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車は空を飛ばなかった---イカルスになる前に。

2008/12/07 17:29
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プロフィール

殿岡良美

幻の博覧会「世界都市博覧会」で、インターネットを応用した公共イベント企画をプロデュースしたことが、ネットでの活動の出発点でした。しかし結果はご存知の通り。あるいはその未完の記憶が満ち足りない思いを私に残してしまったのか、ネットという愛すべきも、摩訶不思議で捉えようのないものに惹かれ続けてきました。リアルとネットが激しい火花を上げている今日。CNETでは、あらゆる前提や先入観にとらわれない視点から、BigBang的なIT論を展開したいと考えています。
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子供のころのSF映画やアニメを見ると、ほとんどの車は空を飛んでいた。天の彼方までそびえる高層ビルとビルの間には、幾筋もの「空中フリーウェイ」が重層的に重なり、その中を超高速で飛び交う未来の車。鉄腕アトムでも車は空を飛んでいた、(但し電話は黒電話のまま 笑)映画「ブレードランナー」でも飛んでいた。
かなうか、かなわないかわからない多くの未来の夢。その夢の中でもそれほど突飛でも、実現不可能とも思えない21世紀の夢が、「空を飛ぶ車」だったはずだ。

果たして2008年の現在、車は空を飛んでいない。交通渋滞の解消のための強力なウルトラ施策は「空飛ぶ車」のはずだったはずなのに。その技術的な理由は様々だ。安全性の問題、法規の問題、ガソリンに代わる未来の代替エネルギーの問題、そもそもそうしたニーズが現実的であるかという問題。飛ばなかった車のことをいくら論じても仕方がないが、問題は車は空を飛ばなかったどころか、自動車業界、あるいは車そのものが空前の危機に瀕しているということである。

ずいぶん前から車は憧れの存在ではなくなった。若者は車を欲しがらず、ゲームや携帯電話、プロフなどでの人とのサイバーなつながりを求め、通信費などのコストを優先するようになった。自動車業界だけではなく、広告業界にとっても最大のイベントであったモーターショーは、最近では急速に注目を浴びなくなった。

そうした中にあって、空を飛ぶなどという夢よりも、ガソリンという有限の燃料からいかにしてクリーンな次世代エネルギーに移行するか、省エネ、環境問題といかに向き合っていくかという、現実的な課題が優先して語られるようになった。自動車のデザインが急速に近年「保守化」してきていると思われるのも、こうした市場意識の変化とは無関係ではないだろう。
皆が気がついていたはずだ。自動車は最近何かがおかしい。何かがちぐはぐになっている。それでも、産業における自動車業界のポジション自体、その圧倒的に優先的な地位にまで危惧の念が持たれるところまではいかなかった。

しかし今、車をめぐる夢自体が終わりつつある。

年末を間近に控え、アメリカのビッグ3の資金調達はぎりぎりのところに来ている。

「3社の再建には最大で1250億ドルが必要」(ムーディーズ・エコノミーのマーク・ザンディ氏)との試算には遠く及ばず、GMやクライスラーが抱えている構造問題に踏み込むには不十分な支援規模だ。販売店やブランドの統廃合、工場閉鎖や人員削減といった抜本再建策を実行に移すには追加的な資金支援が不可欠で、オバマ次期米大統領は来年1月の就任直後に改めてビッグ3支援問題という難問を突きつけられる可能性が高い。

 ビッグ3救済については、米CNNテレビの世論調査で6割超の回答者が「支援に反対」と答えている。一方で、ビッグ3の背後にはさまざまな既得権益を持ち、民主党の強力な支持基盤でもある全米自動車労組(UAW)が控えており、ブッシュ政権からビッグ3の処理を丸投げされた形のオバマ氏は厳しい調整を迫られそうだ。
(毎日新聞 2008年12月7日 東京朝刊)

こうした中にあって、年越資金の150億ドルあまりの緊急融資だけは何とか通りそうだという見通しが報じられているが、未だ予断を許さない。トヨタは大幅な減益により格付け見直しの事態に陥り、さらにホンダは年間500億円もの費用がかかるというF1からの撤退を表明し、チームの売却先が話題になっている。

「空を飛ぶ車」の夢が果されるどころか、現実的で切実な問題が問われ、世界的大企業の存続の可否が問われるところまで来ている。まさに車は飛ぶどころか失速し、マーケットという仮想の空で、地面にたたきつけられる寸前のところに来ている。

かつて、車がない社会は想像できなかった。もちろん、これからも車はなくなることはありえないだろうが、10年、20年後に世界を走っている車や自動車産業の姿は、私たちが今まで想像していたものとは、まったく違う様相を見せることになるだろう。「人と車の関係」を考えていくというのは、自動車会社がこぞって唱えていた綺麗ごとの「お題目」の風であったが、ここからは、本当に全力で「人と車の関係」を考え、変化させていくことが必要になってくるだろう。

ギリシア神話に登場するイカルス (Ikaros) は、鳥の羽を蝋で固めて翼を作り、それで空を飛んだが、調子に乗って太陽に近づきすぎ、蝋が溶けて翼が分解したため墜落死した。CEO達が乗ってきて議会の猛反発を受けた自家用ジェット機は、かつてはイカルスのように大空を舞っていたが、既にその翼の蝋は溶け始めていたのか。

車は空を飛ばなかったが、超えなければならないハードルは飛び越えなければならない。イカルスになる前にだ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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