SiriやAlexaの次へ--これからの生活を便利にする「AIエージェント」とは

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年01月16日 07時30分

 最近のスマートフォンは、新しい生成AI機能で生活を便利にするとうたっている。例えば、文章を自動で作成できる、簡単な指示だけで画像を生成できる、写真から不要な人物や物を削除できる、といった具合だ。しかし、テクノロジー業界はすでに次の目標に照準を合わせている。それは次世代のAI、「エージェンティックAI(Agentic AI)」だ。エージェンティックAIは、いわばユーザーのニーズに応えるAIエージェントであり、ユーザーに合わせて情報や提案をカスタマイズし、もう1つの脳としてユーザーをサポートすることで、デバイスの使い方を一変させる可能性を秘めているという。

会話するAIのイメージ 提供:Getty Image/Zooey Liao/CNET
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 平たく言えば、スマートフォンメーカーやガジェットメーカーは、AIエージェントを「Siri」などの音声アシスタントの強化版と捉えている。AIエージェントは、ユーザーが使っているアプリやデータ、ウェブ検索などに基づいてカスタマイズした答えをユーザーに返す。賢くなった未来のAIは、現在の音声アシスタントにはできないこと、例えばユーザーのニーズを予測したり、複雑な質問を理解したりすることもできる。

 QualcommやMediaTekなどの半導体メーカーは、すでにAIエージェントを事業計画に盛り込み、今後数年をかけて推進していく考えを明らかにしている。両社は、2025年に登場するプレミアム「Android」スマートフォンに搭載される最上位プロセッサーを発表した際、AIエージェントに言及した。

 McKinsey & Companyのシニアパートナー兼アナリストのLari Hamalainen氏は、「われわれの言うエージェント、パーソナルデバイスに搭載される(生成)AI駆動型エージェントとは、ユーザーの状況を把握し、日常生活や予定、ニーズに合わせてカスタマイズしたアドバイスを提供できるソフトウェアのこと」だと語る。

 Hamalainen氏によれば、AIエージェントにはたった1つの使命しかない。それは「いかに自動化し、人々の生活を便利にするか」だ。

 最近のトレンドである生成AIは、2023年末に発売されたGoogleの「Pixel 8」シリーズの上位機種にいち早く搭載された。続いて、2024年に発売されたサムスンの「Galaxy S24」シリーズにもAI機能が搭載され、さらにAppleも「iPhone 15」と「iPhone 16」に独自のAI機能群「Apple Intelligence」を搭載した。IDCの最近のレポートによれば、生成AI機能は今後、より安価な端末にも広がり、2028年には約70%のスマートフォンに搭載されるという。しかし、AIエージェントが登場する時期については、アナリストらは具体的な予測を避けた。

 一方、「AIエージェント」という言葉こそ使っていないが、Googleの「Gemini」や、スマホカメラやスマートグラスを介して物体を認識する「Project Astra」などの技術は、現在のAIと、AIエージェントに代表される次世代のAIをつなぐもののとなるだろう。Googleは先頃、サムスンと共同開発した「Project Moohan」のコンセプト機を発表した。これは拡張現実(AR)とAIを組み合わせたARヘッドセットで、バイザー越しに見える現実の世界に説明文を重ねて表示できる。GoogleがAIソフトウェアとハードウェアの実験を続け、AIエージェントの実現に取り組む過程で、AIに対するユーザーの信頼も高まり、クエリやタスクを任せるようになるかもしれない。

 とはいえ、現時点ではAIエージェントは概念の域を出ておらず、AIブームに乗るために企業が描いた青写真にすぎない。適度な懐疑心を持つことが必要だ。「ChatGPT」や「Midjourney」などのAIツールを自宅で使う人は増えているが、業務に広く組み込まれるには至っておらず、ましてや移動中に使う人はまれだ。では、エージェンティックAIがコンピューターやスマートフォンに搭載された場合、日常生活はどのように変わるのだろうか。

AIエージェントは助手のように問題解決を助けてくれるかも

 AIエージェントは未来の技術であり、明確な定義はまだない。しかし専門家によれば、1度に1つの質問にしか答えられない現在のSiriや「Googleアシスタント」と異なり、複雑なリクエストにも答えられるようになるという。ユーザーに代わって、他のAIエージェントと交渉することさえできるかもしれない。しかし生成AIや5Gがそうだったように、この最新トレンドもまだ普及に欠かせない「キラーアプリ」を見つけられていない。

