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本当にセカンドライフは「過去の思い出」になったのだろうか(2)

2008/10/05 19:39
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プロフィール

殿岡良美

幻の博覧会「世界都市博覧会」で、インターネットを応用した公共イベント企画をプロデュースしたことが、ネットでの活動の出発点でした。しかし結果はご存知の通り。あるいはその未完の記憶が満ち足りない思いを私に残してしまったのか、ネットという愛すべきも、摩訶不思議で捉えようのないものに惹かれ続けてきました。リアルとネットが激しい火花を上げている今日。CNETでは、あらゆる前提や先入観にとらわれない視点から、BigBang的なIT論を展開したいと考えています。
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【参照】
本当にセカンドライフは「過去の思い出」になったのだろうか(1)

 

「記事が減ったから衰退している」?

セカンドライフでは、企業SIMを中心に閑散とした状況が続いている、中を歩き回っても誰にも出会わないという話は、よく聞かれる。昨年夏前後の、バブルとも思われる日本の報道洪水の中で、「電通やデジタルハリウッドによってつくられたブーム」という論調と合わせて、そのあとの不調を強調するために、セカンドライフやバーチャルワールド全般に対して批判的な姿勢をとる人は、総じてこのことを口にする。これについては根拠がないわけではないし、実際の検証が必要だろうが、まず違和感を覚えるのは、マスメディアで「ほとんど取り上げられなくなったから終わりだ」という論である。これは後先逆の議論であると思うが、先の佐々木氏のエントリーにもそうした部分が垣間見える。

たとえば日経四紙の記事数を調べてみると、昨年一月には九件、二月六件、三月二十件、四月十五件、五月二十件、六月三十四件、七月三十七件。夏ごろにはほぼ毎日、セカンドライフ関連の記事が掲載されていたことになる。とはいえ、これらの記事の多くは、「企業がショールームを開いた」「大手広告企業がセカンドライフの進出支援ビジネスを始めた」といった内容で、つまりブームは広告業界と大企業、それにデジタルハリウッドやセカンドライフ進出支援ベンチャーなど一部業界の主導によるものでしかなかったわけだ。 実際、二〇〇八年に入ってからは記事もあまり見かけなくなり、いまではすっかり「過去のサービス」扱いになってしまっている。
(セカンドライフの「その先」をもう一度考えてみる(佐々木俊尚 ジャーナリストの視点))

言うまでもないことなのだが、日経を中心としたメディアの関心が他に移り、大洪水のような報道が激減したからと言って、ある技術やサービスが「終わった」わけではないし、将来の疑問符を確定されたわけでもない。当たり前のことである。実際、楽天にしろ、mixiにしろ、そして初音ミクにしろ、メディアで取り上げられることはめったになくなったが、それが「終わり」を意味しているわけでは全くないのはご存知の通り。

そもそも、常に流行り廃れの浮草のような表層を次々と「脅迫的」とも言える報道攻勢で流していく傾向のあるメディアと、ITの技術やサービスの実態との深刻な乖離は、今に始まったことではない。とかくスキャンダラスで刺激的な要素を多く「派手な」ものは取り上げ、地道なものや、落ち着いた成長段階にあるものは、めったに報道されない。
一時のライブドアを巡る嵐のような報道は、まさにその偏りを露呈したものであり、堀江氏の言動や行き過ぎた投資戦略を批判するものはあっても、ライブドアの技術の力そのものを論じるメディアはほとんどなかった。これには、「文系知識人」を中心とするマスメディアの人材力の限界であったとも言えるだろう。 メディアの報道記事数の増減を根拠に、そのメディアの一隅にいる当の本人が技術そのものを批評するのでは、意味のない循環に嵌ってしまう。なぜなら、集中的に洪水のような報道を行った者こそ、まさにメディアそのものであり、報道しなくなったのもメディアそのものだ。

特定のテーマに報道が集中豪雨のように浴びせられたことと、その報道が激減したことは、どちらも同じく理由の検証がなされるべきであり、「記事が減ったから重要度が減ったのだ」「記事が減ったから過去になったのだ」では、およそ検証とは言い難いだろう。

そうした風潮が支配すれば、報道広報戦略、マーケティング戦略に長けた技術やサービスのみが生き残り価値を持ち、そうでないものは無価値であると判断されかねない。実際にITメディアの気まぐれで、そうした扱いを受けた技術は過去にいくらでもある。
もちろんマイクロソフトはマーケティング戦略、メディア戦略に異常に長けた企業であったかもしれないし(かつて)、およそ資本主義の市場の中で、メディアの関心を全く引かずに成功できる企業は稀であろう。戦略も必要だ。しかし、受け手としての私たちは少なくともそのことに意識的であるべきだし、また送り手もそのことに自覚的であるべきだろう。
「セカンドライフ」というのは、この場合単に記号でしかない。政治や経済にその用語やレイヤーをシフトさせても日々私たちは同じような経験に直面するはずである。

それはともかく、実際日本において、セカンドライフを巡る昨年の怒涛のような報道は異常とも思えるほどであったのは確かである。それこそ、世界でも稀に見る過熱ぶりだったのではないか。それは事実である。いまでは随分昔の話のように思えるが、少し振り返ってみよう。

「セカンドライフバブル」を形成した2つのニュース

特に、ITなどに大して関心のない、一般のビジネスマンをすら色めき立たせた契機というか大きな節目になったのは、2つの国内報道にあるのではないかと、私は思う。いずれも、その発信者の意図を超えて、セカンドライフの報道バブルを創出に大きく「寄与」したものであった。
1つは電通がセカンドライフ内に13もの島を購入したという「日経ビジネス 2007年5月21日号」の記事である。

