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2045年のGoogle

2006/09/18 00:31
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ギートステイト制作日誌

2045年の日本を社会学や情報技術といった視点から描き出すプロジェクト「ギートステイト」。批評家の東浩紀氏、エンジニアの鈴木健氏、小説家の桜坂洋氏の3人が「未来」の制作過程をお伝えします(このブログの更新は2007年1月4日で終了しました)。
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こんにちは。鈴木健です。今回は2045年のGoogleを予測してみたいと思います。

1998年に創業したGoogleは急成長を遂げ、瞬く間に巨大企業へとのし上がりました。最新四半期の売り上げは25億ドル近く、利益は7億ドル以上ですから、年間売り上げ1兆2000億円、税引き後純利益3400億円に相当します。これは、マイクロソフトの利益が1兆5000億円、トヨタの利益が1兆2000億円であることを考えると、創業10年未満の企業とは信じられません。創業事業であるウェブのテキスト検索だけでなく、イメージ検索、Google Map,Google Earth,Book Search,公衆無線LANサービス,orkutのようなSNSサービス、ブログホスティングのblogger,writelyやGoogle SpreadSheetのようなAjaxオフィスツール,Gmailなど数々のサービスを成功させています。

では、あと40年ほどたった2045年のGoogleはどのような企業になっているのでしょうか。少々想像力を働かせてみましょう。6月に書いた設定用資料にコメントを書く形で紹介したいと思います。

Google主義(Googlism)

1998年、検索の会社として産声をあげたGoogleは、瞬く間に巨大企業へとのし上がり、IPOを成し遂げた。その時代のGoogleのミッションは「世界中の情報を組織化し、世界中のユーザーが その情報を利用できるようにすること」であった。

2036年、Google Human Grid部門の創始者ジェニファー・ポランニーがCEOに就任すると、"From Search to Resource"をキーフレーズとして大規模な部門再編を行った。

Human Gridとは、文字通り人間グリッドのことです。グリッド・コンピューティングという計算機科学の分野があります。これは遊休している計算機資源を連結させてひとつの計算機とみなし、大規模な計算を実行するための計算機アーキテクチャのことをいいます。人間グリッドでは、遊休している計算機ではなく、遊休している人間を利用します。たとえば、100万人以上の人間の脳の能力を連結し、ひとつのコンピュータとして利用してしまいます。その初等的な例としては、人力検索はてなや、いわゆるコミュニティサイトなどもそれに当たるでしょうか。しかし、これらのシステムではリアルタイム性が低いといえます。

たとえば、会議中のたった今知りたいことがあるという時に、人力検索はてなで質問して返ってきた答えが2時間後であったらちょっと遅いですね。CGM(Consumer Generated Media)にリアルタイム性が要求されると、それは人間グリッドになるのです。同時に数百万人以上の脳資源が利用可能なため、統計的に3秒以内で解答が返ってくることを保証できたりします。このため、このリクエストはプログラムから呼び出し可能になります。

ご存知のとおり、プログラムから呼び出し可能な人間グリッドこそ、Amazon Mechanical Turkそのものです。そもそも仕事には、人間が得意なタスクと機械が得意なタスクがあります。このうち機械が得意なものはプログラミングで処理し、人間が得意なものはプログラムの中で「ここは人間がやる」と書いてしまいます。すると、実行時にそのタスクが市場でマッチングされ、3セント程度の非常に安い値段で取引され、ネットのどこかの人間がこなすのです。

"Mechanical Turk"とは、そもそも18世紀末にヨーロッパで話題をさらったチェスを指す機械に由来しています。このTurkは世界中を巡業して、フランクリンやナポレオンにも勝ったらしいのですが、実際にはこの機械の中には人間が入ってチェスを指していました。

Amazon Mechanical Turkは、エンドユーザから見ると、あくまでもプログラミングされた機械にすぎません。しかし、機械のあちら側にいる不特定多数の「人間グリッド」を組織化し、従来のAIやコンピュータができないようなタスクを「コーディング」して、いわば現代版のサールの「中国語の部屋」を作ろうという計画なのです。

リアルタイムに反応する数百万人の人間グリッドノードを調達するためにGoogleが目をつけたのがオンラインゲームでした。オンラインゲームで遊んでいる人たちを人間グリッドのノードとし、依頼主から発注がくると、Googleがその仕事をゲームに変換して多人数に仕事させる。これがゲームプレー・ワーキングの仕組みです。以下にゲームプレー・ワーキングを実行するためのGoogle Total Lifeのサービス構成図を描きます。

