしまった。まだまだだ。

その反面、公的な場所であのような発言をすると目下でも突っかかってくる人間がたまにはいるんだとわかったなら、それでいいではないかとも思う。次はあの人ももう少し考えるかもしれない。

しかし、その人の物言いはともかく、そうした考え方を責められるか。

ツイッターを見ていると、エジプトがあそこまで人権を蹂躙していた国だったことを知らなかった我々にも責任があると言っている人がいた。実際、ムバラク政権で行われていた数々の所業は、今回のデモがネットを通して世界中に流れるまで、ほとんど日本では報道されていなかった。
次々と出てくる弾圧と圧政、長期にわたる非常事態宣言、市民への残虐な対応、外国人報道陣への陰湿な拘束などを見て、驚いている日本人は多いだろう。

エジプトはこんな国だったのかと。

それでも、彼の人のように、「中東はしょうがないんだ」と言い張る人は少なからずいる。原因は色々あるだろう。

「イスラム原理主義の過激派を押さえ込むために多少の圧政はしょうがない」
「あの地域が崩れたらイスラエルとの間で火薬庫が火を噴く」
「ムバラクと米国の体制がいつまでも続けば良かったのに」
「石油はどうするんだ。何でもいいから治まってくれないと困る」

しかし、本当にそうだろうか。本当に「しょうがない」のだろうか。知らなかった我々は知った今、ぎりぎりまで知恵を絞っているか。

何十年という長きに渡って続いてきた「常識」が通用しなくなっていることに驚いているのは、当のエジプトやアラブの人たちも同じかもしれない。
私たちも彼の国の暗黒ぶりがわからなかったが、きっと彼の国の人々もわからなかったのだ。海外の情報があまねく人の間に満ちないと、今が夜なのか昼なのかもわからなくなる。自分たちをとりまく夜の深さもわからなくなる。あるいはFacebookが破ったのは、その私たちをとりまく暗黒と彼の地の人々をとりまく暗黒の両方なのかもしれない。

エジプトの富は0.2%ほどの人間、1000ほどのファミリーが独占していると言われる。中でもムバラクファミリーの資産は6兆円にも上るという。残りの99.8%の人々はほとんどの国益に預かれないどころか、その日の仕事にも困る性格を強いられており、選挙などで正当に声をあげる機会もない。

エジプトの「革命」がイスラム原理主義主体のものであるという外国のイメージは、誰よりもそれを敏感に察した市民たちによって打ち破られつつある。現地から送られてきたこの一枚の写真。タハリール広場で見られたイスラム教徒とキリスト教徒の歴史的な連携の写真ほどそれを物語っているものはない。


(撮影者不詳 エジプト タハリール広場)


昨日解放されたGoogleの幹部ワエル・ゴニム氏は、Facebookで、拷問に反対するグループ「We are all Khaled Said」の創設に関与していたという。(グループ名は、エジプトで警官に暴行を受けて死亡したとされる活動家の名前から取ったという。)彼の解放はエジプトの市民に大きな勇気を与え、昨夜のタハリール広場はデモ始まって以来最大規模の、膨大な数の人々で溢れた。

Googleはその会社理念を 

Don't be evil. 邪悪になるな

としていたが、こんな形で会社理念を具現化する社員が現れるとは想像しただろうか。

命をかけたパフォーマンスをどう受け止めるか。戦っているのは何に対してなのか。

もしも人の生きていく権利を尊重することでしばらくの間、世界が混乱するなら、混乱すればいいだろう。世界はその混乱から必ず立ち上がる。人はそれほど愚かではないし、そのプロセスを先送りにしても意味がない。

永遠なんてないのだ。

それでもあなたが世界の混乱を嫌悪し、今日のあなたの「食卓の平和」を守りたいためだけに、彼らの現状を追認すると言うなら、彼らの立っている地面に、ほかならぬあなたが立てばいい。


※だがこれは後から調べたら正確ではない。確かにサウジでは立法権を有する議会がなく、その選挙(国政選挙)も行われていないが、地方評議会議員の選挙は行われている。なお、ここで指す地方評議会とは、13州の州評議会ではなく、より小規模な地方行政単位で、全国に178存在する。(中東の民主化と政治改革の展望 )


※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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