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VOCALOIDは電通の夢を見たのか----初音ミクと電通の噂に感じたこと

2007/11/11 03:01
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プロフィール

殿岡良美

幻の博覧会「世界都市博覧会」で、インターネットを応用した公共イベント企画をプロデュースしたことが、ネットでの活動の出発点でした。しかし結果はご存知の通り。あるいはその未完の記憶が満ち足りない思いを私に残してしまったのか、ネットという愛すべきも、摩訶不思議で捉えようのないものに惹かれ続けてきました。リアルとネットが激しい火花を上げている今日。CNETでは、あらゆる前提や先入観にとらわれない視点から、BigBang的なIT論を展開したいと考えています。
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もうかなり昔の話ではあるが、代理店のコンペに参加していると、電通から「然るべきルート」以外のルートで、圧力というか、「ご連絡」が来ることはよくある話だった。記憶に一番残っているのは、別の会社のチームとして、翌日のコンペに間に合わせようと前日の深夜まで、スタッフと企画作業の追い込みをかけていたときの出来事だ。

深夜に鳴った電話は、我々のチームのトップからで、作業をすぐ停止してかまわないと。訝しがると、翌日のコンペの勝者は電通に決まったので(!)それ以上作業を進めても、勝てる見込みがないからというものだった。電話を持ったまま絶句した僕は、それでも何も知らずに必死に作業を続けている自分のスタッフに、その理不尽をどう伝えたらいいのかわからなかった。結局作業の中止を言うことができず、そのまま翌日のコンペを迎え、そして当然のように我々は「落とされた」。

理不尽と言えばそれまでであり、圧力といえばそれまでである。しかしながら、冷静に考えればこれも駆け引きであり「勝負」である。公的な事業ではないから、談合ではない。一回の1時間程度のプレゼンですべてを決しなければならない義務はクライアントにはない。コンペ前夜のぎりぎりの側面で、電通の営業の「工作」が成功したのである。

なによりも、問題は電通の持っている、当時のメディアにおける圧倒的な支配率であって、仮にコンペで他社が電通に勝ったとしても、その後で媒体プロモーションを展開するときに、必ず交渉というか電通に頭を下げなければならなくなる。既存の従来メディアにおける電通の占有率は、当時も、そして今も圧倒的であって、およそ半端な枠ならともかく、いいとこの媒体のいいとこの枠でプロモーションを展開するなら、電通に話を通さないことには難しい。

他社にしてみても、それならコンペ勝者の筆頭は電通に持たせておいて、その下請けに入って媒体以外の分野を担当したほうが効率的である。電通も媒体枠売買という一番手間のかからない仕事のみやって、面倒なSPは他社に任せ、売上を拡大することができる。深夜の交渉にはそんな双方の思惑があったのだと思う。

で、それは日常的に見られることだった。少なくとも当時は。

しかし、今回の初音ミクVS電通の都市伝説のような話には、どうも合理性はないように思える。電通が同時期に売り出そうとするネットアイドルを擁護するために、サーチエンジンの初音ミク画像検索結果や、TBSでの取り上げ方に「圧力」をかけたというような話だが、どうも噂の出所は都市伝説みたいなところがあって、電通の営業が友達だとか、居酒屋で酔っ払って真相を話したとか、まるで信頼できる筋の話ではない。

なによりも、それはないだろうと思えるのは、ニコニコ動画をはじめとするネット空間の中でいかに初音ミクが「ブレイク」したように見えたところで、そして2−3万本程度のソフトが売れたところで、売上は数億円程度。世界の「大電通」がリスクを犯して圧力をかけるような経済的合理性は、ないだろうということ。この程度の「ブレイク商品」はいくらでもあるのであり、その一つ一つに関して「工作」などやっていても、電通の仕事の前には、スケールダイナミズムが違いすぎるとしか思えない。つまり割に合わないはずだ。いずれかの商品のCMなどに組み込みたいなら、変な工作をせずに発売元のクリプトンフューチャー・メディアに「金の力で」堂々と交渉すればよい。同社と電通の確執もささやかれているが、ビジネスベースで問題になるほどのことはないように思える。