GTL.PNG

そして、ポランニーは組織再編と共にGoogleのミッションを再定義します。

彼女は「世界中の資源を組織化し、世界中のユーザーがその資源を利用できるようにすること」がGoogleのミッションであると再定義した。

これにより、Googleはresourceと名のつく10個の部門に再編成された。

Data Resource部門:Data Grid,LifeLog,検索など
Human Resource部門:Human Gridなど
Energy Resource部門:エネルギーの需給マッチング市場など
Material Resource部門:リサイクル市場のマッチング、中古物販売など
Financial Resouce部門:金融市場事業。財務部門。
Space Resource部門:不動産仲介。宇宙ビジネス。どうやら空間の再利用ということらしい。
Time Resource部門:光ファイバー事業、輸送事業、軌道エレベーター事業。
Life Resource部門:ES細胞による再生医療事業。DNAデータストレージ事業。臓器売買仲介など。
Play Resource部門:PlayLandなどのエンターテイメント事業。
Security Resource部門:治安事業。

ジェニファー・ポランニーは、Human Gridとオンラインゲーム事業を成功に導き、GoogleのCEOになりました。それに伴い、とうとうGoogleのミッション自体を再定義して、部門再編に乗り出すのです。ここで彼女が持ち出すのが、世界を資源とみなす視点です。

世界を資源とみなせば、エネルギーが資源なのはもちろんのこと、有機物質は生命の資源ですし、廃棄物もリサイクルシステムの資源となります。もちろん、時間や空間も資源なので、時間という資源を節約する移動システムや、空間という資源を獲得するための宇宙ビジネスも対象になるのです。人間グリッド事業もそうした資源ビジネスの一つです。

この時代には、Googleの創業事業である古典的な検索は、Data Resource部門のさらに一部門となっています。

2038年、フランスの著名な社会学者、ラウ・チェンは、著書「ルーマンとグーグル」で「世界を全て資源とみなして再編成しようというGoogle主義は、20世紀初頭のフォード主義にかわる新しい生産プロセスの革命である」と分析した。

Google主義の実践者であるジェニファー・ポランニーは、生物化学で博士号を取った後、数理社会学に転じ20世紀末の理論社会学者ニクラス・ルーマンを研究した。英国サセックス大学で社会学の助教授を務めた後、Googleに転じる。ルーマンによれば、社会システムはコミュニケーションを構成素としたオートポイエーシスである。あらゆる化学物質が生命を構成するための資源であるのと同様に、あらゆるコミュニケーションは社会を構成するための資源としてみなすことができるとのこと。彼女はルーマンの熱烈な支持者で、「Googleはニクラス・ルーマンの死と共にはじまった」と事あるごとに言うらしい。(実際に1998年はルーマンが死去した年であり、Googleの創業年である)

ジェニファー・ポランニーの祖父はノーベル化学賞受賞者のジョン・ポランニーであり、曽祖父は物理化学者・社会科学者のマイケル・ポランニーである。

Googleとルーマン、関係ありそうで関係なさそうなこの二つのキーワードのミッシングリンクは、テリー・ウィノグラードという計算機科学者にあります。彼は、Googleの創業者ラリー・ペイジのスタンフォード大学での指導教官であり、PageRankの原論文の共著者でもあります。Googleでサバティカルをすごしたこともあります。

Lawrence Page, Sergey Brin, Rajeev Motwani, Terry Winograd, 'The PageRank Citation Ranking: Bringing Order to the Web', 1998,

ウィノグラードはもともとは古典的AIの研究で名をはせましたが、一転して人工知能批判に転じます。チリ出身の政治家・哲学者フェルナンド・フローレスとの共著で、「コンピュータと認知を理解する―人工知能の限界と新しい設計理念」という本を著しますが、ここにはオートポイエーシスという生物システムについての理論からコンピュータが論じられています。オートポイエーシスは、フローレスと同じくチリ出身の生物学者マトゥルーナとヴァレラによって考えられた概念です。フローレスを通じて計算機科学の中で一定の位置を占めるようになったように、オートポイエーシスは、ドイツの社会学者ルーマンによって理論社会学の社会システム論に採用されます。日本だと、社会学者の宮台真司さんがルーマンの社会システム論が好きで有名ですね。ジェニファー・ポランニーはそのルーマンを研究していたという設定になっています。

GoogleのPageRankは、アンチAI的なアプローチ(最近のAI研究者からは、そんな典型的なAI学者はいないとおこられそうですが)ですが、実はその辺に微妙に影響しているのが、オートポイエーシスだったわけです。そうしたことから、Google社の4代目のCEOに就任したポランニーは、Googleを新たなステージに引き上げる中興の祖となります。

ギートステイトの舞台となる2045年は、そうした「コンピュータと人間の関係」が検索を飛び出して、新たな次元に移行していく時代となっています。

そういえば、最近、渋谷に「有人自販機」ができたらしいです。現代のTurkですね。

 

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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