米国時間1月17日に発表された、Appleの2007年第1四半期決算は、多くのアナリストの予想を遥かに上回るものだった。
アップル、第1四半期決算--iPod好調で10億ドルの利益を計上(CNET)
Appleは米国時間1月17日付けのプレスリリースで、会計年度2007年第1四半期(12月30日締め)の決算を発表した。それによると、iPodの販売が好調だったことが追い風となり、10億ドルの利益を計上したという。
(中略)
売上高は、前年同期の57億ドルより約25%多い71億ドルだった。また1株当たり利益は前年同期が65セントだったのに対し、今回は1.14ドルにまで増えている。
(中略)
決算内容はThomson First Callが事前に集計したアナリストらの予想を大きく上回った。アナリストらは、売上高が64億ドル、1株当たり利益が78セントと予測していた。
この数字だけ見るとピンと来ない向きもあるかもしれないので、「永遠のライバル」Microsoftの数字と比べてみた。期はずれるが、10月26日に発表されたMSの2007会計年度第1四半期の売上高は108億1000万ドルで前年同期と比べ11%増加。訴訟関連費用を含めた純利益は34億8000万ドル。営業利益は44億7000万ドルで前年同期の40億5000万ドルから11%増加したという。
単純化すれば、売上高ベースだと、直近四半期比較では、Apple71億ドルに対して、MS108億1000万ドル。利益は、Apple10億ドルに対してMS44億7000万ドルである。1株利益は、Apple1.14ドルに対して、MSは35セントである。
さて、皆さんはこの数字をどう見るだろうか。ソフトウェアの巨人Microsoftの決算は、もちろんそれほど悪いものではない。実際、昨年10月に発表された当時、多くのアナリストの予想を上回ったものであり、おおむね好調と評された。むしろ驚嘆すべきなのは、それを凌ぐAppleの大飛躍であることがわかる。
直近四半期では、Appleの売上高は、実にMSの60%程に達している。利益はMSが4倍上げているものの、1株利益では逆にMSに4倍の差をつけている。これは数年前には絶対にあり得なかった風景である。
もっともMSも、2007年度には、2006年度内に出荷できなかったVistaが市場デビューすることから、2007会計年度通期(2006年7月?2007年6月)については,売上高が500億?509億ドル、営業利益が191億?195億ドル,希薄化後の1株あたり利益が1ドル43セント?1ドル46セントの範囲と予測されている。
一方のAppleの稼ぎ頭は言うまでもなくiPodであるが、こちらは、2005年が1400万台だったのに対し、2006年は2100万台強であり、売上高は29億ドルから34億ドルへと、18%しか伸びていない。
まだiPhoneなどが売上に貢献するのは先になると思われるので、次の通期決算で、Appleが巨人Microsoftに迫るなどと考えるのは早計であろう。しかしながら、一時は破綻の淵に瀕し、パソコンOSレベルでは、わずかシェア数パーセントまで落ち込んだ同じAppleであろうか。同社をMSと比較しようと思うこと自体が、数年前にはお笑いであったと言ってもいいことを考えると隔世の感である。
明らかに両者の差は急速に縮まってきている。もちろん、その環境を作り出したのは、言うまでも無く、iPodなどのAppleの音楽配信事業への進出の大成功であるが、それだけではない。MS側にも重要な変化が起きている。
マイクロソフト日本法人は15日、個人向けパソコン基本ソフト(OS)「ウィンドウズXPホームエディション」の利用者に、性能向上サービスをするサポート期限(09年1月)を大幅延長する方針を明らかにした。2014年までの5年間が有力だ。日本では、今月30日に世界発売される後継OS「ウィンドウズ・ビスタ」への移行が米国などに比べて進みにくいとの予想があり、現行OSへの依存傾向がしばらく続くとみたためだ。 (Asahi.comより)
Vista登場を目前にして、XPのサポート期限が大幅に伸ばされたわけであるが、それも半端ではない長さである。2014年といえば今から7年後。通常のPCの耐用年数を考えれば、仮に今XP搭載のPCを購入したところで、それを2014年まで使う可能性はかなり少ない。今までのMSの歴代OSのことを考えれば、まさに常識外の長さであると言える。
実は、このサポート期間の大幅延長は、むしろ、次期OSであるVistaのサポート期間が、さらに長くなることを暗示しているといえる。
実際、Vistaが、MSがリリースする「最後の大規模OS」であり、その後はモジュール単位でのOSの補完が行われるのではないかという見方が強くなってきている。その場合には、7年どころか10年単位でVistaとそのモジュールがサポートされ続ける可能性が高い。PCに新しい大型OSがバンドルされて出荷されるという光景は、この冬が最後かもしれないのである。
つまり、MSの重要な収益源であったOSビジネスが、いよいよ「成熟期」に達し始めていると考えることが出来る。もちろんMSがOSにばかり依存しているというのは短絡的であり、法人向けの「SQLServer」やXbox Liveのようなオンラインサービスもある程度順調に伸びている。しかしながら、往時のMSの大発展を支えたOSビジネスが終焉にきていることだけは間違いないのであり、そう考えると同社は、かつてのような急成長のペースを守ることは今後益々難しくなってくるであろう。
評判のVistaにおいても、パソコンメーカーと足並みをそろえて、要求機能の高い比較的高額なマシンにバンドルして一斉に出荷し、PC市場を刺激するという手法は、全く従来どおりであると言ってもいい。次々と登場するOSのソースコードが巨大化するために、PCメーカーはそれを追うのに躍起であり、マシンの価格は技術革新効果を打ち消すほど、価格下落が起きていない。そのため、多くの法人は相当長いシフトでVistaに移行すると見られている。
さらにネット上には、Googleという巨人も出現しているのであり、「あちら側」のサービスの急発展の前には、「こちら側」=クライアント側のOSが雌雄を決する時代は過去のものとなろうとしている。
一方Appleはどうか。こちらのほうは、今後急速に音楽配信事業や、携帯事業、AppleTVなどのコンテンツ配信事業でさらなる市場を切り開く可能性が高いと誰もが見るようになってきた。なにしろ、地球上には既にPCが累積で10数億台出荷されているのに対して、それより遥かに安価であるiPodはまだ6000万台程度「しか」売れていないのである。
さらにAppleが言うとおり、携帯電話で1%の目標シェアをiPhoneが獲得すれば、1000万台を超えるiPhoneもその売上に寄与することになるし、AppleTVについては未知数であるが、コンテンツ部門で圧倒的に優位を築く可能性がある。こうして要因を積み上げていくときに、将来性・可能性のある企業は、今のところ、圧倒的にAppleのほうであると、現段階では判断せざるを得ないと思う。
もちろんMSは今後も巨大な企業であるが、圧倒的パワーではなく、「普通の企業」になっていくと思う。
もしもAppleが現在の好調を維持し、MSがオンラインサービスやエンターティメントの分野で画期的な「次の成功」を見出すことができない限り、の話だが、数年以内に家電・携帯・ITの分野において、MSとAppleが互角に水平に並び立ち、それをGoogleが見据える、かつて我々が予想もしていなかった世界が登場するだろう。その混沌の中から、もう一度抜け出すのがどの企業なのか、それによって、我々の将来の生き方のスタイルは大きく異なることになるだろう。
Appleは長い間、初期の圧倒的成功にも関わらず、Microsoftの「影」だった。影は永遠に続くかと思われたが、光と影は思えば表裏一体。今後、何が起きてもおかしくはない。
さて、ここに日本企業が・・と話をし始めると、いつものとおり悲しい愚痴になるので、今日はこのくらいにしておこうと思う。