冷静に考えれば、「電通悪人説」をとる人たちにも、このことはわかりそうなものであるが、それでも黒幕・電通が初音ミクを脅かしたという話は、巨人電通を悪役として引っ張り出そうとすることで、初音ミクの将来性がいかに恐るべきものであるかというプロモーションにもなるし、一方でここのところ続いている大新聞、テレビ局などの既存メディアへのバッシングが、広告の巨人も対象とするに至ったという、規定の路線の上にあるようにも思う。

あるいは電通の一担当が、個人ベースでよからぬことをTBSの番組プロデューサーにささやいたというようなことは、絶対なかったとは言えないかもしれないが、僕の知る限り、番組制作側と代理店の担当営業は、この程度の「微細な」演出に関して打ち合わせをするような経済的合理性は持ち合わせていないだろう。つまりここでも、そうした工作自体が「割にあわない」のだ。

だが考えてみると、今回の騒動は既存メディアを影から牛耳る電通と、急成長する秋葉原萌え系マーケットとの、接触・軋轢が既に始まっているのではないかと皆に思わせるのに十分な出来事だったし、実際にその予兆はあると思う。

電通が2007年の2月に発表した、2006年の日本の広告費調査によると、総額は5兆9954億円となり、前年比0.6%増と横ばい。いわゆるマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)が2年連続で前年割れとなった一方、約30%増えたネットがラジオの2倍以上に達し、雑誌に迫る勢い。広告市場全体の拡大はネットやCS放送などの新メディアに頼っている状況だ。
 ネットは3630億円・29.3%増。伸び率は前年(55%)から鈍化したものの、順調な拡大が続いた。そのうちモバイルは390億円・35.4%増。検索連動広告は930億円で、ネット全体の4分の1を占めた。

(ITmediaより)

つまりネット広告は黄金の山なのである。

加えて、2006年4月〜6月期における売上高を見ると、インターネット広告を扱う広告代理店のシェア争いは激しい状態にある。総合広告代理店のインターネット広告事業規模は、インターネット広告専業代理店とほぼ同じ規模となっているが、このジャンルではせいぜいが専業の代理店に従来の広告代理店が並んだ程度であり、新聞やテレビのような既存の旧メディアにおける圧倒的な支配体制は、電通にも、ましてや他の代理店にもない。ネット広告の分野は戦国状態だ。

その上、ネット広告だけではなくて、アニメ・ゲームといったいわゆるオタク系市場は、電通のような総合代理店にとっても、見逃すことのできない急成長の新市場になってきていることは疑いがない。こうして考えれば、ことはネット広告市場だけの問題ではない。

むしろ今回の騒ぎから考えるべきことがあるとすれば、既存媒体の枠を大量にあらかじめ年間を通して押さえていることから派生した、従来のような圧倒的なメディア支配力やそれにともなってささやかれる、「電通神話」が、初音ミクやニコニコ動画のような新メディアに特徴的に代表されるようなオタクマーケット(それはもはやニッチとは言えない規模に拡大している)に果たして今後、通用するのかどうかということが具体的に論じられるシーンになってきたということであろう。

歴史的に築かれた電通の圧倒的な力への評価は、深層心理でこれら若年の購買層にも、「恐怖」となって刻み込まれており、それはふとしたきっかけで今回のような行き過ぎともいえるような批判の波となって爆発する。一方で当の電通や総合広告代理店は、この過剰な騒ぎに苦笑いをしながらも、この若くてまだまだ小さいけれど成長率は並外れた新市場を、注意深く見守っていることだろう。

つまり初音ミクを愛する人たちは、今回を見る限り、十分に電通という巨大企業の実像を見ることができているとは思えないが、その近づきつつある足音は感じ取っているのである。そして、おそらくそれは錯覚ではないのだと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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