 筆者がAIエージェントについて初めて耳にしたのは、MediaTekが最新のモバイルチップセット「Dimensity 9400」に「Dimensity Agentic AI Engine」を搭載すると説明した時だった。これは、Dimensity 9400を搭載したスマートフォンではAIエージェントが使えるという意味ではない。デバイスメーカーや開発者が独自のAIエージェントやアプリを構築するためのツールセットを提供する、という意味だ。開発者は、このエンジンを使ってアプリ内検索を強化したり、個人データをもとにユーザーの行動やニーズを予測し、例えばスケジュールに合わせた行動を促したりすることが可能になる。これはアプリメーカーがAIエージェントを取り入れたり、独自に開発したりするための最初のステップとなるだろう。

 MediaTekと競合する半導体メーカー、Qualcommも負けてはいない。Qualcommは10月にハワイで開催した「Snapdragon Summit」で、AIエージェントを使って人々の習慣を変える方法を紹介した。同イベントでは、上級バイスプレジデント兼技術企画・エッジソリューション担当ゼネラルマネージャーのDurga Malladi氏が、AIエージェントはアプリの中から関連情報を探しだし、ユーザーのスケジュールをもとにアドバイスをカスタマイズし、ユーザーが指示する前に提案することさえできると語った。

Snapdragon Summitの様子 提供:David Lumb/CNET
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 「遍在するAIによるプロアクティブコンピューティングの時代が始まりつつある。AIは常にバックグラウンドで稼働し、ユーザーの次の行動を予測して、求められる前に解決策を提案するようになるだろう」とMalladi氏は予測する。

 いずれはAIエージェントがアプリを完全に置き換えることになると、Qualcommはみている。ユーザーが質問するだけで、あとの作業はエージェントがすべて引き受け、明確な答えだけを返す。Malladi氏は10月、「(アプリが)なくなるわけではないが、表からは見えなくなる」と、米CNETのシニア欧州担当記者Katie Collinsに語った。

 これはアナリストらが今後数年間に起きると考えていることとも一致するが、この認識は、AIがユーザーに代わって行動するためには、ユーザーに関する情報をどれだけ把握している必要があるかという新たな問題を提起する。AIエージェントに支払いやスケジュール調整を任せるためには、認証情報へのアクセス以上のものが必要だと指摘するのはTechsponentialのプレジデント兼主席アナリスト、Avi Greengart氏だ。ユーザーの好みを深く理解していなければ、ユーザーの意向に沿った意思決定はできない。ユーザー自身がAIを信頼する必要もある。

 「これは単なる技術的な問題ではなく、個人的かつ文化的な問題だ」とGreengart氏は言う。

未来の車載AIエージェントにできること

 生成AIが消費者向けガジェットに搭載されるようになったのはごく最近のことだが、大手テクノロジー企業は何年も前から車載AI技術に投資してきた。車載AIの究極の目標は今も自動運転技術だ。サンフランシスコなどの都市ではすでに自動運転のロボタクシーが路上にあふれているが、一部のテクノロジー企業は自動車にAIエージェントを統合する方法を模索しはじめている。

 QualcommはSnapdragon Summitで2種類の自動車向けチップを発表し、Mercedes BenzとLi Autoの将来のモデルに搭載するとした。Qualcommは、これらのチップがいかに自動車生活の利便性を高めるかを説明し、未来の自動車ではニューラルプロセッシングユニット(NPU)を活用して、車内外のさまざまなセンサーを操作できるようになると語った。こうしたセンサーには道路をスキャンする車外センサーだけでなく、乗員の動きを追跡する車内センサーも含まれる。例えば、窓を指しながら「その窓を開けて」と言えば、指示通りに窓が開く。

 いずれ自動車にはAIエージェントが搭載され、ドライバーの体験をさらに強化するというのがQualcommの考えだ。車載チップは処理能力が高く、ドライバーのデバイスネットワークと同期して、その機能を拡張するだけでなく、複雑なソリューションも実行できる。例えば車で帰宅中にディナーの予約をエージェントに頼むと、ユーザーの普段の行動や好みに沿った候補を提示してくれるといったことが可能になるとQualcommのMalladi氏は言う。

 「『こちらが予約可能なメニューです。今はレストランに向かって運転中なので、私の方で読み上げましょうか。それと、奥様にもSMSを送り、現地で落ち合うようお伝えしました』と、(エージェントが)言ってくるかもしれない」と、Malladi氏はSnapdragon Summitで語った。同氏は受け身のAIと、推論し、自発的に行動するAIの違いを強調し、「この例では、エージェントはユーザーの次の質問を見通している」と語った。