米リンデンラボが運営し、世界で600万人近い“住人”がコミュニケーションやカネ儲けに興じる仮想空間のセカンドライフ。夏頃にも始まる日本向けの正式サービスをにらみ、国内企業が大規模な仮想都市の建設に着手していることが明らかになった。
http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q2/534069/(「セカンドライフ、日本も乱舞 東京タワー開業、電通は最大級都市建設へ」NB online)

 これに先立つこと3ケ月前、2007年2月に、電通とデジタルハリウッド大学院はセカンドライフに関する情報交換の場として「セカンドライフ研究会」の設立を発表している。この当時のセカンドライフの世界人口は「わずか」約300万人。上の記事にあるように3ケ月で登録人口は倍になっている。当時は毎月100万人の割合で登録人口が増えていたことにも注目されたい。

※ちなみに私がアカウントを取ったのはまさにこの時期、2007年2月である。どんなきっかけでアカウントを取ったのかは、今はもう記憶が定かではないが、あるいはこの「セカンドライフ研究会」の報道がきっかけだったかもしれないと、今は思う。

それはともかく、あの電通がここまで仮想世界に本気になって13もの島(SIM)を取得した(しかし今となってはこれは、まったく大した話ではない。この私ですら今は5SIMを所有している)という5月のニュースは、多くのビジネスマンに衝撃を与え、私の周りでもこの記事を読んでアカウントを取得したり、セカンドライフについて真剣に質問されるケースが多くなった。
一方で、新興のMagSLが、東京23区の名前で次々とSIMの登録を行い、華々しく入居者を募集し始めたのも、このころである。本屋にはセカンドライフについて書かれた書籍が多く見られるようになった。

「セカンドライフバブル」に大きく「貢献した」忘れてはならないもう一つの出来事は、2007年5月24日にみずほコーポレート銀行産業調査部が発表した、今となってはとんでもない予測レポートである。

みずほコーポレート銀行は24日、同行の産業調査部によるレポートとして『「セカンドライフ」にみる仮想世界・仮想経済の可能性』と題する分析資料を発表した。
 同資料では、「セカンドライフ」をワールドワイドウェブ(WWW)に続く新たな3Dベース・社会シミュレーションサービスとして捉えている。また、 2008年末には「セカンドライフ」人口が2億5,000万人に迫り、仮想通貨「リンデンドル」の年間マーケットは1.25兆円に達するだろうという予測も示している。
http://www.mizuhocbk.co.jp/fin_info/industry/sangyou/pdf/mif_57.pdf

 

 この予測がどれだけ馬鹿げていたものであったかは、説明するまでもない。(その後、同行は、2008年1月に「セカンドライフ」にみる仮想世界の可能性(その2)>として修正報告を上げている。)
しかしレポート自体は、ご覧いただくとわかるが、セカンドライフにおけるユーザー層や職業、そしてビジネスモデルの構造について当時として非常に丁寧に解説しまとめている。さらに、複数のメタバースが並立する「マルチバース」の到来にも触れ、日本がセカンドライフに代わる新たなメタバースのけん引役になる潜在的可能性を持っているとし、今読んでも、多くの有益な示唆に富んでいる。 問題は将来予測であり、アバター数2億5000万人の予測は、05/12-06/12の間で2.3倍、直近6ケ月で3.5倍という、直近のデータがそのまま将来も続くという極めて乱暴な予測に基づいたものであった。ネズミ算のようなものである。


セカンドライフバブルは本当に電通だけによって作られたのか

いずれにしても、2007年の夏ごろ、確かにセカンドライフに関する「衝撃的な」ニュースが後を絶たず、それがまた雪だるま式の報道スクラムを生み、報道が報道を誘って、過剰な数字がメディアで独り歩きをしていくようになった。企業は参入すれば必ずといっていいほど、日経新聞等で報道され、それがまた参入を果たしていない企業の担当者を、参入へと急かせるようになった。確かに佐々木氏の言うように、セカンドライフの文字を日経新聞でみない日はないほどであった。 国内発ではないが、セカンドライフにおいて大金持ちになったというドイツ系の中国人、アンシェ・チェンのサクセスストーリーも欠かせまい。(私も2007年8月にCNETブログで「セカンドライフの億万長者は、武漢で暮らすドイツ国籍の中国人、アイリン・グラエフ」という記事を、書いて、「週刊東洋経済8月4日号」の特集を紹介している。)

こうして見てくれば、この頃の日本の「セカンドライフバブル」が、電通やデジタルハリウッド等の一部の意図によって煽られ、ブームが「作られていた」という説も、全く的外れとは言い難いが、だからといって、全てが電通やデジタルハリウッドによって策略的につくられていたと断じるのも、また大きな間違いだろう。
この当時、セカンドライフの登録者数は確かに驚くべき成長を遂げていた。RMT(リアルマネートレーディング)の仕組みや、仮想世界が初めてリアル世界に現実的な接点を持ち始めたことに、多くのメディアが引きつけられ、日本でセカンドライフブームが起きたことは、ある種当然である。そして、それに加担したのは、すべてのメディアであり、私たちである。すべては電通の仕込んだことだという「電通陰謀論」が世間的人気を集めるのはわかるが、これほどの規模のブームが、電通のみで仕組めたと考えるのも、また過剰であろう。それを言うならその前にまず私たちと、メディア関係者双方のリテラシーが問われなければならない。

いずれにしても、繰り返すが、この当時のセカンドライフの将来予測数字が、その後の実態と遥かにかけ離れたものであったのは確かである。 その後の話は次回に。

続く

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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