9月22日の夜に起きた「下北沢強盗誤報ツイート事件」は、ツイッターの拡散力の凄まじさを、まざまざと見せつけた。
ことの始まりは、夜22:00ころに流れた一本のツイート。「下北沢、王将付近で事件発生!強盗で人が滅多刺しにあった。犯人は逃亡中。黒いキャップをかぶっているので気を付けて!」という内容だった。第一通報者は下北沢で働いているユーザーだったが、そのツイートの後ですぐに、「これは未確認情報である」というツイートも流している。にもかかわらず、「滅多刺し」という箇所が秋葉原通り魔事件を思わせるショッキングな内容だったためか、「未確認である」というツイートの方は無視され、瞬く間にRTを繰り返されて爆発的に広がった。
今回はデマではなく、強盗事件そのものは実際に発生していたため、このすぐ後に流れたツイートに、王将近くの現場付近が封鎖されて、警察官が出ているという現場写真付きのツイートが流れたことも、信憑性を高め、友人や家族に連絡する人、怯えてアルバイトを切り上げようとする人など、一時はパニック状態になった。
僕にとっても下北沢は自宅からそう遠くないこともあり、家族も出かける場所である。このツイートを見かけて、たいして時間を置かずにすぐにRTしてしまった。
最初にツイートを行ったユーザーのフォロワー数は2桁。ご本人は、まさかここまで広がるとは思わず、おそらく深く考えずに軽いつぶやきのトーンで、善意で情報を流したと思われるが、それが1000回以上もRTされて、1時間ほどの間には推定24万件もの情報に拡大したという凄まじいことになった。(Googleのヒット数による)
この段階で、マスメディアの動きが注目されたが、テレビのニュース番組ではいつまでたっても事件が報じられない。これはおかしいと思い始めた頃に、別のユーザーが現場で警察官に聞いた話として「流れている情報は誤報であり負傷者はいない」とツイートを流した。
パニック状態になっていたツイッター空間では、「滅多刺しツイート」が激流のように流れていたが、次第に「負傷者がいない」というツイートのRTが支配的になっていった。
一時はどうなることかと思ったが、総じてユーザーたちも冷静であったと言えるかもしれない。徐々に「負傷者がいない普通の強盗事件である」ので落ち着くように呼びかけるツイートがパニックツイートを押し戻し、タイムラインを支配し始めた。
発端を作った最初のユーザーも、他のユーザーのアドバイスを受けて、未確認であったことを含めたお詫びのツイートを再度流した。僕はこの段階で、「滅多刺し」のような通り魔事件は発生していないと判断、最初の自分のRTを削除し、他のユーザーへも同様に対応するように呼びかけた。
その段階になっても、遅れてきた津波のように「滅多刺しツイート」はまだRTされ続けてもいたが、夜中にかけてタイムラインは平静を取り戻していった。
今回のことで、一旦ツイッターに流れた誤報を修正するのは至難の業であるということがあらためて実感されたが教訓もあった。まず、比較的ユーザーが冷静であったこと。自分のフォロワーやタイムラインだけではなく、ツイッター全般に検索などかけて状況を観察していた冷静なユーザーたちによって、比較的早く情報の峻別と訂正がなされたこと、また最初の発端をつくったユーザーを感情的に責める声もほとんど見られなかったことも良かった。総じて評価すべきポイントがあったように思っている。
難しいのはこの種の事件を目にした時の対応であって、万一実際に通り魔事件が発生していたとすれば、ツイッターを使って一刻も早く皆に警鐘を伝えたいというのは、全く自然でもっともなことである。逆に対処が遅れていたらさらなる大惨事が起きる可能性さえある。そうした意味で、第一通報者を一概に責めるのは誤っていると思う。
人間であるから、間違いはある。問題はそうして流された「誤報」に対してどのような対応をとれるか、自分が介在して情報を流した後でそれが間違いだったと気づいたとき、いかに冷静な対応ができるかということだと僕は思う。そういう意味では実に教訓的な出来事だった。
最後になるが、マスメディアが裏取りをして、正しい情報をいち早くテレビ等で報道してくれれば、この種のパニックは急速に収まる。小さな出来事まで始終ネット上に目を凝らせというのは難しいとは思うが、ツイッターユーザーには多くのマスコミ人も含まれている。ネット上でパニックのように広がった不安や混乱を、マスメディアが正確な取材をいち早く行って、それを収拾するようなことに手を貸せれば、マスメディア全般への信頼の回復にも繋がると思う。何と言っても、裏取り取材は彼らプロの得意とするところなのだから。こうした対応フォーマットを用意しておけば、災害時などのより大きなパニックも防げるのではないかと思う。
【参考】
(Togetterまとめ)