キヤノン、「白飛び」「信号の点滅」の抑制を図った「SPADセンサー」を開発 自動運転車などに応用可

 キヤノンは6月12日、新型の「SPADイメージセンサー」を開発したと発表した。量産開始は2031年度頃を予定。自動運転車などへの応用が期待できるものとなる。

キヤノンが開発した、新型のSPADイメージセンサー キヤノンが開発した、新型のSPADイメージセンサー
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 現在のデジタルカメラでイメージセンサーとして一般的に採用されるCMOSセンサーは、一定時間に画素に貯まった光の量を測る仕組みとなっている。一方のSPADセンサーは、画素に入射した光の粒子「フォトン」を一つずつ数える仕組みだ。CMOSセンサーでは読み出し時にノイズが発生しやすいが、SPADセンサーではこれを抑えられるため、暗所の撮影が得意というメリットがある。一方で、1フォトン毎のカウントが必要であるため、高照度撮影には向かないというデメリットもある。

 また、自動運転車の周囲認識用カメラなど、車載用途のカメラでは、夜間でも確実な撮影が必要となる。SPADセンサーはCMOSセンサーよりも暗所環境に向いているが、対向車のヘッドライトのような高輝度では白飛びし、認識できない映像が撮影されるおそれがある。加えて、近年主流のLEDを採用した信号機では、人間の目では認識できない速さで点滅しているが、カメラではこれを捉えることが可能で、消灯したタイミングを撮影してしまう懸念もある。車載用カメラでは、これら3点を確実に認識しなければならない。

 同社が今回開発したSPADセンサーでは、「重み付けカウント方式」を採用した。撮影する秒間30コマのうち、1フレームをさらに、「+8」から「+1」までの8つのサブフレームに分割。数字が大きい方がサブフレームの時間が短く、小さい方が長くなっている。明るいシーンであれば、フレームの撮影が開始した時点でフォトンが入射するが、暗いシーンでは入射までに時間を要する。これにより、サブフレームのどのタイミングでフォトンが入射したか測定することで、明るさを推計する仕組みだという。この方式を採用した結果、ダイナミックレンジの拡張、フリッカーの抑制、低消費電力化を実現したとしている。

「重み付けカウント方式」の概要 「重み付けカウント方式」の概要
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 米国運輸省道路交通安全局(NTHSA)では、2029年9月以降に発売する全自動車に対し、自動緊急ブレーキの搭載を義務付けるとしている。要件としては、0.2ルクスの環境照度で、時速73キロかつヘッドライトはロービームで走行中に、100メートル先を横切る歩行者を認識する必要があるという。これに対し、米自動車イノベーション協会は、「利用可能な技術では実質的に不可能」と見直しを求めていたが、NHTSAはこの要請を退けている。

 一方、今回キヤノンが開発したSPADセンサーでは、0.1ルクスの環境下で、120メートル遠方の歩行者の認識に成功。加えて、LED信号機のフリッカー抑制も実証したという。

新型SPADセンサーによる0.1ルクス環境下での検証映像 新型SPADセンサーによる0.1ルクス環境下での検証映像
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 なお、今回のSPADセンサーについて、キヤノン執行役員で、デバイス開発本部 デバイス開発統括部門の統括部門長を務める櫻井克仁氏は、「産業用、医療用など、様々な用途に広がる可能性がある」と説明。車載用途に特化したものではなく、多方面に適用可能であることを示した。また櫻井氏は、コンポーネントとしての販売を検討していると説明。SPADセンサー搭載カメラを自社で完成させるだけでなく、パートナーにセンサーを供給する形での商品展開も視野に入れているとしている。

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