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「スター・ウォーズ」を超えて---グーグル政府の罪無き楽観性を考える

2007/02/11 14:07
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プロフィール

殿岡良美

幻の博覧会「世界都市博覧会」で、インターネットを応用した公共イベント企画をプロデュースしたことが、ネットでの活動の出発点でした。しかし結果はご存知の通り。あるいはその未完の記憶が満ち足りない思いを私に残してしまったのか、ネットという愛すべきも、摩訶不思議で捉えようのないものに惹かれ続けてきました。リアルとネットが激しい火花を上げている今日。CNETでは、あらゆる前提や先入観にとらわれない視点から、BigBang的なIT論を展開したいと考えています。
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快進撃を続けるルーカスフィルム、「フォース」の源は?--明らかになった「帝国の裏側」(CNET Japan)

は、ルーカスフィルムの基盤を支える、10Gビット/秒という転送率を持つバックボーンに支えられたデータセンターの話題なのだが、この記事を読んで、ああ、ルーカスフィルムもミニグーグルのようなデータセンターを保持しているのだなあとか、フォースも結局はCPUパワーとバックボーンか、などと考えていたら、いささか話題が飛ぶのだが、今年の最初に読んだ「ウェブ人間論」(梅田望夫、平野啓一郎)に書かれていた一節が連想して思い出された。
それは、グーグルや「はてな」の経営者や社員が「スター・ウォーズ」にいたく傾倒しているという話である。

田「少なくとも彼らが政府とか言うときのイメージってすごく単純ですよ、そこに人文科学系の深みのようなものはないです。「スター・ウォーズ」といえば、公開される前日は、シリコンバレーのマウンテンビュー市の映画館全部がグーグルの貸切だったんですよ」

平野「えっ、そこまで?社員全員が見るんですか?みんながその価値観を共有しているんですか?」

梅田「「価値観を共有」といえば強すぎるけれど、けっこう影響はされていると思う。それは、はてなの近藤(淳也社長)たちも一緒で、僕は取締役になるための通過儀礼として「スター・ウォーズ」のDVDを全部見てくれって言われたんですから(笑)。(後略)」(「ウェブ人間論」より)

ほかにも梅田は、はてなの取締役会でブログの更新がないことで「吊るし上げ」にあったときに、本のためにネタを温存していることを言い、さらに「リアルの世界ってやはりすごい」と言ったら「ダークサイドに落ちますよ」などと言われたエピソードを上げている。
「はてな」は、明らかにグーグルの世界観にも影響された企業であると考えれば、それはよくわかるのだが、元々平野氏がここで突っ込んでいるのは、世界中の個人情報や書誌情報を一気に手中に収めようとしている、グーグルの快進撃に、文学者特有の危機感を覚えているからであるが、梅田氏は、その危険はあまりないのではないかと、グーグルの社員たちの楽観性を伝えるための根拠としてスター・ウォーズの話を出している。

もちろん平野氏の懸念は、平野氏だけのものではないのであり、この対談の後で放映されたNHKの「NHKスペシャル|“グーグル革命”の衝撃 あなたの人生を“検索”が変える」では、「世界政府」あるいは「グーグル政府」という概念が紹介されてそれは一定の警鐘のような意味を持たされていた。グーグル本社のロビーの巨大なボードには、社員が自由に構想を書きなぐるというスペースがあるのだが、そのボードの中に、こうした単語が殴り書きされていたことも、カメラが捕らえていた。

「世界政府」については梅田氏の先著「ウェブ進化論」でも使われていた言葉であるが、梅田氏はこれについても、「インターネットの思想はリベラルで開放的で全てを共有していて中央がないというのがベースにある」ので、グーグルといえどもそれを根本からコントロールすることは出来ないし、その志向性もないこと、「世界政府」という言葉から「コントロール」をイメージしすぎるのは違和感を感じるとして、過剰なグーグル警戒論に疑問を唱えている。

この流れで考えると、グーグルのエンジニアや経営者たちが、「スター・ウォーズ」を信奉しているという、どこか寓話のような話も、これらのグーグル警戒論に対する良く考えられた「あらかじめの牽制」ではないかなどと、ひねくれた私はそこまで考えてしまうのだけれど、それは別として。

ところで、世界でもっとも有名な正義と悪との抗争譚である「スター・ウォーズ」は、シリーズがスタートした頃こそ、ずいぶん重層的なストーリーだと考えられたけれど、全貌が明らかになれば、今となっては単純なストーリーであるようにも思える。グーグルのエンジニアたちが、正義を支えるフォースをオープンソースに、そしてダークサイド=商業的堕落=マイクロソフトになぞらえて、自分たちをこの壮大な物語の英雄に組み込みたい心理も、確かに理解はできる。

しかしながら、梅田氏のある種の楽観性を見ていると、私は少し違う思いを抱く。それは平野氏の立場により近いのかもしれないのだが、単純で曇りのない彼らの「使命感」「全能感」の無垢性、そしてコントロールを許さないインターネットの構造に配慮しても尚、グーグルのやろうとしていることは、位相が異なるのではないか、ということである。

「悪意無き」夢に邁進しているエンジニアの行おうとしていることの実態は、明らかに全世界の人類の情報の急速なインデックス化であり、書籍情報については、10年単位の時間の中で、それがほぼ達成されるといわれている。彼らが作ろうとしているのは、人類がこれまで到達したことのない圧倒的な情報集積の仕組みである。それはスター・ウォーズの中ですら、ほとんど描かれていない。(かろうじて惑星系の情報データベースが構築されていることを思わさせる場面はあった)素朴であることはいつも善良であるとは限らないのであって、悪を憎みダークサイドを強く憎み嫌悪するアナキンが、ついにはダースベイダーに堕ちたのも、根にあったのは単純過ぎる正義感の罠であった。

グーグルに限らず、世界規模に成長した企業の必須条件を考えてくると、企業自体の商業的成功の継続への絶え間ざる意志は欠かせないのだが、それだけではなく、おそらく、このグーグルとスター・ウォーズの例に見られるような、ある種の壮大な夢の提示を経営者と従業員とが絶え間なく共有し続けることが必要であったと思われる。「スター・ウォーズ」はそのためには、ぴたりと嵌るいい夢であったのだろうが、さてここからはどうであろうか。少し考えるとこの「スター・ウォーズ崇拝」は、未来に皮肉な運命に晒されることを回避するための、もう一段の知恵が我々に必要とされている時期が近づいているようにも思う。「ダークサイド」とは何なのか、現時点でその答を出すには、マイクロソフトを敵視しさえすればよかった過剰な楽観性は、超越していかなければならないのかもしれない。

平野氏が「ウェブ人間論」の中で、「「ブレードランナー」や「マトリックス」じゃなくて「スターウォーズ」ってところがミソですね」と発言しているこが、このあたりが、将来意外と大きな意味を持つかもしれないという夢想を持つ。
まさに「マトリックス」を体現した「セカンドライフ」が急成長していることを考えると、このあたりの思考や倫理の深化は避けて通れないところではあると思うが、読者はどのように思われただろうか。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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