 しかし、AIエージェントの主戦場が自動車になるという主張をそのまま信じることはできないと指摘するのはアナリストのHamalainen氏だ。Qualcommや自動車メーカーがAIによる車内体験の向上を喧伝するのは、自社にとってメリットがあるからだ。自動車がAIエージェントの主役になるほど、人々が自動車の中で過ごす時間は長くない。そもそも自動車を持たない人が大勢いることを考えると、AIの中心は自動車だという主張には無理がある。

 「自動車が人々の生活にとって重要なデバイス、重要な資産であることは間違いない。いずれは自動車の内部で多くのAI処理が行われることになるだろう。しかし、それは必ずしも個人的なエージェント体験とは結びつかない」とHamalainen氏は言う。

 その一方で、同氏はAppleがiPhoneをAI体験の中心に位置づけることは理にかなっていると指摘する。「ほとんどの場合、人間と自動車の結びつきはスマートフォンほど密接ではない。スマートフォンとの結びつきの方がはるかに強い。スマートフォンは常に手元にあるからだ」と同氏は言う。「しかし、自動車は違う」

AIエージェントが変えるスマートフォンの使い方

AIに旅行の計画を依頼する様子 提供:Oscar Wong/Getty Images
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 生成AIは徐々にスマートフォンに組み込まれつつあり、その用途は文章の生成からSiriなどの音声アシスタントの応答の改善、画像のアップグレード、写真編集機能まで多岐にわたる。しかし、スマートフォンメーカーが語ったバラ色の未来や人々が思い描いた便利な使い道はまだ現実のものにはなっていない。

 米CNETはAIエージェントの可能性に注目しており、いずれは現在よりも重要で興味深い用途が登場し、複雑なタスクにも対応できるようになると考えている。スマートフォンに搭載されたAIエージェントは、期限ぎりぎりでのタスク調整、個人の好みを反映した旅程作り、計画を守るためのリマインダー送信などを通じて、人々の日常生活を支えるようになるだろう。

 しかしAIエージェントが普及するタイミングに関しては、一致した意見はまだない。AIエージェントを実現するためにはモバイルチップの改良から、一貫性のある出力を可能にする大規模言語モデルの進化まで、乗り越えなければならない技術的課題がいくつもある。しかし、もっと重要なのは誰もがスマートフォンでAIエージェントを動かせるだけの環境をどう構築するかだ、とHamalainen氏は指摘する。OpenAIにとっての課題は、ChatGPTに日々寄せられる大量のリクエストをいかにさばくかだけではない。毎年出荷される何億台ものスマートフォンに搭載されたAI機能から、絶え間なく送られてくるリクエストをどう処理するかだ。

 「(スマートフォンは)利用頻度が高い。日常的に使う人なら、1日5時間程度は使う。これは簡単にさばける量ではない」とHamalainen氏は言う。「OpenAIや、『Copilot』を提供するMicrosoftなどの企業は、このレベルのリクエストに常時さらされているわけではない」

 QualcommはSnapdragon Summitで、将来の拡張現実(AR)はAIエージェントと密接に連携するようになると断言した。特に、ARグラスが捉えた映像はユーザーの質問と結びつけられるようになるという。この分野のガジェットはまだ初期段階にあり、主流のモデルは「Ray-Ban Metaスマートグラス」くらいしかないため、インターフェース(「Apple Vision Pro」のジェスチャー操作を含む)の普及は当分先になるだろう。GoogleのProject AstraはAIと視覚インターフェースの融合を進めており、まだテスト段階を出ていないが、メガネ型ハードウェア向けの新たなソフトウェアソリューションが登場する可能性がある。

 アナリストらは、消費者は近いうちに新たなインターフェースとして、音声操作を取り入れるようになると予測している。「Alexa」のユーザーや、Googleアシスタントを使ってスマートホームを構築している人々は、音声でのガジェット操作に慣れつつある。手がふさがっている時やアクセシビリティーの問題がある時は重宝する機能だ。しかし、音声操作が受け入れられると考えられている大きな理由は、大手IT企業がSiriなどの音声アシスタントの開発に取り組み続けた結果、音声アシスタントが多くの携帯端末に搭載され、ワイヤレス仕様のイヤホンを使って音声で指示できるようになっているからだ。AIエージェントへの道は、これまでのタッチベースの体験を手放した先にあるのかもしれない。

 「デバイスの体験も大幅に自動化され、音声コマンドだけでスマートフォンを操作できるようになる」とHamalainen氏は予測する。「現在、指で(タップして)操作していることの多くは自動的に処理されるようになるだろう」

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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